第186話 フィル・ボルグ皇城にて
人類領域大陸西方を北のネミディア連邦と二分し、南側に位置するフィル・ボルグ帝政国、その広大な国土のほぼ中央にフィル・ボルグ帝政国の皇城にして首都、“帝城”は存在していた。
“帝城”は都市そのものが帝王の居城である城塞と一体化しており、その都市に居住を許されている市民は十数万人が存在する。この人数は人類領域大陸に遍く他の都市の住民の収容数を大きく超えており、しかし、その人民の多くは騎士階級以上の爵位を持つ貴族となっており、同都市において最下層の市民ですら従騎士身分の準貴族階級が占め、帝政国では奉仕身分とされる一般市民以下の下層階級民が排除されていた。
フィルボルグ帝政国において、貴族とはイコール人型機動兵器SFへの搭乗資格を有する戦闘階級である。即ち“帝城”というその都市はフィル・ボルグ帝政国の最大戦力が常時駐留する巨大な軍事基地と言っても過言ではないものであった。
“帝城”という都市城砦は、天に向かって聳える巨大な尖塔を有する中央皇城と、それを中心に放射状に伸びる大通りを基点として八方位に都市街壁と一体として築かれた八塔砲城と名付けられた八つの支城からなる。中央の尖塔は剣を思わせる厳つい威容を誇るが中央皇城と八塔砲城は鋭角を排し、流線形を描いたアーチにより相互に有機的に連結されており、三つの円環状構造体がアーチの上から天蓋の様に重なり、太陽の輝きを遮る事無く、支城と皇城の繋がりを強固な物としており、外から見ればその城砦都市は全てが一体の物としか思えないであろう姿をしていた。
“帝城”を北と南に貫く大路の始点、中央皇城正面に設けられている謁見広場に駐機姿勢を取ったフィル・ボルグ帝立騎士団のSFがざっと見渡して数百騎、帝室近衛の“AVENGER”数十騎を中心に扇形を描き整然と並んでいる。
黒騎士達の最前、帝室近衛の先頭には操縦者それぞれに専用の改造を施され、操縦者のパーソナルカラーにより装甲を縁取られた一二騎の“円卓”仕様“AVENGER”がそれぞれの手にした主兵装を捧げ持ち、駐機姿勢を取って中央皇城に設えられた帝王専用バルコニーへと機体を向け機体の頸部操縦席隔壁を開放している。
パイロットスーツを纏った操縦者たちは自らの機体の足元にて機体と同様に片膝を着き、中央皇城のバルコニーから姿を現すであろうフィル・ボルグ今上帝へと臣下の礼を取り、その頭を垂れていた。
“円卓”の中央には装甲に金色の縁取りを施されたSFの姿がある。その機体のみは特殊改造仕様の“AVENGER”ではなく、フィル・ボルグ製SFの特徴を備えながらも“AVENGER”のような黒の装甲を持ち、鈍重そうな金で縁取りされた全身甲冑を纏う。しかし、“AVENGER”とは違い、その肩部にはどちらにも可動腕式攻性防盾は無く、その機体は“AVENGER”の前世代騎である“REVENGER”のものにより近い姿をしていた。
金黒の騎士騎を駆る操縦者は、機体を降り臣下の礼を取りながらもその顔貌は目元から鼻までを覆う金色の仮面に隠されている。
「“円卓”筆頭、黄金、アラン・スミス=ゴルド及び麾下、帝室近衛、並びにフィル・ボルグ帝立騎士団三百騎、御前に罷り越してございます」
その隣りに駐機している“円卓”仕様“AVENGER”たちが筆頭であるアランに続き、次々に声を上げ始めた。筆頭の金仮面に続き、機体の両肩に可動腕式攻性防盾を装備し、灰褐色で縁取りされた“AVENGER”の足元に跪く熊を思わせる大柄な男の声が轟く。
「“円卓”、灰褐、ヒューゴー・セピア=レイノルズ、御前に」
ヒューゴーの後に顔を上げたのは両肩の装甲のみを大型化し全身の装甲を軽量化した紅で縁取りのされ、通常仕様騎の様に左肩のみに可動腕式攻性防盾を装備する“AVENGER”の傍に片膝を着いた婀娜っぽい三十路女だ。
「“円卓”、紅、アガサ・ヴィータ=マジェンタ。先にアタシととなりのこいつの不調法を謝っとくよ。いつも通りお目溢しくださいな」
アガサに続いて紅の機体の隣に置かれた瑠璃色で縁取りをされた“AVENGER”の足元で落ち着きのない様を晒していた少女が笑顔を浮かべ顔を上げる。
「“円卓”、瑠璃、ラピス・バーバラ=エンデ。余計なこと言わないようにだまってま~す」
少女の様をふん、と鼻で笑い、装甲を蒼で縁取りのされた両肩に可動腕式防盾一体型折り畳み銃身長距離狙撃銃を装備し、さらに両腕に複合式二連銃身狙撃銃と射撃兵装ばかりを身に纏う“AVENGER”の足元に立ち上がった青年が皮肉気に口元を歪めた。
「“円卓”、蒼、ダレン・ペイル=ユークリッド。お仰せに従い来ましたぜ」
黒の装甲を雪白で縁取りされた“AVENGER”の陰から踏み出した現“円卓”において唯一高位貴族出身の青年はダレンを指差し、“円卓”の面々を見回して口を開く。
「ダレン卿、卿は、いや卿も、だが、諸君らもう少し言葉遣いを直し給え、それは主上への言葉遣いとは言えん。……んん、――“円卓”、雪白、マイト・デュアル=アラバスタ、御前に参上仕りました」
マイトの“AVENGER”はヒューゴー騎と同様に両肩に可動腕式攻性防盾を装備し、高周波振動刺突剣を主武装としていた。黒の装甲に菫の縁取りの施された“AVENGER”から一際小さな少女が一歩前に出る。
「“円卓”、菫、ヴァイオレット・エマ=ワトスン来たの」
現“円卓”においてラピスと共に最年少であるヴァイオレットは、マイトの言葉を遮るようにマイペースに声を出した。ヴァイオレットの機体はラピスの機体と同様に腰背部にリア・ファル反応炉が追加装備されている。そして、両肩部のみならず、腰部側面、さらに追加装備した反応炉を覆うように一対の可動腕式攻性防盾を装備し、両腕に大型回転式機関砲を抱えていた。
続けて五人、総勢十二人の“円卓”が声を上げ終えると、中央皇城のバルコニーからフィル・ボルグ今上帝がその姿を現した。




