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第180話 人が人たるが故に

「ふむ、そろそろ、止め時かな。上階に戻って他の職員達と合流しようか。皆、お腹もすいただろうしね」


 アーヴィングはコンソールに指を走らせスクリーンに映る映像を操作して停止、顔を上げ職員たちへと振り返った。老紳士に促され、この場所に降りてきた際に利用した床面と一体化したエレベーターの周囲に一緒に降りてきた職員たちが集まって来る。だが、ガードナー私設狩猟団の技師長はただ一人、映像が消え、元の透明さを取り戻した壁面を腕を組んだまま睨み付け、狩猟団の団長である老紳士へと声を発した。


「大将、あれは。今までのこの映像は本物か? あれは本当にあった事だってのか?」


「ダスティン、まあ君がそう思うのも、無理はないな。あの内容ではね」


 ダスティンの唸る様な問い掛けの声に、アーヴィングは苦笑をこぼして返答し、職員達の顔を見回して言葉を区切ると(おもむろ)に続ける。


「これは僕の、ガードナーという一族に伝わっている。いうなれば、そう、お伽噺みたいなものさ。君達はこの内容をそのまま鵜呑(うの)みにする必要はないよ。でもダスティン、その様子だと何か疑問があるのかい?」


「ああ、大将。俺達の先祖である人間を造り替えたCOUNTERFATEカウンターフェイトが地上に出た後、今の様にその子孫である俺達がフォモールに襲われる様になったのは何故だ? さっきの映像を信用するなら、俺達はこの身体に環境保全分子機械フォモールナノマシン群を飼っている筈だ。基本的にフォモールはフォモールを襲うことは無い、それは地上に存在する奴らの行動を見れば自明のことだ。環境保全分子機械フォモールナノマシン群を身体に入れているって事が本当なら、俺達だって広義ではフォモールと呼べるはずだぜ? だのに何故、奴等は俺達を襲う?」


 真直ぐに目を見詰めて真剣な顔をして自らへと話し掛けるダスティンへ、アーヴィングは右手の人差し指でこめかみを軽く叩く仕草をして、頭の中の記憶を引き出そうとしてみせる。


「いや、こうして現在僕らが地上で生活が送れるようになった時点で、それ自体には一定の効果はあったのさ。地上の大気に身を晒しても分子機械に融かされることは無くなったのだから、惑星の大気に遍在する環境保全分子機械フォモールナノマシン群に関してはね。ああ、これは……長くなりそうだ、うん、君以外の皆は上に戻ってもらおう。そうそう君達、上に上がったらシャロン君に備蓄物資の在処を聞いてくれ、先にご飯にしていると良いよ」


 エレベーターを作動させたガードナー私設狩猟団の団長は片手を挙げ、ダスティン以外の職員達を上階へと送り出した。振り返ったアーヴィングは顔を引き締め、ダスティンへと向き直る。自身より頭一つ分高い位置にあるダスティンの顔を見上げ、アーヴィングはコンソールに指を走らせると、再度壁面をスクリーンにして映像を映し出した。


「フォモールが僕らの存在を人間として規定しているのは、元々培われていた人間としての精神性や、それに根差した行動によるようでね。環境保全分子機械フォモールナノマシン群を身の裡に飼っていようと、彼らが僕らを襲う事については、それは関係は無かったようだよ。それに、こうして“樹林都市ガードナー”からの映像を見せたけれど、この都市が、この惑星における人類の発祥地という訳でもないんだ。ほらここを見てごらん」


 先程まで流していた映像の一部分をピックアップし、拡大してスクリーンに表示する。それは“樹林都市ガードナー”が地上へ降下する数万年前、航宙艦群が黒雲状の環境保全分子機械フォモールナノマシン群と戦闘を繰り広げている光景だ。


「さっきの内容からは端折った部分になるけれどね、この“樹林都市ガードナー”と同時期に惑星地表に降着できた航宙艦は数えられるほどだった。でも、その数万年前にも、“樹林都市ガードナー”と同型の航宙艦群が環境保全分子機械フォモールナノマシン群の攻撃に崩壊し、爆散していくのを見ただろう? この場面さ、この際に艦を捨てて惑星地表に降り立つことが出来た人間も、決して多くはないが存在していたんだよ。」


 大気圏に突入し、爆散する航宙艦の一隻を拡大する。炎に飲まれ砕ける間際、その航宙艦の影から何か、金属製のカプセルのようなものが撃ち出されていた。それは、航宙艦の大きさで酷く小さなものに見えるが、現在のコリブ湖などで使用されている艦艇とさほど変わらない程の大きさがあった。


「宇宙から地表に降り立つことが出来た人間は、やがて方々から一所に集まると、現在の僕らと同様に都市を築いたんだ。当然だよね、人間という種は脆弱だ。雨風に打たれ体温を奪われれば体調不良になる。家が雨風を防ぐ居場所が必要になる。何より食べることが出来なければ衰弱してしまう。安定した生活の為には食糧を安定して供給する必要もあるのだから、都市だって生み出すよ。環境を破壊してでもね」


 “樹林都市ガードナー”の記録した地上降下までの数万年間の映像が物凄い勢いで流される。やがて目的の映像を見つけたのか、数万年間の中の数百年の映像が数秒の間に移ろっていった。そこでは人が集まり、ある一つの都市が築かれ、人が去り風化し朽ちていくまでの記録といえた。


「人は、人間という種はとても傲慢なんだ。環境を破壊し都市を築き、さらに環境を破壊して自らの領域を、世界を拡大していく。それはこの惑星でも変わらなかったし、今の世界でも変わることは無かった。ここもね、最初の小さな都市までは、環境保全分子機械フォモールナノマシン群は気にもしていなかったんじゃないかな? でも、そこで満足して小さな世界で我慢が出来るほど人間というのは大人しくなかったんだ」


 アーヴィングは酷く熟れた様子でコンソールを操作する。ダスティンは団長に講釈されている内容よりもむしろ、アーヴィングのその様子にこそ疑念を抱かずにはいられなかった。自身でも知らず、抱いた疑念が口を吐いて出ていた。


「大将、あんたは……、何故そこまで個々の機械の操作に熟れているんだ? もしかして、だが、……あんたは……」


「ダスティン、勘違いしてくれるな。確かにそれなりに年を重ねてはいるけれど、僕はまだ、七〇歳にさえ届いてないんだよ。もし、僕がここの操作に習熟しているように見えるとしたら、それはガードナー家の先祖がこの艦の制御を目的として制作されたからだろうさ。この地下都市(ばしょ)に来ると、このコンソールを前にするとね、何をどう操作すれば良いか、それが自然とわかるんだ」


 アーヴィングはダスティンへ苦笑を返し、左手でダスティンへスクリーンを指差し、右手の指をコンソールに這わせる。指さされたスクリーンには今は既に残骸すら残っていない人の暮らした都市の痕跡が光点として示されていた。その数の多さに、ダスティンは思わず息を呑んでしまう。


「今見せた都市だけじゃない、この惑星上には、この時期にはこうして同時多発して、人の都市が幾つも生まれた。生まれてしまったんだよ。再生途中の惑星環境を著しく破壊しながらね。その為に環境保全分子機械フォモールナノマシン群は環境を急速に破壊する人間という種に対して恐怖を抱き、この人という生物を、その性能を測り、性質を測りながら対策を練ろうとしたんだろう。そうして環境保全分子機械フォモールナノマシン群は、この数万年前に惑星上に逃れた人間から、人という生物の、精神や行動の特徴を知り、生態を把握した上で、それを元に人間という存在を攻撃対象に定め、最初の“樹林都市ガードナー”の地表探索隊を攻撃したんだろうね。少しぐらいの余計な要素が加わろうと、人は人だから、人が人であるためには、その根底に根差した性状は変えようもないのだろうね。でも、それが故に今の僕らが苦労をすることになったのだとしたら、この人達には恨み言の一つも吐きたいな。そうだ、地上の様子も見て置こうか」


 アーヴィングはコンソールを操作し、地上の映像を映し出した。そこでは六芒星の大楯を構えるSFと、四腕を展開した特殊仕様のAVENGERアヴェンジャーとが刃を重ね合うさまが映し出されていた。


 


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