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第178話 焼け落ちた故郷

 ジェーン・ドゥ、07という数字を名としていた少女は、狩猟団の女性職員エイナ=ブラウンと共に団本拠ハウスから地下へ降り、擬装エレベーターを後にして、真に“樹林都市ガードナー”と呼ばれるべきその地下都市へと足を踏み入れた。


「エイナ、貴女、ここがどういう場所なのか、知っていて?」


 エレベーターシャフトの外に広がる広大な地下都市を目にして困惑の表情を浮かべる狩猟団の制服を纏う女性職員に顔を向け、黒髪の少女は小首を傾げる。制服姿の女性職員エイナ=ブラウンはジェーンの視線を受け止め、茶色い髪(ブルネット)短髪ショートヘアを揺らしてゆっくりと(かぶり)を振った。


「……いいえ、ここまで実際に降りてきたのは今回が初めてです。こんな広大な地下都市があるなんて夢にも思いませんでした。避難訓練の時はエレベーターの操作をしても実際に降下することは無かったですし、こんな風景も見られませんでしたから」


「つまり、貴女はこの都市に通じるエレベーターの行き先が本当にシェルターであると信じていたという事ですわね。ですが、わたくしの知る限り、この場所はそのような場所ではないわね」


 無人都市の目抜き通りを進んでいく二人は、黒髪の少女が先に立ち、真っ直ぐに都市の中心にある唯一の人工建造物を目指している。歩きながら周囲に建ち並ぶ樹木と同化したような都市に視線を巡らせてジェーンが呟くと、エイナはその言葉を聞きとがめ、小首を傾げ少女へと問い掛けた。


「その様子からするとジェーン、あなたはこの場所について、何か知っているのですか?」


「“Namelessネームレス Numbers(ナンバーズ)07(ゼロセヴン)”としてのわたくしの記憶に誤りがなければ、ですけれど。知っていますわ。先日、わたくしが救われた“祭祀の篝(ウシュネフ)”の森、あの場所の地下にもここと似たものがあったのです。ここの様に都市の姿を保ったままでは遺されてはいませんでしたが」


 ジェーンは足を止めることなく口を開きそう言うと、今まで向かっていた都市中央の建物へ続く道から逸れ、明らかに道を知っている様子で別の建物へと向かい出す。制服姿の女性は足を向ける先を変えた少女の肩に手を当てて、その場に留めようとした。


「どこへ行くんですか!? 狩猟団のみんなはあそこにいると言ったのはあなたでしょう?」


「貴女と貴女と話している内に気が付いた、いえ、思い出したのです。この場所であるならばわたくしの為の機体が調達可能であると。わたくしには構わず、エイナ、貴女はこのままあちらの建物に向かいなさいな。あそこ以外に、ガードナー私設狩猟団の職員達がいるのは考えられませんもの」


「待って、ジェーン。なら、まず狩猟団(うち)職員達(みんな)に一言断ってからにすべきだわ。ここが何なのかなんて私はしらないけど、ガードナー家の管理下なのは間違いないわ?」


 ジェーンは足を止め、女性職員へと振り返ると言い放つ。


「それは、貴女におまかせします。なんにせよ、ここの施設を(わたくし)の自由に使用できる機会は今をおいて他にありませんもの」


「待ちなさい!! なら、私もついて行きます!!」


「はぁ、仕方ありませんわね。では、どうぞ。この場所からなら、わたくしの目的地は彼方(あちら)になりますわね」


 ジェーンはエイナを伴って、都市の中心に向かう目抜き通りを逸れ、都市の外縁にある樹木と同化した建造物へと向かって行った。その建物はトゥアハ・ディ・ダナーン主教国においては地上の四方に置かれていた神殿騎士団の詰め所とよく似た、治安維持を目的とした用途と思われる外観をしている。

 無造作に建物に近付いたジェーンは、入り口と思われる隔壁扉の脇、樹皮に見えるよう細工の施されたコンソールパネルへと自らの繊手(せんしゅ)を伸ばした。


「ああ、認証機構(セキュリティシステム)は生きていますのね。コードは、と……これで通りますかしら?」


 黒髪の少女はエイナの知らない文字が表示されたコンソールの上で、音楽を奏でるようにリズミカルに指先を跳ねさせる。ジェーンの無造作すぎる行動にエイナは最悪を想像し顔色を青くした。


「ああ、何しているのジェーン。そんな、よく分からない認証機構(セキュリティシステム)なんて、解除できるなら兎も角、もし解除できなかったらどうするつもりですか!?」


「大丈夫ですわ、ほら」


 慌てた声を上げるエイナへと声を掛けたジェーンは、コンソールパネルの隣にそびえたつ人の数倍の背丈の扉を指差す。いつから閉ざされていたのかも不明な巨大な隔壁扉は軋む音をたてながらゆっくりと開き始めていた。





 窓ガラスが残らず砕け散っている以外に大きな損傷の見られない団本拠ハウスの建物の前に、四体の人型兵器が円陣を組むように片膝を着いている。銀色をした隻腕のSF(セイヴァー・ルー)妖精姫を思わせるSF(フェイルノート)、六対の翼を持つ、|竜の頭を胸部に付けた人型兵器ダグザとその操り手を主人と仰ぐ執事セドリックのSF帰依者(デボーティ)のそれぞれの足元にはジョンとエリステラ、ファルアリス、セドリックが顔を合わせ、情報交換を行っていた。


「セドリックさん、ありがとうございました。わたしの、わたしたちの家を、団本拠ハウスを護って頂いて」


 エリステラは綺麗に腰を折り、セドリックへと深々と頭を下げている。それを受けた少女公王の執事は、ゆっくりと左右に頭を振り、ファルアリスを掌で指し示した。


「私に対しての礼など不要に願います、エリステラ嬢。私がこの場を護ったのは(ひとえ)にそこにいる姫様の指示に従ったまでの事」


「わたくしは知りませんわ。本心からの言葉なら、受けておくのが礼儀ではないかしら、セドリック」


 ファルアリスにそう返され、セドリックは瞑目し主人の言葉を受け止める。口を挿んでいいものかと迷いながら、ジョンは目の前の三人に向かって口を開いた。


「ええと、セドリック、貴方は狩猟団の人たちがどこに行ったのか、知らないのかな?」


「ああ、職員達は皆、地下に向かうと言っていたな。エリステラ嬢、貴女には思い当たる場所があるのではありませんか?」


 セドリックはジョンの言葉を受けて頷くと、エリステラへと視線を向ける。


「あ、そうです。団本拠ハウスで緊急時に地下に向かうというなら……、みなさんこちらへ」


 少女公王の執事の視線を受けたエリステラは弾かれたように駆けだし、団本拠ハウスの内部へと駆けていった。ジョンはセドリックと視線を絡めて頷き合い、先に建物に入って行った少女を追い駆ける。


「では姫様、失礼いたします。文句の方は後ほど承りますので」


「きゃ!? せ、セドリック何を!?」


 セドリックはファルアリスを抱え上げると、エリステラとジョンの後を追いかけて走り出した。執事の肩の上で少女公王は手足をばたつかせ、地面に降ろせと声を上げている。


「姫様、今は足元が大分悪いですのでご容赦を」


 先行した少年達は団本拠ハウスの中で、特に目立つもののない壁の前に立っていた。

お読みいただきありがとうございます



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