第16話 標
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「親方、僕の機体はどう、今度は何か解った?」
ダンの葬儀の日から一月後の早朝、ジョンは朝靄に煙る団本拠の敷地内、走り込みから戻る途中、SF格納庫に立ち寄った。葬儀の次の日から“SAVIOR”の分解整備をダスティンに依頼していたのだ。
その中で寝ずに作業中だったダスティンを捕まえ、少年は声を掛けた。
ダスティンは徹夜の割に、良すぎる程に元気いっぱいに返事を返す。
「おう、坊主か! おはようさん、走って来たのか!」
ダスティンは少年の頭を掴み振り回した。
「さっき、分解整備から組み終わったぜ。悪いがキャンプのガレージで言った事とそう変わらんな。
この筐体ん中の隠蔽化装置、これ以外は一般的なSF、 狩猟団の機体ともそうは変わらん。だが、セイヴァーの機能停止にも隠蔽化装置が、関わってそうだ。
そうそう、坊主の機体の左腕だがな、今のところ再生は無理だ。キャンプでの戦闘時、あの爆発で、受け側のコネクタ、特に電装系がイカレちまってるんだ、そこを取り替えれば、こうして右腕を分解して、左腕用に鏡写しに複製すりゃあ、再生出来る筈だったんだがな。
ダンの奴の機体も、一応は直さにゃならなくてな、そこまでいじる時間がとれねえのよ。済まねえな、坊主」
ダスティンがしおらしく頭を下げた。
「いいさ、それなら隊長さんの機体を先にしてくれても良かったのに」
ジョンがそう言うと、ダスティンは首を横に振り、腕を組んで応えた。
「仕事の順番は入った順に、だな。思い入れが違うと、先に受けた仕事を疎かにしちゃいけねえのさ。師匠の教えだな。
坊主さえ良けりゃあ、俺と同門のSF技師を紹介してやる。今、あいつは確か、ダーナ教国に住んでいるはずだ。この街からは大分離れるが、樹幹街道を東へ直進すれば着けるネミディア中央平原にある、二つのでっけえ都市の内、北側のより宗教的な方がダーナ教国になるな。
街のシンボルのダーナ大神殿の大鐘楼のてっぺんに、ケルト十字が立ってるから遠目にも判るだろうが。
このネミディアの中で唯一独立した国として認められている宗教都市国家さ。そこに、俺と同じ師匠に仕込まれた技師が居る。ま、もちろん腕の方は俺の方が上だがな!」
ジョンはほうほうと頷き、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「親方、なんでSFの技師が宗教都市なんて所に住んでるの? 関係無いよね?」
少年の疑問にダスティンは鼻で笑うと応えた。
「へっ、あのバカは伝説に取り憑かれたのよ。技師の間に伝わる与太話なんだがな。
あの宗教都市は誕生してからもう千数百年になるが、その地下に秘神殿があり、その奥に古代人の創った機体が安置されているって話なんだが」
「へえ、その人、そんなの信じちゃったの? すごい嘘臭いけど」
鼻白んだ少年が胡散臭そうに言い、技師はもっともだと言わんばかりに頷いている。
「だよな、聞いた時は俺も法螺としか思えんかった。あいつも、確か、その時は俺と同じ反応だったんだがな、二十年位前か、師匠が亡くなった後さ、あいつ急にその話を信じるようになってな。俺と同じでその頃は軍の技師だったんだが、急に軍を辞めてダーナ教国に移り住んだのよ、奴は」
「親方、軍の技師だったの?」
「ああ、ネミディアが独立して三十年、フィル・ボルグのちょっかいが何か多かった頃だ、SF技師の仕事っていや軍に入っちまうのが一番安定していたのさ。
話が逸れたが、そいつの名は、オルソン。オルソン=エルヴィスがフルネームだ」
ジョンはダスティンに頷き、セイヴァーを指差した。
「オルソンさんか、親方、もう動かせる?」
「ああ、だが、少し待て、どうせだ、塗装してやる。何色が良い」
ダスティンはジョンへ希望の色を訊いた。ジョンは少し考えて伝えた。
「分かった、明日の昼過ぎ頃に来い。その頃までにはワックスまで掛けといてやる」
次の日、ジョンはセイヴァーと共に、樹林都市から姿を消した。
6/19改稿




