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第169話 聖石

「さて、諸君。遂にこうして我がガードナー私設狩猟団団本拠(ハウス)の地下をお披露目することに相成ったわけだが、どうだね感想は?」


 テンション駄々上りの老年紳士、ガードナー私設狩猟団団長にしてエリステラの祖父アーヴィング・エルド=ガードナーは両腕を広げ、緊急避難用エレベーター出口の前に広がる広大なホールに並んだ私設狩猟団職員達へと問い掛ける。

 職員を代表するように固太りの大男、ガードナー私設狩猟団整備班技師長ダスティン=オコナ―が機械油に汚れた右手を挙げ、困惑気味の表情で返答した。


「……いや、正直よくわからん。大将のその無駄なテンションも、ここの場所のこともな? まあ、驚いたってことは認めるがよ。……で、一体何なんだここは」


「端的に言えば……遺跡だよ。そうだね、ざっと500年前、トゥアハ・ディ・ダナーン主教国の地下に眠る鎮波号(ウェイブスィーパー)とほぼ同時期にこの惑星に降り立った同型の播種航宙艦の、ね。まあ、今では主演算機関(メインコンピューター)も起動できないから、鎮波号(ウェイブスィーパー)のように航宙艦としての役割を果たすことは出来ないがね。さて、皆こちらへ来なさい」


 アーヴィングはダスティンに答えながら踵を返し、数十人からなる狩猟団の職員たちを先導し巨大空洞の中に佇む遺跡都市へと歩き出す。視界の先に広がるのは薄暗く淡い光の中に浮かぶ、樹木と住居を粘土細工のように捏ね繰り合わせ、一つにしたような不思議な建築物の数々、トゥアハ・ディ・ダナーン主教国のそれと違い、地底湖などはなく、数えられるほどの水場とそれらを包み林立する樹木群が計画的に植樹されたように秩序だって等間隔に、同じ高さまで伸びていた。道端に張り出した枝の下側には鈴蘭に似た大きな花が咲いており、花そのものが光を放ち、都市に張り巡らされた道路を柔らかな光が照らしている。


「ガードナー家に伝わる口伝によるとね、元々、樹林都市とはこの地底都市の事を示していたそうだよ。まあ、ここに生えている木々はとてもではないけれど、樹木とは呼べないのだけれど」


「どういうこった、そりゃ? 見た限りじゃ、綺麗に切り揃えられた樹木にしか見えねえが」


 ダスティンは通りの脇の樹木建築の壁に手を当て、ぽんぽんと軽く叩いている。先頭に立つアーヴィングは振り返り、ダスティンの叩いている樹木を一瞥して言った。


「これらはね、分子機械(ナノマシン)によるものなんだ。極小の分子機械を用いて、成長段階の樹を、内側から生長するべき雛型に当て嵌めて思惑通りに成長させた。そうした物だ。その上、ここの木々はもうこれ以上には成長しないし、枯死することも無い。でも、それは本当に樹と呼べるものなのかな? 建材としての機能なのか、樹皮に少しくらい傷をつけても直ぐに治ってしまうしね」


 そう言うと、身につけていたジャケットの懐からペーパーナイフを取り出して、樹皮に傷を走らせる。


「見ていて御覧、ほら、こうなる」


 アーヴィングの付けた樹木の傷は内部から樹液状の液体が湧き出したかと思うと傷口を覆う琥珀のような塊となり、やがて1分と経たないうちに傷の痕さえない元の樹皮に戻っていた。


「僕らは今、避難しているわけだからね。先を急ごう。目的地はあそこ、この都市の中心にあるあの建物だよ」


 アーヴィングは右手で都市中央の一際大きな建築物を指し示す。それは、都市の他の建築と異なり、石とも金属ともつかぬ外壁に覆われた無機的なデザインの建物だった。


「所で大将。俺らSF技師達の弄れるものは有るのか? ここにゃ、見るからに機械的なもんがありそうにないんだがよ?」


「行けば分かるよ。ここはガードナー家のものだが、ネミディア連邦にとっても重要な拠点でね。SFに必要不可欠なあるもの、まあぼかす必要もないので言うけれど、リア・ファルが採れる場所があるのさ。上の騒ぎが納まるまでの間、いい機会だから、キミらにも見て貰っておこうと思ってね」


 ダスティンは老年紳士の言葉を聞いて息を呑み、頭を振る。


「いやいやいやいや、駄目だろうがよ。そんなの国家機密だろうが!? 下手に知ったら無暗に生命にかかわらあ!!」


 わめき出したダスティンを見て、アーヴィングは不思議そうに首を傾げ、技師長に歩み寄るとその胸板を手の甲で軽く打った。


「今更な事を言うね。僕のガードナー私設狩猟団に入団した時点で、職員の君らは一人残らず国家機密に抵触しているんだよ。第一、僕なんてフィル・ボルグから見れば裏切り者。そうして他の国から睨まれている上に、ネミディア連邦の今の政権中枢から見たら、僕なんて獅子身中の虫でしかない。いつ、連邦を裏切り馬脚を露すのか、公的に僕を抹殺できる機会を窺ってさえいる始末だ。まあ、これから見せる物はガードナーの血族にしか反応しないようになっているから、ネミディアからは僕を潰せないんだけどね」


 やがて、ガードナー私設狩猟団の面々はその場所に辿り着く。アーヴィングは慣れた仕草で建物の中央入り口に進み、足元の床からせり上がってきた操作盤の中央に、先程のペーパーナイフで指先を傷つけて血を一滴落とした。老年紳士は顔を上げ入り口の門上部から照射された走査光に両瞳を晒す。


[WELCOME COUNTERFEITカウンターフェイト typeタイプ GARDENER(ガードナー)


 操作盤に一文が表示され、地面に操作盤が引き込まれると、建築物の門が音を立てて開き始めた。


「行くよ、この奥にリア・ファルがある」


 団長がすたすたと建物の内へと進んでいくのを、狩猟団の職員たちは恐る恐る追い駆ける。廊下を照らす照明は彼らの後を追い、先回りするように点灯していった。しばらく進むと大きな空間に出た。その空間の中央でアーヴィングは待っている。ダスティンが大股で団長に歩み寄ると、アーヴィングは後方の職員から数名をピックアップし手招きした。

 団長に召集された職員たちはアーヴィングとダスティンのそばに集まって来る。彼らが近くに来たのを確認すると、アーヴィングはタンと踵で床を打ち鳴らす。いかなる機構か、アーヴィングとダスティンを中心とした空間が円形に沈み込み始め、円の外周の内と外が光のシャワーにより物理的に切り離され、そのままエレベーターとなり動き出した。

 その場に置き去りになる形となった職員たちは、慌ててアーヴィングとダスティンに近寄ろうとするも、円の外周を取り巻く光のシャワーに遮られ、そこから内側へと入ることが出来ず、情けない顔をして取り残される。


「心配しなくても、待っていてくれ。この先は大人数の方が危険でね。これくらいの人数が良いだけさ」


 アーヴィングは残される職員たちへ手を振ると、ゆっくりと下降するエレベーターに大深度の更に深みへと運ばれて行った。

 

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