第14話 覚醒
ブクマしてくださった方々、ポイント入れてくださった方々ありがとうございます。
その場に辿り着いた少年が見たものは、大鎌の刃に切り裂かれゆく、狩猟団の機体の姿だった。
沸騰する感情を解き放つ様にジョンは叫んだ。
「……何してんだ! てめえ!!」
誰が乗っていた機体なのかなど関係なかった。短くとも受け入れられたジョンには、その集団が心地好かったのだ。
飛び込んだ勢いをそのままに、“セイヴァー”は高周波振動騎剣で斬り掛かって往く。
『うふふ……、あはっあはははははははははっ』
襲い来る“セイヴァー”を見て、大鎌のSFから外部スピーカーを通し笑い声が響く、内部の少女はとても嬉しげに、抑えきれない様子で高笑いを上げる。
ジョンの剣は大鎌に去なされ、笑う相手の装甲表面にすら届かない。
ずさっと爪先で地面を滑り、少年の機体は地に降り立つ。
体を返し左肩の“複合型銃砲発射装置”の回転式機関砲から弾丸を解き放つも、敵機の姿勢制御翼状装甲が自動展開され機体を覆い隠してしまう。
多重の衝突音が重なり響くが“セイヴァー”の攻撃は撤らない。回転式機関砲を撃ち続けながら、姿勢制御翼状装甲の展開方向の死角から少年の剣が走った。
敵機の盾が中央から二つに割れ、その片割れの先端部が格闘用鉤爪に変型、セイヴァーの斬りつけた剣を鋭い爪で摘まみ止めた。
呆気なく握り砕かれる剣身、弾丸をばら撒きつつ少年は機体にバックステップさせて距離をとり、手に残った高周波振動騎剣の柄を落とし捨てる。
ジョンはセイヴァーの右膝の外側に装着した簡易装甲代わりの折り畳み式騎剣を展開した。
放ち続ける弾丸は、姿勢制御翼状装甲の片割れに今も防がれ続けている。
少年が敵機との距離を再び詰める最中、もう少しで回転式機関砲の弾丸が尽きる事が画面端に表示された。
ジョンは構わず撃ち続け、剣を振るう。
鎌刃が少年の剣を受け止め呆気なく切り裂く、意に関せずジョンは敵機の至近で“複合型銃砲発射装置”を擲弾発射砲形態へ変型、接射する様に撃ち出した。
少年自身の機体をも巻き込み、爆炎が広がる。
炎が風に散らされ現れたのは、大鎌を振り抜いた無傷のSFと、“複合型銃砲発射装置”の砲身を半ばで断たれたセイヴァーの姿だった。
地に倒れたセイヴァーの胸部を踏みつけ、機体の頭を傾げ謎のSFは動きを止めた。
『もうお終いですの、08?』
目の前の機体から、通信機越しに少女の声がセイヴァーのコクピットに響いた。
動揺し、ジョンは問い返す。
「……なぜ、僕の通信帯域を知っている!?」
ジョンの声を聞き、不思議そうに少女は応えた。
『何故、私が08の事を知らないと思うのです? 貴方は私のお人形なのに。
ですが、今日の舞踊は駄目ですわね。貴方との戦闘は何時も愉しいのですけれど……。
どうなさったの08? まさかあの方、必要な記憶まで漂白されたのかしら?』
涼しげな声でジョンの戦い方を評価する謎の少女。その言葉尻を捕らえ、エリステラが問い掛ける。
『ッ──ジョンさんの記憶を……あなた方は消したというのですか!?』
憤り、吠えるエリステラに平然として返す少女。
『ジョン、ジョン=ドゥかしら、08? ええ、漂白しました。ですが、私は反対したのですよ。案の定、08は噛み付いてきますし。
救世者の左肩のそれ、邪魔ですわね。いらない玩具は壊してしまいましょう』
言うが早いか、大鎌が一閃され、セイヴァーの左肩に爆発が起きた。
『今日はこの辺りでお暇しますわ。そちらの方々も見逃して差し上げます。08、いえ、ジョン・ドゥに逢えましたもの。
そうそう、名乗って置きましょう。その子がジョン・ドゥならば、私はジェーン・ドゥかしらね』
悠然としてセイヴァーから足をどけ、背を向ける謎のSF、その足下でジョンの感情は爆発した。
「お前ら、か……、おま、エラ、ガァアアアアアアアアアアアア」
コクピットの内部でジョンは咆哮を上げ、それと裏腹に少年の指先は正確に少年自身の知らないコードを入力する。
〔Extra system “Balor's fragment” initialize〕
セイヴァーの筐体内部で起動コードを受け、隠蔽化装置が静かに稼働を始めた。
†
“おうさま”
“おうさま?”
“おめざめ”
“おうさまふたり?”
“おうさまひとり”
“おめざめ?”
“おうさまひとり?”
“おうさまふたり”
“かたほうにせもの?”
“かたほうほんもの?”
“りょうほうにせもの?”
†
幽鬼のように、そう呼ぶに相応しい様子でセイヴァ-が起き上がり、腰背部の給弾装置の接続を解除、その場に投棄した。
機体の周囲、地面から靄のようなナニカが湧き上がり、セイヴァ-の全身を薄くオーラの様に覆った。
『……あら、ジョン。見逃す、そう、私は言いましたわよ?』
背後で起き上がる少年の機体に振り返り、謎の少女は機体の中から少年へ言葉を投げる。
少年は無言で返し、セイヴァ-は襲いかかった。
『おいたは駄目ですよ? 私、貴方を壊して仕舞いそうです』
言いつつも少女にはジョンを殺害する気は無いのか、大鎌の石突きを用いてセイヴァ-を去なそうとする。
セイヴァ-は右下腕の掌盾で大鎌の柄を弾き、存在しない左腕で殴りつける。
少年の機体を覆う靄が左側に拳を形作り、少女の機体を痛烈に打撃した。
『誓約の首輪に触れてしまうなんて、08、あなたは、そんなに私と遊びたいのね!!』
質量の感じない重い拳打に機体を打ち飛ばされながら、少女は嬉しげに笑う。
空中で姿勢を正した少女の機体が、セイヴァ-と同様に地面から湧き上がった靄を纏い、先程の言葉を忘れた様に大鎌の刃を構え直した。
そちらの様子には構わず、ジョンは言葉を忘れた様に無言のまま無造作に距離を詰めた。
少女の機体から鎌刃による斬撃が見舞われる。だが、機体の纏った靄が集まって障壁となり、その攻撃はセイヴァ-の機体表面で止められた。
至近に縋ったジョンは掌盾に内蔵された対獣鎖鋸を展開し、靄を纏った鎖鋸を少女の機体へ下から斬りつけた。
『初めてでそこまで操るなんて……、嬉しいですわ、08!』
ジョンの斬撃を、こちらも靄を纏ったバインダースカートで受け止めながら少女は言い、セイヴァ-から初めて自分から距離を取った。
さらに追い縋ったジョン、掌盾の鎖鋸を展開したまま、腰背部の折り畳み式騎剣を靄の左腕で抜き放つ。
狼頭のナイト種を思い起こさせる低い姿勢での飛び込みから、両腕で放たれるセイヴァ-の連撃。
少女の機体は大鎌の刃で、柄で去なし、盾で受け止める。
少女の大鎌の斬撃と柄による打撃をセイヴァ-は掌盾で弾き、騎剣で去なす。
2機の機体の動きが高速で噛み合い、一撃一撃がどちらかに死を贈る連舞へと変わっていく。
『あら、嫌だわ! このままでは本当に08を壊して仕舞うわね。この辺りで今日の舞は終えましょう』
そう少女が優しく言葉を紡いだ瞬間、少年の機体は少女の操る靄状のナニカに機体の動作を止められ、一瞬で硬化したそれはセイヴァ-を枷の様に拘束した。
それをなした少女の機体はセイヴァ-に背を向け、煙幕弾を発射、何処かへと高速で消え去った。
「ガアアアアアアッ……!!」
セイヴァ-の内側でジョンが獣の咆哮を上げ続け、やがて声を出し続けたジョンは糸の切れた人形の様に意識を失い、連動するようにセイヴァ-のジェネレータが動作を止めた。
†
“おうさま”
“おうさま”
“またねた?”
“ねてるおうさま”
“おやすみおうさま”
“おうさまおやすみ”
“またあそぼ”
†
「──始まった、始まった、始まった。
王よ、愚かで哀れな人形の王! 此よりは、目覚めし王による始まりぞ! そはやがて終わりを齎す! 人か、獣か、撰ばぬか、さあて、そはどちらの上に幕を下ろすか」
暗い室内、一人の青年が詠うように呟いた。




