第153話 黒髪の少女
「ジョンさんが居なくなったと聞きましたが、どういうことですか!? きゃっ」
首の後ろで一つにまとめた柔らかな金色の髪を振り乱し、銀のラインの入った黒のパイロットスーツに身を包み焦った様子でガードナー私設狩猟団団本拠管制室に駆け込んだ少女、エリステラは室内の様子に頓着せずに開口一番にそう発し、勢いのついたままに足をもつれさせつんのめる。管制室のオペレータシートに座る人影の隣りに立っていたエイナ=ブラウンは、茶色の髪のショートヘアを揺らして振り返ると、その場に倒れ込もうとした少女を寸前で抱き留めた。
「あ、ありがとうございます」
「お怪我はしていませんか? エリスさん?」
「ええ、大丈夫です、そ、それよりもジョンさんです!」
女性職員の腕の中で礼を告げ、エリステラは恥ずかしそうな顔でエイナの顔を見上げ頷きを返す。年下の少女のそんな様子にエイナは優しく笑みをこぼすと少女を腕の中から解放し、エリステラが自分の足でしっかりと立ったことを確認すると身を離した。背後の騒ぎに操作していた手を止めたオペレータシートの人物は、肩口で切り揃えた黒髪を揺らしてシートごと振り返りながら、管制室壁面の大型ディスプレイに、狩猟団分隊の現在位置をマーキングしたネミディア連邦中心の人類領域大陸の地図と、レビンからの定時連絡レポートを表示させ、おもむろに口を開く。大樹林の中の衛星都市の一つに狩猟団のSFや車両を表す光点が幾つか固まって点滅する中、表示された地図の東端、クェーサル連合王国領漁業国フィンタンの東海岸にSAVERと表記された光点が一つ弱弱しく点滅していた。
「レビン=レスターから連絡によりますと、ジョン、あの子については、何やら機体ごと整備班の団員の目の前で忽然と空間転移して消失したそうですわ。それとほぼ同時刻にレビン=レスターのTESTAMENTも原因不明だそうですが、使用不能となっているようです。現地で随伴の整備班が機体の簡易検査をした所、レビン=レスターのTESTAMENTは、まるで張りぼてのようになった上、一番大切なリアファル反応炉からは最低限の通常反応すらもが全く見られないとのことです」
表示させた地図のSAVERと表記された光点を画面上のポインターで指し示し、ガードナー私設狩猟団の制服に身を包んだ、かつて07と名乗っていたエリステラより少し年上の少女、ジェーンは管制室で収集した情報を口にした。
「転移という情報があったので、その前後の狩猟団のビーコン信号を時系列で地図上に表示してみました。大型ディスプレイには分かり易いよう光点に狩猟団の各機体名と車名を表示させましたが、数分前からの観測によると、どうやらあの子は戦闘を行っているようでしたね。ちなみに現在表示させているこの図は現時刻の物ではなく、ほんの数分前の物となります。時間を進めると、このように現在の地図上からは、SAVERの反応は消失してしまいます」
黒髪の少女は画像の表示時間を進め、現時刻の物にする。ただでさえ弱弱しく点滅していた光点の一つがジェーンの言葉通りにその姿を失っていった。
「それでは!?」
「……あくまでも、機体に後付けで搭載された狩猟団のビーコンの反応が消失したというだけです。それにあの子の事ですから、撃墜されたとは考えにくいでしょう」
消失という言葉を耳にして、エリステラは息を呑む。しかし、ジェーンはそんな少女の想像を否定するように首を振り、黒髪の少女は指先で消えていく光点を撫でるような仕草をした。
「あの子のSF、“救世者”は“Nameless Numbers”、特に“№”に与えられた機体の中でも、最も不可解な機体なのですよ。それに何より、“銀色の左腕”と呼ばれる左腕の量子機械群、あれの効果次第で、どのような事が起こるのかもよくわかってはいないのです」
傍らのエイナが、ジェーンの言葉尻を捕らえ、首を傾げて黒髪の少女に問い掛けた。
「あなた方の機体の中でも、不可解な機体なのですか? ジョンさんの“救世者”というSFは?」
「そんな事より、今はジョンさんの安否が先ですよ、ジェーンさん!」
「流石に安否についてまでは、何とも言えないです。いくらなんでも“樹林都市”から、大陸東海岸までは距離が離れすぎていますし、助けるにしてもどうにも出来ないでしょう、エリステラ」
黒髪の少女は画像の地図上を“樹林都市”からSAVERと表記された光点のある大陸東海岸までをゆっくりと右の人差し指で辿ってみせる。
「今は隊商の護衛に派遣した狩猟団の人員とSFを含む、団の装備の回収を第一に動くべきでしょう。距離もこちらの方が近いわけですし、という事なのでエリステラ、貴女は格納庫に戻ってSFに搭乗なさい。出動待機ですね。SF搬送車を回しますからレビン=レスター達団員の回収に向かいなさい。そうそう、途中でレナを拾っていく事は忘れずに、あの娘の複座型SFの装備転換はまだ終っていないようですが、単身でも運用可能ですし、シートの調節機構でレビン=レスターが搭乗できるようにも調節できます。まるで動けないレビン機よりも、よほど戦力として数えられるでしょう」
ジェーンはそう提案すると、勝手に確定事項として行動を開始、呆気にとられるエリステラとエイナを置いてきぼりに管制室の操作盤を叩き始めた。
「え? え?」
「やれやれ、エリスさん、あなたは格納庫に向かってください。それにしても、私はジェーンさんの監視役なのですが、これではただの助手ですね」
肩をすくめたエイナは、エリステラに掌でドアを指し示し、やんわりと退室を促す。
「はいぃ、わたし、行きますね。ジョンさんのこと、何かわかりしだい教えてください」
背後を振り返る事さえなく黒髪の少女は、管制室の入口に向かっていくエリステラと立ったままのエイナへと矢継ぎ早に指示を出した。
「エリステラ、格納庫で見かけたらダスティンにここへ顔を出す様に伝えなさい。エイナ、貴女はそこのシートで可能な限り大陸東海岸の情報収集、自国に帰りもせずに空で遊んでいるパーソランの少女公王にも、公国が収集した大陸東海岸に起きている異変に関する情報をこちらにも回すように交渉を。私もデータの上でしか知りはしませんが、フォモールの中枢個体、特にクィーン種と思しき個体出現の有無についてを重点にして集めて、“救世者”の“銀色の左腕”量子機械群が自律行動を開始する原因などそう多くは無いはずですわ」
扉を開いたエリステラへ、背後からジェーンの声が掛かる。
「あの子の状況が把握でき次第、貴女にもお伝えします。安心して、エリステラ。何せ、07は08の姉なのですもの」
お読みいただきありがとうございます。
サブタイトルは思いついたら追加します。




