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第13話 救い、刈り穫る者

ブクマしてくださった方ありがとうございますm(__)m

遅れました。

 狼頭(フォモール・ナイト)は野生の勘か、ジェスタの銃撃を目もくれず飛び退いて躱す。

 その間に距離を詰め放ったジェスタ機の斬撃を身を低くして回避、次いで放たれたダンの機体からの短機関銃(サブマシンガン)の弾丸を、剣鉈を咥え四足獣のように四肢で跳ね回って躱し、狼頭は地面に倒れたままのレナ機から引き離された。

 狼頭はそれでもレナ機を狙うのを諦める様子はなかった。

 SF搬送車(キャリア)から弾丸が狙いもなくばら撒かれ、フォモール達(獣人と魔獣と巨鳥)を牽制し、ジェスタ機がレナ機を自陣に引き戻す。


『レナ! レナ! 起きろ、レナっ!』


 ジェスタが声を掛けるが、レナからの返答は返らない。ダンは牽制射撃で二機を狙う魔獣を追い払う。


「てりゃぁあっ!」


 エリステラは気の抜ける様な可愛らしい声で裂帛の気合いを発し、砲身を折り畳んだ“サンダーボルト”の二脚銃架(バイポッド)を前方へ展開、二本の接地脚をベルティン手製の隠し機構である近接突撃用の衝角(ラム)形態(モード)に変型、銃身下部のフォアグリップを掴み、機体バックパックの推進器(スラスター)と展開式脚部機動装輪(ランドローラー)を全開にした全速力で、親友(レナ)の機体を狙う狼頭へ突撃した。


『お嬢、俺が追い込む! その隙を狙え!』


 ダンは通信機越しにそう言うなり、横合いに回り込みつつ狼頭目掛けて突撃、両手の散弾銃(ショットガン)短機関銃(サブマシンガン)でナイト種の周囲へ弾丸をばら撒き、敵の行動範囲を限定させた。

 その時、不意に東の空で大爆発が起きる。

 爆発が空に広がってから数瞬遅れ、大きな爆発音が轟いた。

 どういう事かエリステラ達の射撃音を気にもしないフォモール達はその音に反応し、目の前のフォモール全てが、一瞬その場で動きを止め、突撃するエリステラ機の衝角が狼頭に炸裂した。


『やったか!?』


 ベルティンの声が通信機から聞こえる。しかし、その攻撃の直撃は避けられた。

 狼頭は超反応をみせ、剣鉈を盾にエリステラ機の突撃を受け止め、躱そうとしたのだ。

 衝角は激突の瞬間、杭状の接地(パイル)脚が撃ち出(バンク)され、狼頭の剣鉈を破砕、次いで、体幹から着弾点をずらされた大口径の銃撃がナイト種の半身を咬み千切り吹き飛ばした。

 けれど、それ程のダメージも狼頭に死を(もたら)さない。

 吹き飛ばされ、地面を転がったフォモール・ナイトは右腕と脇腹を喪いながらも、残る左腕で起き上がる。

 狼頭はこちらへ吠え威嚇し、残る三肢で獣のように跳ね回る。

 着地点の傍らのコヨーテ型ポーン種の頭を掴むと動きながら、その身を喰らい出した。

 狩猟団の一団から放たれ続ける弾丸は、回避に専念したフォモール・ナイトに悉く避けられた。

 跳ね回りながらポーンを喰らい続ける狼頭の欠損部分が見る間に盛り上がり再生していく。

 再生を止めさせる為の攻撃が、魔獣(ポーン種)の壁と上空の巨鳥(ビショップ種)が吹く液化爆薬の爆発に撃ち落とされ、狼頭に届かない。

 狼頭(ナイト種)が近場にいたもう一体のポーン種を喰らいきった時、無くした右腕までもが肩口から新しく生えていた。

 狼頭は右手をポーン種が溶け崩れたドロドロの地面に叩きつけ、何かを引き出すようにし、するとその手には砕かれた剣鉈が握られていた。

 余裕を取り戻し、狩猟団のSF達を声無く嘲笑うフォモール・ナイト。

 少女達が絶望を抱いたその時、土煙を上げて疾走し、彼方から現れた一機のSFが振るう対SF用高周波振動大鎌(ヴァイブロサイズ)にナイト種は切り刻まれた。

 現れたSFはパフスリーブ状の肩部装甲(ショルダーガード)と花弁の様な形状の腰部装甲スカートシェル、その腰背部から大きな鰭状の姿勢制御翼状装甲(バインダースカート)が伸びた女性的な形状をしている。

 そうした女性的なシルエットをしている以外、ここにはいないジョンの駆る“SAVIOR(セイヴァー)”に、その機体はよく似ていた。

 謎のSFは舞うように大鎌を振るい、残るフォモールを殲滅していく。

 地上の(ポーン種)はまとめて薙払われ、終いには飛び上がり空に舞う巨鳥達(ビショップ種)までをもその刃の錆とした。

 圧倒的な速度でフォモールを全滅させたその機体から、外部スピーカーを通し少女の声が響く。


『あの子、08(ゼロエイト)はどちらです? (わたくし)が参りました。……逢わせぬなら、刻みますよ?』


 機体の頭を傾げさせ、涼やかな声が告げるのは、酷く優しげな殺戮宣言だった。





 嫌な予感が止まらない、ジョンは駆ける。先程から彼の周囲に魔獣達(フォモール)の姿はない。

 コントロールグリップを掴む少年の指先が、焦りに震えた。何が、どうして、とジョンの頭にはそればかりが廻る。


(僕は、何故こんなに焦ってるっ!?)


 全速力で駆ける機体の内、ジョンは気ばかりが急いて、いっそ機体の装備を全て投棄しようかとの誘惑に駆られる。

 しかし、それをしてしまえば、この焦りの元に対抗が出来なくなる。少年の心には何故かそういう確信もあった。

 乗り捨てられた車両を飛び越え、邪魔な瓦礫を破壊してジョンのSFは少女達の下へ急ぐ。目標地点に辿り着く寸前、地面が盛り上がり中から蛇頭のナイト種が現れた。

 機体を走らせたままジョンは直ぐ様、左肩の“複合型銃砲(マルチプルガン)発射装置(ランチャーユニット)”を回転式機関砲(ガトリングガン)形態(モード)で発射、連射される弾丸が蛇頭を打ち据えた。

 しかし、蛇頭の皮膚は強靭なのか、弾丸に身動きを封じられながらも、少年には大したダメージを負っている様に見えなかった。

 ジョンは蛇頭を擦れ違い様に高周波振動騎剣(ヴィブロソード)で、一刀のもと斜めに胴を薙払う。

 何かが倒れる音を背に、少年は一瞥(いちべつ)もせず駆け抜けた。





08(ゼロエイト)を出しなさい。少し時間をあげましょうか。あの子はここにいないようですし。……一〇数える間に(わたくし)の前に連れてくるのです。そうすれば命は助けてあげましょう』


 大鎌の刃を向け、狩猟団の面々に要求する謎のSF。


「そんな名前の方は知りません!」


 エリステラは毅然として返答する。


『……そうですか、──では、貴女から刻みますね』


 謎の少女は静かに宣言し、エリステラの方へすうっと滑らかに踏み込むと掬い上げるように大鎌を一閃した。


「いきなり……何をっ!」


 虚を突かれながら、エリステラ機は斬撃をなんとか避ける。


『あら、お上手ね。避けられてしまいましたわ。今の斬撃程度では駄目ですのね? 続いては連撃で()きますよ?』


 楽しそうな口調と共に、大鎌の連撃が放たれた。

 機体ごと全身を回転させ、縦に、横に、斜めにと大鎌の刃が振り回される。

 エリステラは必死に機体を操作し、死の風を振り切ろうともがいた。


『ボサッとすんな俺っ! ジェスタ、いけるか!』


 少女達の操る二機のSFの遣り取りを黙って観戦してしまっていたダンは、自身に活を入れジェスタへ声を掛けた。


『駄目だ! レナが狙われる!』


『ちぃっ! 俺が介入する、ジェスタ、後は頼むぜ!』


 ダンは言い捨てると、エリステラ機を襲う謎の機体へ突撃した。


『親方、ベルティン、バリケード代わりはもういい! こちらへ搬送車を回せ!』


『わかった! ベル!』


『おう! お前らも急ぐぜ!』


 男口調のジェスタに戸惑う様子もなく、技師親子は整備班を促し、急ピッチで片側の搬送車の懸架整備台(ハンガーベッド)を格納しジェスタの位置へ発車させた。

 ダンは、今尚もエリステラ機へ攻撃を続ける謎の敵機へ、短機関銃(サブマシンガン)で射撃した。

 謎のSFの姿勢制御翼状装甲(バインダースカート)が腰背部の接続部から隠された蛇腹状(フレキシブル)可動肢(アーム)を展開、可動し盾となってダンからの銃撃を防いだ。

 姿勢制御翼状装甲は自動展開したのか、エリステラ機への攻撃を止め、謎の機体から興醒めした声が発せられた。


『無粋な方ですね、貴方』


 謎の少女は言い様に自身の機体をダンの機体へ向け疾走らせ、大鎌を振り下ろした。

 ダンは機体の身をよじり躱そうとする。

 破砕音を響かせ、鎌刃に短機関銃(サブマシンガン)ごと右腕を砕かれるも、ダンは尚も残る左腕の散弾銃(ショットガン)から攻撃を重ねる。しかし、それも姿勢制御翼状装甲(バインダースカート)に防がれ、振り抜かれた大鎌に機体ごと身体を上下に分かたれた。


『お嬢さんはまた踊ってくださいね?』


 謎の少女はエリステラへと優しげに話し掛けた。

 その場は沈鬱した静寂に呑まれ、分かたれたダン機の切断面から赤い色の混ざった液体が(こぼ)れた。

 ダンの声はもう、通信機から聞こえない。

 そこへ横合いからジョン=ドゥの機体(セイヴァー)が疾走して現れ、速度をそのままに怒号と共に謎の機体に襲いかかった。


『……何してんだ! てめえ!!』


 その後ろで狩猟団の者達は動けずにいた。


「ウソ……ですよね……。ダン隊長!」


『……ふざけんな。ダン……』


 呻くエリステラとジェスタ、その暗い空気の中、レナがやっと覚醒した。


『……ぅうん、エリス、あたし?」


 頭に手を当てレナは、エリステラへと問い掛けた。

 エリステラは伏し目がちに応えた。


「レナ……、隊長が……」


『……何よ……あれ、嘘でしょ!?』


 地面に転がるそれを見たレナに、エリステラの言葉は届いていないようだった。


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