第144話 変転する戦い
両肩部の可動腕式防盾裏に一体型折り畳み銃身長距離狙撃銃を装備、そして腰部左右には二丁の突撃銃を吊るし、さらに両腕には上下に弾倉の突き出した形状の複合式二連銃身狙撃銃を携えダレン・ペイル=ユークリッドの仕様騎の“AVENGER”が草原を駆けていた。蒼黒の騎士騎は前線の端でフィル・ボルグ、クェーサルの両軍を射界に納めるとその場に停止、複合式二連銃身狙撃銃から斜め上に突き出した上部銃身側の弾倉を交換する。
「特殊弾の装填を確認。折り畳み銃身長距離狙撃銃を本体と連動。……では、状況を開始する」
ダレンはモニターに表示させた機体ステータスをわざわざ口に出して読み上げると、自機が両腕で保持する複合式二連銃身狙撃銃の銃口を一騎の標的へと向けた。両肩の可動腕式防盾一体型折り畳み銃身長距離狙撃銃が本体の動作に連動、二連銃身の向けられた同一標的へとその銃口の狙いが重なる。
「…………行け」
複合式二連銃身狙撃銃に先んじて、折り畳み銃身長距離狙撃銃から徹甲弾が放たれ、射線上の“TRAILBLAZER”の一機の胴体中央に風穴が開け、複合式二連銃身狙撃銃の上部銃身より放たれた特殊弾が開かれた風穴に飛び込んでいく。しかし、特殊弾を撃ち込まれた敵機は徹甲弾に撃たれた衝撃にはよろめいたものの、何事もなかったかのように動き出した。その結果に興味の無さそうな視線を投げたダレンは、つまらなそうに一度鼻を鳴らすと次の敵機へと銃口を滑らせる。
「では次……」
続けて放たれた二発の弾丸は、今度は素直に一機の敵SFを破壊する。その時、放たれたのは複合式二連銃身狙撃銃の下部銃身に装填されていたHP弾だ。
それから、ダレンと彼の操るSFは極めて作業的に戦場へと次々と弾丸を撃ち込んでいく。一度に同じ標的に対して二発ずつ撃ち込まれる蒼黒の騎士騎の弾丸に規則性はないのか、撃ち込まれた弾丸により連続して爆散する機体もあれば銃撃を受けつつも体勢を立て直す機体もあり、特殊弾の有無さえも結果への関係は無いようだった。もちろん前線で攻撃を行っている以上、ダレンの“AVENGER”は目立つことこの上なく、クェーサル軍のSFがその機体を排除しようと襲い掛かってくる。しかし、射撃戦仕様騎と侮ったクェーサルの近接戦仕様SF、D型装備“TRAILBLAZER”や“PATHFINDER”はダレン騎の複合式二連銃身狙撃銃の銃身下部に備えた鉈刃の銃剣に断ち割られていた。
「……こんなものか」
両肩の可動腕式防盾一体型折り畳み銃身長距離狙撃銃と複合式二連銃身狙撃銃に装填されていた弾丸を粗方撃ち尽くしたダレンは、自機が両腕で構える複合式二連銃身狙撃銃の銃口を空へと向ける。蒼黒の騎士騎は複合式二連銃身狙撃銃にたった一発残された最後の特殊弾を放つべく、その機体へと銃口を向け直した。その機体、自陣へと帰還しようとする両肩に破損の著しい可動腕式攻性防盾を着けた一騎の“AVENGER”へと。
「……せいぜい最後の華を咲かせるといい、さらばだ老いぼれ」
ダレンの操る蒼黒の騎士は構えた複合式二連銃身狙撃銃の銃口から弾丸を解き放った。弾丸は黒騎士の背から機体装甲内部へと突き刺さる。着弾を見届けたダレンは襟章へと手を伸ばし、指先を這わせた。
「……下された任務は果たした。後はそちらだ」
『ユークリッド、貴様は相も変わらず愛想というものがない。だが次はこちらの手番か、精々派手に擦り付けてやるとしよう』
ダレンの耳に骨伝導を用いて通信相手の声が届く。そして戦場を異変が襲った。
ダレン機によって特殊弾を撃ち込まれたSFで稼働中の機体はその動きを停止し、地面に横たわった機体は不自然な動作で立ち上がる。そして、近場のSFへとふらふら歩み寄ると各々が手にした武器の扱い方を忘れたように、棒切れを振り回す子供のような動きで襲い掛かり始めた。
数瞬の内にSFの装甲の隙間から鋼色の肉が溢れ出し、特殊弾を撃ち込まれた全てのSFが人型のフォモールへと変じていく。何時かの“祭祀の篝”で黒騎士から変じたものと同様に、原生生物を素体とするナイト種だ。戦場の只中で突如として姿を現したフォモールの姿に、その場に居合わせた両軍は
諸共に阿鼻叫喚へと叩き込まれていく。
†
アルノー・エラン=パーシモンは“円卓”ヒューゴー・セピア=レイノルズの愛弟子であり、此度の戦場では彼の副官を務めていた。その操騎術は師匠によく似通っており、時には師に成り代わり彼の専用騎を預かることも有った。そう、この戦場のように。
「ユークリッド卿、以前より何故か、儂はお主を信用出来んでな。で、あるが故にこうして此度は戦闘開始のその時よりパーシモンと機体を入れ換えておったのだが……」
左肩にのみ可動腕式攻性防盾を装備する一般仕様の“AVENGER”のコクピット内で、“円卓”の一員たる特務騎士ヒューゴー・セピア=レイノルズは独白する。内部からの圧力を受け異常な変異を遂げていく自機の姿は、ヒューゴー自身の記憶にも新しいものである。特務騎士は機体背部から高周波振動薙刀を解き放ち、黒騎士の機体に地を駆けさせた。
「……許せパーシモン、お主をこの手で斬らねばならぬとはな、……せめてこの一刃にて果てよ!」
己の眼前で変生を始めた自らの機体へと高周波振動刃を叩き込む。ヒューゴーの操る黒騎士の刃は過たずに自らの機体を両断、左右別々に分かれ倒れたSFは常のフォモールの死骸のように溶け崩れていった。
ヒューゴーは刃に付いた血を払うように高周波振動薙刀を振り動かし、脚部機動装輪を展開、己が愛弟子たる副官を切り捨てざるを得なかった鬱憤を晴らすべく機体を戦場へと走らせる。その視線の先にあるのは味方であるはずの蒼黒の騎士騎、ダレン・ペイル=ユークリッドの仕様騎の“AVENGER”の姿だ。
「貴様はここで討つ、至上の方に対してもこの戦の場であれば言い訳もたとう。貴様の存在はフィル・ボルグにも害悪でしかなかろうよ」
帝政国の特務騎士は、“円卓”という己と同格の特務騎士を戦場のどさくさで始末することを決意し、ただ真直ぐに走らせる。黒騎士が気にも留められぬほどに戦場は混乱しており、周りに危害を加えぬただのSFよりも、やみくもに周囲を攻撃するフォモールの方が両軍にとって脅威となっていた。
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