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第143話 必中の弓、輝ける鏃

 “FAILNAUGHTフェイルノート”は“TRISTANトリスタン”を右脇に構え、離れていく溶け崩れたかつてポーン種であった粘体を鎧のように纏うバビルサ型ナイト種へと発砲を繰り返しながら尚も距離を取る。

 “FAILNAUGHTフェイルノート”の装備する専用大型狙撃銃“TRISTANトリスタン”の機関部は、通常のSF用大型銃器のどれと比べても大きく、ほとんど機体骨格(フレーム)そのものといえる軽装甲と呼ぶほどの装甲の配されていない“FAILNAUGHTフェイルノート”の右の細腕により抱えられているのも不思議なほどだ。

 エリステラの繊手が半球状の操縦桿コントロールグリップの上で躍る。右肩の大きく開いたドレスを纏った森妖精(フェイルノート)腰部側面装甲(サイドスカート)から弾倉を引き抜くとさらに銃撃を重ねた。しかし、フォモールは猛烈な勢いで突き刺さってくる弾丸を気にした様子も無く、銃撃を受けた個所の粘体を震わせている。

 エリステラ・ミランダ=ガードナー専用機“FAILNAUGHTフェイルノート”の装備する専用大型狙撃銃“TRISTANトリスタン”は高出力電磁投射砲(レールガン)だ。高出力な“TRISTANトリスタン”のエネルギー消費は“FAILNAUGHTフェイルノート”の腹部に搭載されているリアファル反応炉(リアクタ)一基だけでは賄いきれず、“TRISTANトリスタン”の機関部に反応炉(リアクタ)を搭載、射撃専用とすることで高出力電磁投射砲(レールガン)の運用を可能としていた。


「あらら、効いているようには見えませんね。ですが……まだですよ、“シャーリィ”」


 “TRISTANトリスタン”より放たれた弾丸がバビルサ型に連続して着弾、衝撃にフォモールの体表を覆う粘体が水面のように震え、突き刺さった弾丸と同じ数の波紋が広がる。その様を見た少女は唇を震わせ、目を瞑ると機体制御システム(シャーリィ)へと語り掛けた。


「“シャーリィ”、あのフォモールへと接近しつつ弾倉交換、今ある通常弾を撃ち尽くしたのち、左の0番を装填。あれとの近接戦闘距離へ到達後、“FAILNAUGHTフェイルノート”および“TRISTANトリスタン限定解除(リミテッドリリース)です。行きますよ!」


 森妖精の姫君(フェイルノート)は後退していた機体を脚部機動装輪(ランドローラー)の急速な逆回転により一瞬の停止を挿み、そのまま前進を開始する。右脇の砲から断続的に四発の弾丸が連続して放たれ、フォモールへと襲い掛かった。バビルサ型ナイト種が一歩を踏み出すと全身を隈なく覆った粘体が地面へと滴り落ち、それに触れた下生えの草木が灰と化す。いつの間にかバビルサ型は朽ち果て、肉を削ぎ落とされ粘体を纏う半人半獣の骨格標本へと変じており、外部へと露出した頭蓋に刺さらんばかりに円弧を描く牙のみが元の姿を示していた。粘体の表面は波打ちながら女性像を象っている。

 エリステラの操る女性型SFは、着弾と同時に溶け消える弾丸が敵に対して有効な効果がない事を知りながらも射撃の手を止める事無く、自らの開いた敵との距離を縮めていった。


「今です、“シャーリィ”!」


『了解、限定解除(リミテッドリリース)


 エリステラは軽く呼吸を整えると機体の手から大型銃を開放させる。少女の唇から放たれた先の言葉を機体制御システム(シャーリィ)は映像に出力して繰り返す。同時に機体の手から解放され、背部へと可動した“TRISTANトリスタン”が“FAILNAUGHTフェイルノート”の右肩部に接続する機械肢(アーム)の接続部ごと機体右側へ移動、さらに機関部毎90°回転し、“TRISTANトリスタン”の上下が反転した。抱え込んで握っていた上下の入れ替わった銃把グリップを“FAILNAUGHTフェイルノート”の右手の先に伸びる金属の五指が握り込む。、“TRISTANトリスタン”の装甲に覆われた水鳥のくちばしを思わせる漏斗状の細長い銃身が90°回転、銃身全体が展開し細く隙間が開く。


「“TRISTANトリスタン反応炉(リアクタ)開放、変性分子機械(ナノマシン)放出、分子機械(ナノマシン)結晶化(マテリアライズ)


 “TRISTANトリスタン”の機関部後部が開くと、きらきらと輝く粒子が銃身に開いた隙間を満たし、急速にクリスタル状の結晶を形成、銃口と展開した機関部を繋ぐ様に一直線に伸びた。しかし、結晶構造は安定していないのか結晶化した表面から自壊した粒子光が空中へと零れ落ちている。その変化は“TRISTANトリスタン”のみに止まらず、“FAILNAUGHTフェイルノート”の全身に配された銀色のラインが発光、重なり合った腰部側面装甲(サイドスカート)の涙滴型装甲の先端が一番内側の物を残して僅かに展開、コクピット内にはカウントダウンが表示された。

 今にも接触しかねない距離まで接近した右腕に変形した“TRISTANトリスタン”を構えるエリステラ機へと、人型の粘体となったフォモールが幾筋もの触手を伸ばす。

 銀色のラインが走る黒のパイロットスーツに身を包む少女は、咄嗟に右腕を盾に機体を庇ってしまい、内心ではしまったと感じながらエリステラは襲い来る衝撃に備え、身構えて目を伏せた。


「……って、あら?」


 衝撃を感じなかったことを不審に思い、エリステラが目を開く。そして目撃したのは右腕の“TRISTANトリスタン”の生み出した分子機械結晶から自壊し空中へと零れ落ちていく粒子光が機体前面に薄く膜状に広がり、フォモールの攻撃を少女の機体まで届かせてはいないという光景だった。


「これって、以前のジョンさんの機体と同じ機能ですか!? え、こんなの聴いていませんよ、わたし!? あ、やだ、早くしないと時間が!」


 粒子膜ごと粘体を右腕で弾き飛ばした“FAILNAUGHTフェイルノート”は、銃身の先に伸びた結晶の刃で、明らかに物理攻撃を無効にするであろう粘体のフォモールを斬り裂く。そのまま一回転し結晶の刃の生えた銃身を左脇に抱え、起き上がった補助銃把サイドグリップを機体の左手が逆手に握り込み、その左腕が僅かに後ろへと引かれると、補助銃把サイドグリップが90°回転して銃把の端が起き上がり、機体前方に向いた“TRISTANトリスタン”の機関部が反応炉を上側にアルファベットのMかWを思わせる形状に展開、限界まで左手が引かれると、結晶の矢を番えた大弓へと変形した。


「こ、これもいったいなんです!? わたし、聴いてませんよぅ!!」


『“TRISTANトリスタン”、最終攻撃形態(ファイナルモード)


 粘体フォモールは二つに裂かれながらも果てることなく、“FAILNAUGHTフェイルノート”への攻撃を続けているが、女性型SFの機体周囲に展開された粒子防御膜を突破することが出来ずにいる。


「もう! おじ様もジェーンさんも後でとっちめてあげますからね!」


 エリステラがそう言うと同時に、“FAILNAUGHTフェイルノート”の手元から長大な結晶の矢が放たれる。補助銃把(サイドグリップ)から左手が離れ、矢が解き放たれると自壊した分子機械粒子が矢を中心に渦を巻いて飛翔し、至近距離に存在した二つに断たれた粘体フォモールを巻き込んで地面を抉り取りながら大樹林の外まで続く道を大地に刻み込んだ。

お読みいただきありがとうございます。

サブタイトルは後から追加します。

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