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第142話 一人、森の中で

 エリステラ・ミランダ=ガードナー専用SF“FAILNAUGHTフェイルノート”は、脚部機動装輪ランドローラーを用いて廃墟の切れ間から飛び出し疾走を開始する。

 レーダーの捉えたフォモールの反応は姿も分からないナイト種だが、どうやら少女の駆るSFの存在を察しているのか、鋼獣の視界に入らないであろう距離から、真直ぐにエリステラの女性型SFを目指し距離を詰めて来ていた。


「“シャーリィ”、相手はナイト種のようです。ポーン種が表れていない今のうちに軽く牽制射撃から行きますよ」


『了解、TRISTANトリスタン反動制御開始』


 少女の視界の隅に機体制御システム(シャーリィ)のメッセージが浮かんで消え、右脇に抱えた新型狙撃銃“TRISTANトリスタン”から走行中の機体にかかっていた負荷が驚くほどに軽減され、エリステラが火器管制トリガーを引き絞ると、流石に走行中では反動制御も完璧にとは働かず僅かに機体がよろめくが、前方に突き出された細長い嘴状の銃身から高熱を纏った飛礫がフォモール・ナイト種の視認距離外から飛翔する。

 少女は射撃の反動に振り回されて揺れる機体の不規則な挙動を考慮したうえで、標的へと向けた銃口をほぼ固定し、続け様に三連射、弾倉は同時に空となり自動的に排出された。

 レーダー上の対象の動きが止まり放った弾丸の着弾を教えるが、急所への直撃は無かったのか、レーダーに映る敵影は再び動き始め、尚もエリステラ機との距離を詰めんとしている。


「次は右5番の弾倉をお願いします、“シャーリィ”」


『…………』


 機体制御システム(シャーリィ)は新しいメッセージを表示させず、淡々と機体の制御を以て応え、機体右側の涙滴状側面装甲(サイドスカート)が開き、前方へと弾倉が突き出された。


「これで足止めぐらいにはなるかしら?」


 右側面装甲(サイドスカート)上部に展開された折り畳み式騎剣フォールディングソードの柄と並行して飛び出した弾倉を、補助銃把(サイドグリップ)から離した左腕部マニュピレータで掴み取り機関部に装填すると、エリステラは呟きと共に半球状の操縦桿(コントロールグリップ)のトリガーを押下先程と同じように連射する。

 右の5番弾倉に込められていたのはフレシェット弾、大型の弾体が銃口から連続して放たれ、標的に届く直前に弾体が胡桃の殻のように割れ、内部に収められていた無数の矢型子弾がナイト種へと降り注いだ。

 少女の操作により“FAILNAUGHTフェイルノート”が射撃を終えた“TRISTANトリスタン”のグリップから両手を離すと大型銃は背部へと自動的に可動、腰部両側から突き出された折り畳み式騎剣フォールディングソードの柄を握り締める。既に全身からフレシェット弾の矢型子弾を生やしたバビルサ型のナイト種の姿は少女の肉眼ですら視認できる距離にまで迫っていた。

 “FAILNAUGHTフェイルノート”は踵に備える脚部機動装輪(ランドローラー)の回転を上げ、前傾姿勢でとなると全速力で地上を疾走する。


「あらまあ、足止めにはなりませんでしたか。“シャーリィ”とうとう接近戦です。わたしは攻撃に専念しますから、貴女は補助をお願いね」


Got it,(了解、)modeCQC(近接戦闘モード) ready(セット)


 イノシシに似た頭部を持ち、己が額に突き刺さらんと円を描いて伸びる牙を生やしたバビルサ型のナイト種は姿勢を低くしたまま突進、全身に刺さった矢型子弾など意に介した様子も無く少女の駆るSFへと駆け寄って来た。そのフォモールは体表を鋼色の剛毛に覆われており、“TRISTANトリスタン”により撃ち込まれた三発の弾丸は皮膚に届くことなく鋼獣の身体の中心で全てが獣毛にめり込んだまま止まっている。

 ナイト種へと駆け寄り様に“FAILNAUGHTフェイルノート”は左手で右腰部から折り畳み式騎剣フォールディングソードを抜剣、エリステラは自機へと伸ばされたナイト種の右手を、フォモールへと触れた瞬間に高周波振動した刃で斬り払った。鋼獣の脇を駆け抜けたドレスを纏った女性を思わせるSFはナイト種の手の届かない位置で旋回、落とした右腕の傷口を押さえるバビルサ型と改めて対峙する。


「おじ様お手製の試製折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣ヴァイブロソード、ジョンさんの物を拝借して完成させただけあってよく斬れますねぇ、コレ」


 少女は左手の騎剣を右腰に収めると紅を乗せずとも紅い柔らかな唇からそう零し、ついで右腕で左腰から騎剣を抜き放ち構えた。相対したナイト種の喪失した右腕の傷口が泡立ち、骨や筋肉そして皮膚が見る間に再生、地に落ちた右腕は泡立ち黒い汚泥へと変じている。


「とはいえ、一度の斬撃で再充填しないと行けないというのは、大変不便ですけれど」


『材質不明、解析限界』


「ええ、本当に何でも有りなのかしら、ジョンさんの“救世者(セイヴァ―)”は。けれど今は、目の前のナイト種、ですね」


 バビルサ型ナイト種は左手の指を再生した右腕にめり込ませると自ら引き抜いた。右腕は瞬く間に再度再生、先ほどまでよりも明らかに太く長い物へと変じ、拳を握れぬほどに肥大した指の先は槌のような形となる。左手に引き抜かれた元の右腕は体表の獣毛が硬化、原始的な鋸を思わせる無骨な剣となった。

 ナイト種は大きく振りかぶった野太い右腕を“FAILNAUGHTフェイルノート”へと打ち下ろす。折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣ヴァイブロソードでその右腕を切り裂くことは可能に思えたが、エリステラの操る女性型SFは脚部機動装輪(ランドローラー)で高速後退、巨大な右腕を回避する。ナイト種は地面にクレーターを穿った右腕を支点に自身の身体を投げ放ち、左腕に握った鋸剣での予測不明な軌跡を描く斬撃を見舞った。エリステラは自らの機体が歪な鋸刃に切り裂かれるのを嫌い、“FAILNAUGHTフェイルノート”の右腕の高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)を接触間際のフォモールの鋸剣に打ち合わせる。

 “FAILNAUGHTフェイルノート”の騎剣の刃が高周波振動しナイト種の鋸刃を切り裂こうとするものの、それと嚙み合ったフォモールの鋸刃は蠢いてSFの剣刃を刻み砕こうとしていた。

 金属質の振動体同士が嚙み合ったまま、耳障りな金切り音を鳴り響かせる。打ち克ったのは少女の駆るSFの騎剣、刃に刃毀れを起こしながらもフォモールの鋸剣を斬り飛ばす。バビルサ型ナイト種の鋸はエリステラ機の騎剣に斬られた瞬間に、自身の手により引き抜かれた際には変わる事のなかった汚泥へと変じ、フォモールの手の中から滴り落ちる。

 “FAILNAUGHTフェイルノート”は自身の左手を見詰め動きを止めたナイト種から距離を取った。


「埒があきません、“シャーリィ”、“FAILNAUGHTフェイルノート”の全機能を開放、わたしの合図と共に“TRISTANトリスタン”を隠蔽形態(シークレットモード)に!」


Yesイエス,myマイ mistressミストレス


 ナイト種が顔を上げ咆哮を上げ、沸き上がった黒い土埃の中から数頭のポーン種が姿を現す。いずれのポーン種の体表にも女性像が浮かび上がっており、溶け崩れるとバビルサ型の身体に纏わりついていった。

お読みいただきありがとうございます。

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