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第141話 悲嘆の子

「おじ様、わたしはもう少し周辺のフォモールを掃討してから団本拠(ハウス)へ帰投します」


『……おう、無事に帰って来いよ。それから詳しいレポートはその後でな』


「はい、では後ほど、失礼いたします」


 画像の技師長へと頭を下げ、エリステラは団本拠(ハウス)との通信を終えた。少女は一度瞼を閉じて頷くと、独り言を呟くようにコクピット内に声を放った。


「“シャーリィ”、次射は反動制御を全て解除してください。私自身で新式狙撃銃(トリスタン)の反動がどこまでの物かを感じて置かないと、万一、貴女の補助がない状況での射撃に影響を及ぼすことも考えられますからね」


 エリステラの声に反応してコンソールが点滅、少女の網膜に投影される映像に一文が表示され、機体制御の大半が彼女の操作に(ゆだ)ねられる。


Yesイエス,Myマイ mistressミストレス


「もう、何も今直ぐという事ではないのですよ、“シャーリィ”? え、あら、索敵情報が更新されていますね、もう新しいフォモール群が……」


 エリステラは気合を込めるように操縦桿(コントロールグリップ)に僅かに力を込めた。その僅かな力にも過敏に反応した機体が微かに身じろぐのを感じ、少女は機体制御システム(シャーリィ)を窘めるように笑いかけるが、次いで別窓に表示された索敵情報には4頭程度のフォモールの群の反応が赤いマーカーで表示されている。

 曲面を多用し、白を基調にアイボリーと銀色のラインでアクセントをつけたカラーリングの、遠目には右肩の露出したワンショルダーのドレスの女性を思わせる特徴的なデザインのシルエットをしたSF、エリステラ・ミランダ=ガードナー専用機“FAILNAUGHTフェイルノート”は廃墟の陰から起き上がると、敵を感知した方向へとゆっくりと歩き出した。

 ゆっくりと歩行しながら左肩部装甲のスズランの花を思わせる半球状防盾(ディフェンスプレート)の花弁状パーツが展開、内蔵の高感度センサーユニットが外部に露出される。

 その機体の右半身は、左半身よりも装甲が軽量化されており、機体全体としては一貫したデザインラインを保ちながらも非対称(アシンメトリー)の印象を周囲に与えていたが、今、その右肩部装甲(ショルダーガード)側部には“FAILNAUGHTフェイルノート”の本体と、右腕に抱えられた“TRISTANトリスタン”の機関部とを連結し、エネルギー回路を接続するヒンジ状の機械肢(アーム)によって懸架されていた。

 腰部側面装甲(サイドスカート)の涙滴型フィン状装甲を斜め後方の地面に向け、最も内側の装甲に備えた細剣(レイピア)状姿勢固定アンカーをいつでも射出できるように待機させている。

 右脇に抱えられた新式狙撃銃“TRISTANトリスタン”は機関部の大きさと比すると銃身は不自然なほどに短く、銃把グリップから手を離すと右肩に接続するヒンジ状の機械肢(アーム)毎、自動的に背部へと可動する機構を備えているが、そうして機体背部へと可動しても“TRISTANトリスタン”の銃身は機体下腿部に届くまでの長さしかなかった。

 エリステラの愛用していた長距離狙撃銃(ロングレンジライフル)雷霆サンダーボルト”のような折り畳み式銃身フォールディングバレルも無く、しかし、“TRISTANトリスタン”の銃身にはその代わりのように水鳥のくちばしを思わせる漏斗状の細長く厚い装甲に覆われている。

 “FAILNAUGHTフェイルノート”の右上半身装甲が軽装となっていた理由は、“TRISTAN(この銃)”を装備するという、ただ一点にあったようだ。

 エリステラは搭乗する“FAILNAUGHTフェイルノート”の高感度センサーが感知する敵群を、射程に捉える為に歩行による移動を続ける。

 右脇に抱えた“TRISTANトリスタン”、その機関部上面に取り付けられているセンサーも並列起動、機体両側のセンサーで補足した敵の正確な位置情報を特定、廃墟群の途絶える間際に機体を停止させた。


「機体はこの場に固定します」


 腰部両側の側面装甲(サイドスカート)から細剣(レイピア)状姿勢固定アンカーを地面に射出し、その場にSF“FAILNAUGHTフェイルノート”の機体を固定、新式狙撃砲“TRISTANトリスタン”の銃口をカメラに映る猿型のフォモールの一群へと向ける。


「続いて弾倉交換を行います。“シャーリィ”、新たな弾倉は左の3番を。“TRISTANトリスタン”での攻撃を開始します!」


 少女の操作により“FAILNAUGHTフェイルノート”の右腕の動作で銃身を持ち上げられた“TRISTANトリスタン”の機関部から弾倉が排出され、左腰部の側面装甲(サイドスカート)数枚がスライド、装甲内部から飛び出した新たな弾倉を左手に掴むと弾倉の排出により口を空けた空間へと流れるような動作で叩き込んだ。機関部に折り畳まれていた補助銃把(サイドグリップ)を弾倉交換後に空いた左手で保持、“TRISTANトリスタン”の銃身を地面と水平に寝かせ、敵の猿型ポーン種の一群へと再度狙いをつけ直す。

 エリステラは機体のセンサーが送ってくる情報に頼る事無く、標的へと向けた銃口を小いさく動かした。


「……照準、入りました!」


 映像上で照星とポーン種が重なった瞬間、少女は操縦桿(コントロールグリップ)の火器管制トリガーを引き絞った。同時に、“TRISTANトリスタン”の機関部が唸りを上げ、銃口から弾丸が吐き出される。飛翔する弾丸の残した衝撃に厚い装甲を纏った銃身が跳ね上がり、“FAILNAUGHTフェイルノート”の機体が後方に押され支えていた細剣(レイピア)状姿勢固定アンカーの刃は地面に深くめり込み、女性の姿のSFが斜めに傾ぐ。そのまま倒れ掛かるのエリステラは機体の片脚を引いて踏ん張ることで何とか回避、機体の姿勢を整えると自機の射撃の結果を確認するため、センサーで周囲の状況を確認した。


「結果は……っと、ほ、先程と結果は変わらず、ですね。……ですが、“シャーリィ”貴女の補助はとても重要ね。射撃の度にこれでは、まともに戦闘行動はなんて続けていられないもの」


『緊急事態、緊急事態!! ナイト種反応1、急速接近!!』


 蒸発したようなポーン種の一群に言葉を落とす少女へと機体制御システム《シャーリィ》は警報音とともに索敵情報を表示する。


「息を吐く暇も無し、ですか。いいわ、“シャーリィ”、近接戦闘準備、脚部機動装輪(ランドローラー)展開」


 “TRISTANトリスタン”を構えたまま、“FAILNAUGHTフェイルノート”の踵部から脚部機動装輪(ランドローラー)が展開、踵が上がりドレス姿の女性がハイヒールを履いたような姿となり、腰背部から折り畳み式騎剣フォールディングソードの柄が腰部側面装甲(サイドスカート)の涙滴型フィン状装甲上端にポップアップし、いつでも騎剣を抜き放てる状態となった。

 少女は機体を疾走させ、フォモールの下へと駆け出していく。


「ついでですし、走行時の偏差射撃も試しておきましょう。“シャーリィ”、反動制御とデータ収集、よろしくお願いします」


 エリステラは未だ遠くに見える敵影へと右脇の砲から弾丸を飛ばし始め、ナイト種と思しきフォモールへ攻撃を加え始めた。

2016年内の更新は今回が最後になります。お読みいただきありがとうございます。

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