第138話 名高き者、名も無き者
ウィリアム=リーズレットの操るG型装備“TRAILBLAZER”は、前線へと突進した結果、当然のごとく、フィル・ボルグ軍の前衛を務める近接兵器を装備したSFの“REVENGER”や“AVENGER”から集中して狙われていた。
両肩の肩部装甲の先端を肩部装甲との接続部を支点に前方へ回転、敵集団へと向けて鋭角な装甲先端の切り掛けに埋め込まれた機関砲の砲口から周囲へと牽制射撃を加える。
だが、包囲するフィル・ボルグ軍のSF“REVENGER”の内、一機が両肩部から伸びる機械腕によって可動腕式防盾を前方に可動させ、ウィリアム機の放つ機関砲の砲撃に構わず突出して来た。
黒の機体はウィリアムのG型へと対面から走り寄り様に、左の可動腕式防盾裏に格納されていた折り畳み式騎剣を右手で抜き放ち、間髪を入れず横薙ぎの斬撃を放つ。
ウィリアム機は咄嗟に右肩を前方に突き出し、先端を下方へと回転させた肩部装甲表面で敵の斬撃を受け流すと、大きな装甲の陰に隠れる形となった左手で、右前腕の固定式掌盾から電磁警棒を抜き取り、斬撃を放つ為に機体前面に可動させていた防盾を開いた黒い“REVENGER”の胸部目掛け、電磁警棒先端の刺突用スパイクを突き込んだ。
SFのように電装系の無い鋼獣にさえ強制的に流し込まれる超高圧の電流が、SFの機体内に張り巡らされている電子回路を刹那のうちに駆け巡り、黒のSFは彼方此方の装甲の継ぎ目から白煙を上げその動作を停止、ウィリアムのG型は敵機から電磁警棒を引き抜くと同時に左肩部装甲の機関砲から止めの弾丸を撃ち込む。半歩後退し、電磁警棒を右前腕の固定式掌盾格納、“REVENGER”の末路を見届けることなく前のめりに崩れ落ちる敵機体を迂回し、その背後へと高速回転する脚部機動装輪で地面を滑るようにして走り抜けて行く。
砲撃装備の主武装を失った“TRAILBLAZER”は敵味方に関わらず、両軍後衛のSF群が放つ砲弾の雨に曝されながら、両軍の前衛がぶつかり合う最前線を目指した。
†
フィル・ボルグ軍前衛SFのの最前を、ほぼ単騎で駆ける一騎の“AVENGER”、両肩に可動腕式攻性防盾を装備した“円卓”ヒューゴー・セピア=レイノルズ専用騎は何機目かのD型装備“TRAILBLAZER”を高周波振動薙刀の片刃で右から左へと薙ぎ払う。
狙われたD型は両手で装備した噴進戦鎚を手に、弧を描くような軌道で大回りに高周波振動刃の薙ぎ払いを回避した。
直後に背面の大型推進器と両肩の推進器、戦鎚の打面逆側にノズルを突き出した推進器も併用し急加速、ヒューゴー騎の折り畳み式騎剣の届かないぎりぎりの間合いから戦鎚を振り抜き、“AVENGER”の防盾の上から無理矢理に叩き付けた。
金属の拉げる音が響きヒューゴー騎の攻性防盾が砕かれたかに思えたが、ヒューゴー騎は高周波振動薙刀が回避された瞬間に脚部機動装輪を逆回転、後退することで噴進戦鎚の打点をずらした“AVENGER”は砕かれんとした可動腕式攻性防盾で戦鎚の頭を斬り飛ばす。だが、“AVENGER”の動きはそれで止まることはなく、機体左腋に流れた高周波振動薙刀の刃を返し、左から右へと、先の薙ぎ払いの軌跡を逆さに辿るように、右腕一本で振り回した。
その際、機体にわざと右手の力を緩めさせ、高周波振動薙刀の長柄は遠心力で“AVENGER”手の中を滑り、その刃を武器を破壊され尚も急接近するD型装備“TRAILBLAZER”へと届かせる。
D型は右腕を犠牲に高周波振動薙刀を防ごうとするが、黒騎士の手の中を滑り急激に伸びた高周波振動刃に為す術なく切り裂かれ、機体の反応炉が内圧により破裂、機体諸共に爆散した。
敵機の残骸に背を向け、右手の中を石突まで滑った高周波振動薙刀の長柄を両手で保持し直すと、至近距離からの機関砲弾が横合いから襲い掛かってきた。
ヒューゴー騎は可動腕式攻性防盾を可動させ、機関砲の攻撃を高周波振動する防盾の表面で防ぐ。
機体頭部を巡らせたヒューゴー騎の視界が捉えたのは、前衛に居るのが場違いな砲撃戦仕様“TRAILBLAZER”が疾走して来る姿だった。
“円卓”の黒騎士は防盾で身を守ったまま、機体をクェーサル製SFへと向き直させる。
特徴といえる背部の長砲身電磁投射砲を喪失したG型は、機関砲の攻撃を両肩に可動腕式攻性防盾を装備するヒューゴーの“AVENGER”へと加え続け、味方機の残骸の傍らに突き立った両手剣の柄を疾走したまま掴み取ると勢いに任せて叩き付けてきた。
黒騎士は構え直したばかりの高周波振動薙刀をG型へと投擲、G型装備“TRAILBLAZER”は飛来する高周波振動薙刀を避けるためにその手から拾った両手剣をすっぽ抜けさせる。
しかし、G型の肩部装甲に内蔵された機関砲による攻撃は止むことなく、クェーサル機は腰背部から戦棍状の武装を取り出すと柄を回転させるように黒騎士に向け放り投げた。
それがなんであるかに気付いたヒューゴー騎は両肩の攻性防盾をG型の方向へ展開、片脚を後ろに引いて衝撃に備える。
G型の放り投げた戦棍状の武装、SF用柄付手榴弾は緩やかな山型の弧を描いて“AVENGER”の至近距離、放り投げたG型との中間に落ち、“TRAILBLAZER”の放ち続ける機関砲の砲弾が柄付手榴弾の炸薬を撃ち抜き、二機のSFは同時に爆炎の内に飲み込まれた。
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