第137話 戦場にて
黒く焦げた人型の残骸が点在する広大な大地を、黒東と朱金が東西に二つの色で塗り分けている。
人類領域大陸に存在する四大国の間に広がる大陸中央平原をフィル・ボルグ帝政国とクェーサル連合王国との国境線からクェーサル側に入り込んだ草原で、人型兵器SFを主体とした両国の軍勢が対峙していた。
東の朱金はクェーサル連合王国の象徴色、その上から引かれた線の色が青、白、緑、紫の四色の何れかであるのかで連合王国を構成する四カ国、農業国ヴァン、商業王国クェーサル、漁業国フィンタン、酪農国バンバのどの国の部隊なのかを示している。
一方、対照的に西に列をなすフィル・ボルグ帝政国の軍勢は黒一色で染め上げられ、少数の最新鋭の機体のみ金の縁取りがされていた。
フィル・ボルグ帝政国からクェーサル連合王国への侵攻により彼の国の強襲部隊に攻め込まれたクェーサル連合王国軍はこれを緊急展開した即応部隊の戦力でバンバ国内西に広がる草原上に押し止めた。とても小競り合いとは言えない激しい前哨戦を終えた両軍は、本格的な開戦までの短時間の内に部隊展開を速やかに進めていく。
クェーサル連合王国軍の主力を形成しているのはクェーサル製最新鋭SF“TRAILBLAZER”だ。防衛戦であるためか、この場には砲撃戦仕様のG型装備機が多くみられる。
このSFは背部装備と肩部装甲の換装により、砲撃戦仕様のG型、通常仕様のN型、重装甲突撃仕様のD型と目的に応じて装備変更可能となっており、G型装備は背部装備に高感度センサー内蔵長砲身電磁投射砲を二門、両肩の大型肩部装甲には電磁投射砲の機能を補助する為の大容量蓄電池と菱形をした装甲先端部に近接防御用機関砲内蔵、両前腕部の固定式掌盾には電磁警棒も装備している。
G型に次いで多いのはN型、隊列の最前列に並ぶD型装備はの特徴は背部装備に大出力の大型推進器を二基、上腕部の中程までを覆う小型肩部装甲にも方向転換用の自在可動推進器を左右に一基ずつ内蔵している点だ。
大出力を誇る機体の全推進器推力で脚部機動装輪を用い、高速で戦場を走破、高速を保ったまま短機関銃等の速射性に長けた銃器や大型の近接武器等での攻撃を加える電撃戦を得意とする。
そのD型と共にクェーサル軍の最前衛を構築しているのは“PATHFINDER”という“TRAILBLAZER”の一世代前のSFで、ネミディア製の“ELEMENT”や今まさに対峙しているフィルボルグ製のSF“RETALIATE”とほぼ同時期に製造された機体だ。前世代SFの“PIONEER”からの方針を継承し、軽装甲高機動の設計がされている。他の三ヶ国の機体よりも装甲は厚めで速度も遅いがクェーサル製SFとしては最高速を誇り、左右下腕部には電磁警棒を仕込んだ掌盾を装備、近接戦闘に特化している。
対するフィル・ボルグ軍は前衛を近接戦闘を得意とする“AVENGER”と“REVENGER”が構成し、後衛を“RETALIATE”を中心に構成していた。
“RETALIATE”の約半数は可動腕式防盾に無反動砲を装備し、残る半数は大口径長距離狙撃銃を装備している。
戦場となった草原の西側からはフィル・ボルグ製SF“RETALIATE”が放つ無反動砲や大口径長距離狙撃銃の砲弾や弾丸が空を裂き、東側からはG型装備“TRAILBLAZER”の二門の長砲身電磁投射砲が放つ高速弾が音速で飛び交う中を、両軍の前衛を構築するSF達は脚部機動装輪を展開、推進器を全開にして時折爆炎が巻き上げる土砂を貫いてぶつかり合う。
砲火を裂ける様にジグザグに走るフィル・ボルグ軍の先駆け、“AVENGER”の先頭を征くのは両肩に可動腕式攻性防盾を装備した機体だ。
高周波振動薙刀を構えた黒騎士は鎧袖一触に刃を一閃、先陣を駆け向かって来るD型の一機へと斬りかかる。
黒騎士に斬りかかれたD型は両肩の自在可動推進器の推力も併せて後方に集中、装備するSF用両手剣で黒騎士の長柄を打ち付けて薙刀による斬撃を封じた。しかし、黒騎士の攻撃はそこで止まらず、左腕を長柄から放すと可動腕式攻性防盾の高周波振動を作動、盾による斬撃を繰り出してくる。D型は機体右マニュピレータを肘から斬り飛ばされ、黒騎士が左腕に握った騎剣により機体ごと操縦者は貫かれていた。
自機が敵機に照準固定された事を警報により知ると、黒騎士は騎剣で突いたD型の機体毎その場に旋回、自機の身代わりに砲撃を浴びせる。下した敵機の爆発に紛れ、黒騎士は戦場で次の獲物を目指した。
フィル・ボルグの“円卓”がクェーサルの機体を撃墜したのと、時を同じくして、クェーサル軍の精鋭、ウィリアム=リーズリットもまたフィル・ボルグの機体を撃墜している。
彼が操るのはクェーサル軍の後方に整列するG型装備“TRAILBLAZER”の内の一機だ。左右の肩口から前方に伸びる長砲身電磁投射砲で、フィル・ボルグの前衛機体を狙い撃っていたが、ウィリアムをもってしても突出して駆ける黒騎士には的中させることが出来ずにいた。
戦場はクェーサル、フィル・ボルグの双方に一進一退の様相を呈していたが、クェーサル側に黒騎士の勢いを止めることが出来るものは現れず、業を煮やしたウィリアムはG型装備のまま、脚部機動装輪を展開し黒騎士の跋扈する戦場へと走り出した。
走行中に長砲身電磁投射砲の残弾を敵機に向かって全弾発射、近接戦闘型の機体や射撃戦闘型の機体を問わずに命中させ、残弾と同じ数の敵機を爆散させると、走行の邪魔になる長砲身電磁投射砲を除装、機体重量を激減させたウィリアム機はG型と思えぬ速度で草原を駆け抜けていく。
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