第133話 護る意志のままに
女性像をその背に刻んだポーン種はゆっくりと四肢を動かし周囲に展開するSF達との間合いを詰める。
『う、うぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!』
その場に生き残った護衛SFの内の一機、ネミディア連邦製のELEMENTが、先刻にそのポーン種へと銃撃を放った周囲の味方がどのようになったのかを忘れたか、それともポーン種と呼べぬポーン種が放つプレッシャーに耐えきれなくなったのか、両手で構えていた突撃銃の銃口を女性像を背に刻んだ獣へと向け、脚部機動装輪を展開し高速で後退しながら銃弾をばら撒き始めた。
ポーン種はただ一機で攻撃を始めた人型の機体を一瞥、銃口から放たれ連続して空を裂いた数えきれない弾丸は、その全てが目標としたその獣身に触れることすらなく。攻撃を放ったSFと目標のポーン種との丁度中間、空中で時が止まったように急停止、くるりとその行き先を反転させた弾丸は銃口を飛び出した時と同じ速度のまま、そこまでの自らの軌跡を辿る様にもと来た方向へと逆行を始め、攻撃を放ったSFは自らの放った弾丸の雨に晒される事となった。
その機体の手の中から突撃銃が地面に落ち、パイロットは迫りくる無数の弾丸によってもたらされる自らの結末を無理矢理に受け入れようときつく瞼を閉じて、身を襲うであろう衝撃に少しでも耐えようとコントロールグリップから手を離し機体の奥で身を縮こまらせた。人間の手による操作が失われ、その場で後退を止めた機体に、戻ってきた弾丸は容赦なく突き刺さり始めた。弾丸はELEMENTの機体を庇う双腕へと突き刺さり砕き飛ばす。
続いた弾丸が頭部センサーユニットに弾け、サブセンサーへと切り替わる間際、コクピット内部では外部映像が途絶え、赤色灯の点灯と共にモニターが数瞬暗転、サブセンサーの捉えた映像が映し出された。
最期を悟ったパイロットの視界に、左腕のみ銀色をしたSFの揺らぐ青焔が如き色に塗装された背中が涙に滲んで映る。
『ELEMENTのパイロット! 生きてるっ? まだ機体が動くなら味方と合流して!! コイツは僕がどうにかする!!』
ELEMENTのパイロットは眼尻に溜まった滴をパイロットスーツの袖で乱暴にぬぐい、左腕のみ銀色のSFに守られながら、機体装甲の各部に弾丸を食い込ませたまま、自身のSFで逃走すべく機体の操作を再開させた。
†
「レビン、この場のSF隊の再編を頼んだ。それから、隊商全体をなるべく早くこの場から退避させて! ――簡易神王機構、粒子防御膜展開!!」
『な、おいっ、待て、ジョン=ドゥ!! またか貴様!!』
傍らに存在した他所の狩猟団に所属するELEMENTの一機が、恐慌から攻撃を始めた直後、ジョンはレビンの搭乗する僚機へと通信を飛ばし、返答を待たずに“銀腕の救世者”にその機体を追わせるように疾走させた。右手に抜き放ったままの折り畳み式騎剣を掌盾形態に変形させ、機体前面に構えると、自ら棒立ちのSFを襲う弾丸の雨の中へと突っ込んでいく。
機体周囲に展開された粒子防御膜を掌盾に変形させた右腕の折り畳み式騎剣を中心に収束、少年の危機感を表しているかのように常に無い高密度の量子機械粒子の防壁を発生させていた。
救世者が飛び込む寸前に、弾丸はELEMENTの機体まで到達しており、身を庇う双腕へと突き刺さり砕き飛ばしている。
続いた弾丸が頭部センサーユニットに弾け、機体の中心までもを貫く間際、“銀腕の救世者”の粒子防御膜が飛来した弾丸を食い止め、銀色の左腕を持つ機体が掌盾を構えて立ち塞がった。
「ELEMENTのパイロット! 生きてるっ? まだ機体が動くなら味方と合流して!! こいつは僕がどうにかする!!」
ジョンは外部スピーカーを通じて勢い任せにそう言い放ち、その場に留まって背後のSFが退避するのを見届けると、弾丸の雨の先にあるポーン種の特殊個体へと向かい機体を前進させ始める。
すでにELEMENTによって放たれた弾丸は尽きているはずだが、今だ弾丸の雨は止まず、高熱を纏って空を裂く飛礫が途絶える様子もない。始めのうちは粒子防御膜に触れたはしから蒸発していた弾丸の雨は、今や防御膜に触れただけでは終わらず、防御膜に食い込むと涙滴型の先端に小さな顎を開き、“銀腕の救世者”の粒子防御膜を食い破らんとしていた。
幸いにして弾丸の雨の面積は左程広がっておらず、“銀腕の救世者”の粒子防御膜の展開範囲に納まっている点と、自らの攻撃を防ぎ続ける銀色の左腕のSFを強敵と悟ったか特殊型ポーン種が救世者に攻撃を集中させはじめた点の二つのみは、救世者を操るジョンと退避を始めた企業連合隊商にとっての幸運と言えた。
少年は特殊型ポーン種との間合いを詰めるべく、機体をじりじりと前進させる。脚部機動装輪を展開しており、疾走し間合いを詰める事も出来たが、ジョン=ドゥはそれを選択する事なく、あえて機体を歩ませる事で特殊型ポーン種との間合いを詰めようとしていた。
何故ならば、彼の機体の背後には退避を開始した隊商の車列と、損傷を追いながらも後退を始めた護衛SFの部隊が存在していたためであり、また、高密度に展開させている粒子防御膜によって辛うじて耐えられている現状、粒子の希薄化による防御膜の脆弱化はとてもではないが歓迎できるものではない。
特殊型ポーン種は獣と女性を混ぜ合わせた顔貌で、下から“銀腕の救世者”を睨め付けていたが、一向に効果を果たさない飛礫を見限り、ためていた四肢の発条を開放するように地面を蹴ると銀腕のSFに高速で飛び掛かった。
少年は特殊型ポーン種の唐突な行動に驚きながらも冷静に機体を操作して対応する。“銀腕の救世者”は特殊型ポーン種の行動開始から一拍遅れて行動を開始、展開したままだった脚部機動装輪を高速回転させ地面を滑るようにして疾走、|粒子防御膜の展開範囲をさらに狭め円錐状に展開、掌盾を核に仮想の衝角と成した。
「“簡易神王機構”、量子機械粒子発生量を最大に、“神王晃剣”で奴を切り裂く!」
『ご主人様、当機体機関正常、ですが粒子発生量は現状で最大です。出力低下は以前の戦闘の影響が尾を引いていることが原因であると断定できますが、これよりさらに“神王晃剣”の展開は、可能であってもおよそ5秒、照射範囲も最大でも2mが精々かと』
「いいさ上等、やってやる!」
光の円錐を構えた“銀腕の救世者”とポーン種を逸脱し始めた特異個体は互いに距離を詰め、その中間点で激突する。
お読みいただきありがとうございます
サブタイトルが決まらなかったのでこのまま投稿しました。
思いついたらサブタイトル入れておきます。




