第116話 道化師とお節介野郎
「レナ! レビン! アナタ達は出来るだけ奴に牽制を! 弾が切れたら団本拠まで退避よ、急いで!」
ジェスタはそう一声を発すると自機に踏み込ませながら、右手にした高周波振動騎剣の刃を疾らせる。だが、アンディは“BLAZER”
の鈍重な機体に最小限の動作をとらせるのみでその斬撃を回避させてみせた。
女言葉の美青年はそれを見越したように“TESTAMENT”の左手の突撃銃から弾丸をばら撒くも、“BLAZER”は脚部機動装輪を作動して機体を後退、左腕の掌盾を前方に翳すと、着弾する寸前に飛来した弾丸を打ち払ってみせる。
『久し振りだってのに、随分な挨拶じゃねぇの。ええ、“道化師”よ?』
「お前に馴れ馴れしくされる謂われはねえよ!」
軽口を叩く雑務傭兵にジェスタは粗雑に怒鳴り返した。同時に突き出した突撃銃の銃口が火を噴き、熱い飛礫が宙を舞う。
BLAZERは脚部機動装輪で地面にジグザグな軌跡描いて進み出した。銃撃が雑務傭兵の駆るSFの曲面装甲に弾け幾重にも火花を散らし装甲に沿って後方に抜けて行くが、構わないとばかりに尚も避ける事なくジェスタ機へと前進する。
合わせるようにジェスタ機も発砲を続けながら前進、すれ違い様に騎剣を振り抜いた。
BLAZERは“TESTAMENT”の騎剣の柄に多連装炸薬式ハンマーの長柄を打ち付けて斬撃を止め、ジェスタ機とすれ違って互い違いに抜けた二機のSFはタイミングを合わせたようにほぼ同時にお互いへと向き直る。
「長柄で振り抜かれる騎剣を弾くとか、相変わらずおかしいな、あの“お節介野郎”。ほら、アナタ達何してるのよ! さっさと牽制なさい!」
脇でジェスタ機と“BLAZER”のやり合いを眺めるだけなっていたレナとレビンに青年の檄が飛び。レナのおずおずとした声がジェスタ機のコクピット内に響いた。
『ごめんジェス姉、あたしの機体、今、左腕がこんなだし、牽制も攻撃も出来ないよ。右腕も、特に回転式機関砲形態のまま、動かないの。砲身のどっかが歪んじゃったみたいで……』
その少女の声を遮るように、もう一機の僚機からの声が飛び込んで来る。少女の機体を庇うようにレビン機が起き上がり、敵SFへと銃口を向けていた。
『ジェスタ=ハロウィン先任どの、自分の機体も随分と草臥れてはおりますが、レナ=カヤハワの機体よりはマシです。これより自分は貴官を援護します』
ジェスタは口許に笑みを浮かべると僚機へと再度指示を出した。
「ん、レナ、アナタはさっさと団本拠へ帰投、ベルティンでも、親父っさんでも叩き起こしてその機体を修理させなさい! レビン、あんたはあの“お節介野郎”に鉛弾をしこたま喰らわせてやんなさい! 但し、装填済みのマガジン一つ分だけよ。それだけ撃ちきったらレナを追って。──じゃ、散開!」
その間に雑務傭兵は右腕に保持していたハンマーを突き出すと、左腕に掌盾に接続したまま振り出した電磁警棒を構える。
『作戦タイムは終了かい? そろそろ、こっちも往かせてもらうぜ!』
レビン機からの銃弾が撃ち込まれる中、アンディの宣言と共に脚部機動装輪が唸り“BLAZER”は地面を滑り出した。右腕の先、長柄のさらに先にある多連装炸薬式ハンマーの機関部で、炸薬の篭めれた回転式弾倉が回転し、撃鉄が跳ね上がる。
「上等! 俺の字名を甘く見んなよ?」
ジェスタは応えるように自機を疾走させ、右手に持っていた騎剣を雑務傭兵に投げ放つ、“BLAZER”は向かってくる騎剣を左腕の電磁警棒で打ち払おうとするが、左腕の突撃銃から弾丸をばら撒きながら、限界まで加速したジェスタ機が空中を飛ぶ騎剣に追い付き様に掴み取り、流れるように斬撃を放った。電磁警棒と打ち合った高周波振動騎剣の刃は、雑務傭兵の電磁警棒を容易く斬り飛ばし、更にジェスタは左腕の突撃銃を上空へと回転させて投げ飛ばす。
電磁警棒が短くなった事など意にも介さず、ジェスタ機に接近した“BLAZER”はハンマーの長柄を両手で保持し力任せに横殴りに振り回した。
ジェスタ機は空いた左手を“BLAZER”の左肘に優しく触れ、そこ支点に脚部機動装輪での加速の勢いを活かして跳躍、機体をバック転させて振り抜かれるハンマーヘッドを飛び越え、図ったように回転し落ちてきた銃巴を握り、敵機の頭上から弾丸を放つ。
アンディは欧撃の反動に流れ、独楽のように回転する機体振り回されながら、咄嗟にハンマーの柄から離した左腕を上空へと掲げ、機動装輪を高速で逆回転させ、機体装甲表面に、飛礫の雨に溝を刻まれながらも、辛くもジェスタ機の銃撃を回避、振り上げた多連装炸薬式ハンマーをジェスタ機の着地点目掛け振り下ろした。
†
ジェスタとアンディの戦闘に散発的な牽制射撃を加えながらも本格的な介入のタイミングを掴みかね、レビン=レスターはぼやきを漏らす。
「あんなの、どう介入すればいいんだ!? 戦闘速度が速過ぎて、介入する間が……。っレナ=カヤハワ! 何をしている! 退避を命じられているだろう? 貴官は早く行け!」
二機の戦闘に目を奪われていたレビンがぼやきながら視線を横に流すと、もう一機の僚機が逃げ出す事なく佇んでいた。レナ機の頭部がレビン機に向けられ、少女の声が通信回線から響き始める。レナ機の右腕、複合型銃砲発射装置が異音を立てながら開閉を繰り返している。完全に展開し切らないのか、銃身が少し開くと直ぐに閉じてしまうようだった。
『レビン、あんた大して撃って無いんだから、ちょっとあたしの機体を手伝って!』
「いや、確かに大した援護は行えていないが、手伝えと言われてもだな。何をどうしろと言うのだ?」
困惑しながらもレビンがそう返すと、レナは興奮気味の声で叫ぶように言う。
『あたしの機体の右腕の複合型銃砲発射装置の砲身、これを展開させるのを手伝って欲しいの!』
「仕方あるまい。結果がどうあれ、それを為したら団本拠へ向かうのだぞ」
『分かったわよ! いいから早く!』
「では失礼」とレビンはレナ機の背後に周り、機体の左右の手でレナ機の右腕の砲身にゆっくりと力を篭め始めた。
先程、レナ機が自身で展開させようとした時と同じ位置で何かが邪魔して、閉じようと元に戻りそうになる。
「壊れても許せよ!」
レビン機は更に左右の腕に力を篭め、その時、何かが砕ける音が鳴った。
『レビン、手を離して! これで行けそう!』
破砕音と同時に先程までの抵抗がなくなり、機体内部の少女の操作に従って砲身が展開され始める。
長方形の断面をした三つの箱型銃身が外側に広がりつつ、それぞれが時計回りに九〇°回転し、銃身のシルエットが描く六角形の中心に大口径の砲口を形作った。
擲弾発射砲形態に変形した複合型銃砲発射装置の砲口を、ジェスタ機と争うずんぐりとした体系のSFへと向け、少女は間髪を入れず発射した。
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