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第100話 呼び覚まされしモノ

本日二話更新しました。

前の話からお読みください。

 07(ゼロセヴン)は突っ込んで来る“アヴェンジャー”を無視し、“対立者(コンフリクト)”の腰部左右に装着する折り畳み式小鎌フォールディングシックルを左手に握り、尚も突き入れられる刃を回避しつつ、掌中で畳まれていた鎌刃を展開させる。

 07は右腕のみで“対立者(コンフリクト)”に高周波振動大鎌(ヴァイブロサイズ)を振るわせ、両肩に攻性防盾を装備する“アヴェンジャー”の攻撃をやり過ごす。

眼前の敵機数体の攻撃の合間を見計らい、背後で困惑する敵部隊に向け展開した小鎌を投擲した。

 あからさまに自身が無視され、背後の撩機が倒れるのを見て、目前の特務騎士を名乗る(なにがし)が声を震わせ憤る。同時に特務騎士に制されていた敵フィル・ボルグ製SF達は手にした銃口を“対立者(コンフリクト)”に向け直した。


『なっ!? 貴様!! よくも我が同朋を!! 一騎討ちを申し込んだ儂を討ってからにせよ!!』


「……お一人でどうぞ。……(わたくし)は、こんな場所で果てるわけはいきませんので」


 07(ゼロセヴン)は展開したままの脚部機動装輪(ランドローラー)を作動させ、大鎌を“対立者(コンフリクト)の両手に握らせると姿勢制御翼状装甲(バインダースカート)を展開、格闘用鉤爪(クローアーム)抱擁の腕(エンブレイスハガー)”を再度解放し、黒騎士達へと突進する。


折り畳み式小鎌フォールディングシックル鎌刃ブレード展開。続いて機殻を開放なさい。……やはり、こちらの収束率も低いのですね。──ですがこの程度でも、この場をやり過ごす事は出来ます!」


 07は左右に展開した分子機械(ナノマシン)収束砲(クラスターキャノン)の二門の開放型砲身に、周囲の空間に遍在する環境保全(フォモール)分子機械(ナノマシン)を急速に収束させ、眼前に立ち並ぶ無数のフィル・ボルグのSFの中心に飛び込むと、その場で機体を回転させながら周囲の黒騎士達に向け、帯電され腐食性を命じら(コマンドさ)れた環境保全(フォモール)分子機械(ナノマシン)の奔流を発射し、黒衣の軍勢を容赦なく薙払った。

 部隊の大部分はその攻撃により溶解され、黒煙を上げ爆発する。部隊としてはその一撃で壊滅状態といっても過言では無く、多くのフィル・ボルグ騎士達が炎の中に消えていった。祭祀の篝(ウシュネフ)を囲う森の木々達も高熱に炙られ、立ったまま炭化している。

 原型すら留めぬ何体もの人型の機体が骸のように地を這う地獄のような光景の中、一体のSFが残骸の中から起き上がる。

 この光景を生み出した07の“対立者(コンフリクト)”だ。粒子防御幕の使用を前提とした武装の為、その防御無しには放った側も只では済まなかったらしく、分子機械(ナノマシン)収束砲(クラスターキャノン)であった格闘用鉤爪(クローアーム)は機殻が弾け飛び、その用途を果たせない有り様で、機体の外装はその多くが砕けて剥落している。

 大鎌を杖代わりにして立つボロボロになった機体のコクピット内で07(ゼロセヴン)は瞑目し祈った。


「……自ら為したとはいえ、あなた方に冥福を」


 不意に金属同士が軋む耳障りな音を立て、彼女SFの背後に何かが起き上がる。それは両肩に攻性防盾の残骸を付けた特務騎士を名乗っていた者の操る機体だった。左右の攻性防盾の装甲面は溶け落ち内部構造を晒し、左腕は肘から先を失っている。手にしていた高周波振動薙刀(ヴァイブログレイブ)は穂先が砕け、柄も中途で折れ飛んでいた。

 黒騎士は手の中の残骸を地に落とし、辛うじて右肩に繋がる攻性防盾の残骸内に原型を留めていた折り畳み式騎剣フォールディングソードを抜き放つ。


『……儂の部下達をよくも』


「先も告げましたが、襲って来たのはあなた方から。……こうなる事も覚悟の上では?」

 

『……そうだな、確かにそう在るべきだ。……道理の上では。──だが! この儂の憤りは汝を討たねば晴らせぬものと知れ!!』


 大喝し、騎剣を手にした騎士のSFが駆けてくる。最早、その機体は機動装輪(ランドローラー)さえも、まともには起動しないようだった。


「……仕方ありません。ですが、これ以上の恨み言は無しですよ」


 少女の言葉と共に“対立者(コンフリクト)”は高周波振動大鎌(ヴァイブロサイズ)を構え走り出す。

 刃を手にした二機の機影が中間で重なろうとしたその時、彼らの機体の周囲で地に伏していたSFの残骸が次々と起き上がり出した。





 そのSFの攻撃を受け、フィル・ボルグ帝立騎士団のSFの大半はその時確かに焼き尽くされ、地に倒れた。

 辛うじて生き残った内の一人だったその騎士は、機能停止に陥った愛騎を再起動させようとコクピットで一人奮闘していた。


「動け、動け、動け! 動いてくれよ! 私はレイノルズ卿に助太刀せねばならんのだ!」


 彼の奮闘が功を奏したか、不意にコンソールに光が戻り、リアファルリアクタが急速に再起動を始める。


「よし、これで! ……え!? ……ぎ、が、いあ、あ、あ、ぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 喜びのあまりに声を上げた騎士は、リアクタの再起動と同時に彼の知らぬ装置が機動していた事にまでは気付かなかった。

 ……が、既に手遅れだったのか、唐突にモニターに映し出された目まぐるしく変わり続ける映像パターンを目にした瞬間、騎士の意識は急速に失われ始める。知らず精神を蝕まれ、誰にも聞こえない場所で叫びを上げながら、騎士は人間からただの獣へと堕ちていった。

 枷の外された精神の変容に肉体が連動し、遙か太古より人類の肉体の奥で休眠していたモノが騎士の体内で目覚め始める。彼の搭乗するSFはゆっくりと伏していた地面から起き上がった。

 溶け落ちた頭部装甲とひび割れた人工の瞳に映る損傷し尚も対峙する二機のSFを目指し、のそりと歩を進めだした。周囲の砲撃を受けつつも生き残っていた騎士達のSFも同様に。





 激突の寸前、二機のSFは次々と起き上がり始めたフィル・ボルグ帝立騎士団(インペリアルオーダー)のSFに、07は対峙していた機体と共に辺り見回し、その動きを止めてしまう。


「な!? どういう事です!?」


『ぬ!? 汝ら無事だったか!!』


 困惑し声を漏らす07と対照的に、厳つい顔に喜色を浮かべ特務騎士はゆっくりと近寄って来る味方機に声をかけた。


『む? なんだ、汝ら……意識が有るならば返事をせぬか。な、……なんだと!?』


 ゆっくりと近寄って来る数機のSFの装甲が波打つように蠢き、硬質な輝きを放つ獣毛へと変質していく。ヒューゴーは無意識に、自騎を変貌を始めた味方へと近付こうと動かしていた。その眼前に07(ゼロセヴン)は大鎌の柄を突き出して、ヒューゴーの動きを制す。


「……お止めなさい。あれらは最早、見たままの存在。……彼等は既にフォモールです。近付けばその機体ごと喰われるだけ」


『離せ! あれなるは儂の同朋、フィル・ボルグ騎士達なのだ!』


「元が誰であろうと、ああなってしまえばもう手遅れです。……(わたくし)も迂闊でした。最大の攻撃を逆手に取られていたとは」


 刃を手にした争いを忘れたように07(ゼロセヴン)とヒューゴーが言い合う間にも、騎士達の変貌は止まらず進んでいく。そして遂には起き上がった黒いSFと同数のフォモール・ナイト種が、黒の装甲を鎧と纏い、文字通りの騎士の姿で列んでいた。

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