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第8話 “キャンプ”襲撃 1

「雨でも降るのかねえ?」


 窓の外、東の空が昏い色をしているのを見て、街門の上部に設けられている管制室に詰めている職員の一人が漏らした。

 隣で仕事をしていた同僚が出勤前に見た情報番組を思い返して言う。


「今朝の予報じゃあ、今日は晴れだったぞ? お天気お姉さんのマレーナちゃんが言ってたな。よく当たるぜ、マレーナちゃんの予報」


 当ててんのは色気だけのお姉ちゃんじゃなく予報士だろ、と頭の中だけで考えながら、同僚に返事をする。

 

「は、そうかよ。じゃ、いったい何だ、ありゃあ?」


 そう言って、職員が指差した東の空には、彼方に雲のような昏い何かが浮かんでいた。

 職員が指差した方を見て、同僚が叫んだ。


「おい! こっちに突っ込んでくるぞ!」


 同僚の指差したそこには、金属製の羽毛に身を包んだ巨大な鳥が滑空し、こちらへ飛び込んで来ていた。


「緊急警報だ、早く! 駄目だ、もう間に……」


 何とか警報装置のボタンに指をかけた職員が最期にみたのは、巨大な嘴に貫かれ事切れた同僚の遺体と、警報装置に触れた血を撒き散らす頭のない制服姿の誰かの身体だけだった。


「……あ、おれの?」


 巨鳥の内部から漏れ出た液体に何かが触れ、発生した爆炎に煽られて、彼は強制的に考えるのを止められた。

 永遠に……。





 始めに、街門の管制室がやられた。

 緊急警報は鳴らされることなく、その下で長い車列を作っていた入市検査待ちの多数の人々を巻き込んで、爆炎に呑まれた。

 金属製の巨鳥フォモール・ビショップ達は、自らの生命など省みる事無く、キャンプの街に目掛けて体内に精製した液化爆薬を抱いたまま、数限りなく特攻して来ている。

 攻勢が始まり、始めの十分で、キャンプの街の半分が、そこに暮らしていた人々ごと、クレーターのできた更地に変えられた。

 地面は所々、赤黒い何かで染まっている。

 その状況にジョン達が気付いたのは、市街地の方角の至る所で黒煙が上がるのが見えてからだった。

 大型の機械を扱う為、狩猟団のガレージは街の郊外に有り、一次被害からは免れていた。

 元は舗装されていた悪路を走るSF搬送車(キャリア)、その左右を脚部機動装輪(ランドローラー)で併走する灰色と緑色の2機のSF、そのうちの片方、アッシュグレイの機体の中で、ジョンはSF搬送車に乗っているダスティンとダンへ通信を送る。


「親方、隊長さん、彼女達との連絡は?」


 問い掛けながら、ジョンは空から降って来る巨大な鳥型の爆弾を迎撃する。

 体内に液化爆薬を精製する奴等に至近で爆発されるのは危険だ。

 自分達の集団の遥か手前で、左肩の新装備“複合型銃砲(マルチプルガン)発射装置(ランチャーユニット)”の三つの箱型銃身(ボックスバレル)を束ねたガトリング砲と、右手の短機関銃(サブマシンガン)を使い撃ち落としている。

 この新装備、“複合型銃砲(マルチプルガン)発射装置(ランチャーユニット)”は()により、回転式機関砲(ガトリングガン)モードと擲弾発射砲(グレネードランチャー)モードが選択出来る砲身を持つ銃であり、ダスティンによると、この変形機構が大型化を招いてしまい使用出来る機体がなかったそうだ。

 回転式機関砲の給弾装置は腰背部装甲の接続端子(ハードポイント)、展開準備状態の折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)の鍔のコネクタに取り付けられ、機関部へ給弾ベルトが伸びている。

 本体後部に擲弾(グレネード)の弾倉がついているがこちらは装弾数が三発と少なく、ここぞという場面で使えと、ジョンはダスティンから言われている。

 他には、左腰に高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)が、右下腕部には対獣鎖鋸(チェーンソー)を内蔵した掌盾(バックラー)がそれぞれ装備されている。

 それから簡易装甲として機体各部の接続端子(ハードポイント)折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)が格納形態で取り付けられていた。


『ああ、まだ無事らしい! だが、逃げる市民の為に身動きが取れんそうだ! 急ぐぞ、手前等!』


『それは朗報! ささっと、助けて逃げましょ』


 SF搬送車を運転しているのはダスティンだ。

 ダンは整備台(ハンガー)に固定された機体の内部でエリステラ、レナの両名へ通信を試みていた。

 ダンの機体は指揮官機のため、他の機体より、電子戦装備が強化されている。

 ジョンはダンから通信経由で少女達の座標を取得すると、自らのSF、“SAVIOR(セイヴァー)”を加速させた。


『ガキ、先走るな!』


 行動を制しようとするダンにジョンは言い返す。


「急ぐぞって言ったの隊長さんでしょ? 僕は先に行くよ!」


 言うが早いか、ジョンは狩猟団の面々を置き去りに、機体をさらに加速させた。

 襲って来るフォモール・ビショップを落とすのも忘れていない。


『あらら、ジョン君の機体、今はワタシ達の機体より重いはずよね? 何で、あんなに速いの!』


 ジェスタがぼやくように言った言葉を聞き、運転席のダスティンが口を挟んだ。


『坊主のSFはアーリ-タイプだぜ、ありゃ』


 空のフォモールに突撃銃(アサルトライフル)で攻撃を加えながら、ジェスタはダスティンの言葉に首を傾げる。


『アーリ-タイプって、あれ骨董品て事? とても、そうは見えないけど?』


『アーリ-タイプってのは、神の機体に一番近い機体ってこった。

 おう、手前、運転代われや。……あん、ハンドル持って、真っ直ぐ走りゃ良いんだよ!

 説明続けるぜ、SFが生まれた経緯は知ってるよな?』


 ダスティンは同乗している部下に搬送車の運転席を無理矢理譲り、ジェスタへ説明を続けた。


『昔の文明の遺産のデッドコピーっていうアレ?』


『ああ、そいつぁ、俺ら技術屋にとっては、神様みてえな奴等が創った機体だ。アーリ-タイプってのは、そのデッドコピーそのものの事だ』


 ダスティンの断言にジェスタはジョンの機体を思い返した。


『でも、ジョン君の機体って、別に特別な感じしないわよ』


『アーリ-タイプは技術的には兎も角、機体としては特別な訳じゃないぞ。そんなことより、ジェスタ、親父っさんもお嬢のが先だろ!』


『あら、急いでるじゃないの。ジョン君みたいに置いていく訳に行かないしね』


『おう、急いでるぜ、コイツが』


 軽い口調で答えるジェスタとダスティン、ダンは舌打ちしながら、ダスティンに要請した。


『チッ、親父っさん、整備台を起こしてくれ。俺も出る』


『おう、だそうだ解ったか?

 ……あ、横転するだぁ、んなもん、転ばねえように起こせや!

 おう、ダンこの馬鹿には解らせたからよ。今から整備台を起こすぜ』


 悪路を走行中のSF搬送車の荷台から、整備台が起き上がっていく、車体前方が一瞬浮き上がり、懸架整備台(ハンガーベッド)が展開を完了した。


『ありがとよ親父っさん、出るぜ!』


 ダンの駆る指揮官仕様の“TESTAMENT(テスタメント)”は懸架整備台脇の武装架ウェポンラックから武装を二丁選択し、路上へと飛び出した。

 


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