「黄色」「糸」「激しい関係」
「赤い糸、ですって」
彼女は艶やかな唇を動かした。
「そんな絵空事を、信じていたのね」
一言発する度に固まっていく空気。
「私の夫は。貴女に」
ごめんなさい、と口から出そうになる。威圧的で高慢な、凛とした声。私は悪いことなんかしていない。先に言い寄ってきたのはあなたの夫だもの。私は悪くない。
「……静かね。何か私に言いたいことはないのかしら? もしかして私の存在知らなかったりした?」
口を固く結ぶ。言葉と一緒に涙も出てきそうだから。不倫だなんてわたし、そんなこと。うつむいて、彼女の顔を視界に入れないようにする。
はぁ、と悲しそうな溜め息が聞こえた。思わず顔をあげると、彼女が立ち上がっている。伝票を手に取るその姿はとても色っぽくて、負けたな…と思った。
やっぱり、話通りの人。私じゃきっと太刀打ちできない。奥さんがいること、知ってましたよ。だって彼、あなたのことばっか話すんだもの。
「…すみ」
「どうかお幸せでね。あの人が幸せだと、私はとても嬉しいわ」
私の敗北宣言を遮って、彼女は足早にレジへ向かった。机の上にはいつの間にか黄色のバラが置かれている。
「ちがっ待ってください!」
「…待たないわよ。ばか」
震えた涙声。違う。私じゃ彼を幸せにできない。私がどれだけ誘っても降り向かなかったのよ。焼きもち妬かせたい、とか申し訳なさそうな口調で嬉しそうに。あの人、あなたがとても好きなのよ。
追いかけようとしたら、黄色いバラが手に触れた。少しだけ痛かった。
うへぇ…久々三題噺です。黄色のバラの花言葉って色々ごちゃっとあるんですね…。友情とかから嫉妬まで。まぁ奥さんの気持ちってことでしょうか。おんなじセンスの仲間意識ですかね。これ読んで江國さんの短編が頭に浮かんできた人とは多分お友だちになれます。
ありがとうございました!




