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clair fleur  作者: 白鈴 すい
第二章~紹介編~
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第七話(虹太編)なんか今、すっごくピアノが弾きたい気分!

 虹太と奏太は、二人で夕暮れの道を歩いていた。

 帰らなければならない時間になった奏太を、虹太が途中まで送ることにしたのだ。

 二人の間に、会話はない。

 虹太の後を、俯いた奏太が二歩ほど遅れて歩いている。






「……奏太くん、今日は楽しくなかったかな?」


 沈黙を破ったのは、虹太だった。

 虹太の言葉に、奏太は慌てて顔を上げて答える。


「そ、そんなわけありません! ものすごく楽しかったです! 僕、ピアノをやっててこんなに楽しいって思ったの、初めてでした……!!」

「そう? それならよかった~」

「椎名さんと一緒に弾くピアノはとっても楽しかったけど、家に帰ったらまた一人で、お母さんに注意されながらのレッスンが待ってるんだと思うと、嫌で……」


 そこまで答えると、奏太は再び俯いてしまった。

 奏太の様子を見て、虹太は優しく彼の頭を撫でた。


「……奏太くんは、優し過ぎるんだよ」

「え……?」

「お母さんのこと、大好きなんだよね。だから、お母さんの願いを叶えてあげたい。そのために、自分の気持ちを押し殺そうとしてる。……でもそれって、本当にお母さんの望むことなのかな?」

「……………………」

「子どもなんだから、わがまま言ったっていいじゃん! 遊ぶのが仕事なんだから、みんなと一緒に遊びたいって思うの、当たり前のことだよ。お母さんだって、自分の子どもが幸せだったら、絶対自分も幸せな気持ちになるよ! ……だからお母さんと、話をしてみようよ」

「でも、聞いてもらえないかもしれないし……」

「そしたら、俺のところにまたおいで! どうやったら話を聞いてもらえるか、一緒に考えよう!」


 そう言った虹太の笑顔は、奏太にとってとても眩しいものだった。


(どうしてこの人は、こんなにあったかいんだろう……)


 涙をこらえながら頷く奏太を見て、虹太は再び彼の頭を優しく撫でるのだった。






 その後は二人とも無言のまま歩き、初めて逢った公園の前で別れた。


(……奏太くんの気持ちが通じて、みんなと一緒に遊べるようになるといいなぁ。あっ! そしたら遊びの方が楽しくなっちゃって、ピアノ辞めちゃうかも……。それはやだなー)


 ここまで考え、虹太はあることを思いつく。


(そうだ! これは完璧に願掛けだけど……)


 そして、走って家路に着くのだった。

 頼りになる同僚に、とあるお願い事をするために――――――――――。






 虹太と奏太が出逢ってから一カ月が経ったが、奏太が虹太の前に姿を現すことはなかった。

 虹太はいつもの楽器店での演奏会を終え、二人が出逢った公園の前を通る。

 そこでは少年たちがサッカーをしており、いつもと変わらない風景が広がっていた。

 虹太はその少年たちの中に、見知った姿を発見する。


(あれ……? もしかして……!)


 近寄って確認するが、やはり間違いではなかった。


(奏太くんだ! みんなと一緒に遊べるようになったんだ。いや~、よかったよかった)


 嬉しい反面、少し悲しい気持ちにもなる。


(もしかして、ピアノは辞めちゃったかなー……ん?)


 しかし、虹太の心配事は杞憂で終わった。

 見慣れたマスコットがついている鞄から、ピアノの楽譜が顔を覗かせていたからだ。

 抑えきれず、笑みが零れる。

 それから奏太の鞄の上に紙袋を置くと、声はかけずに公園を出た。






(奏太くん、使ってくれるといいなー。……あー、なんか今、すっごくピアノが弾きたい気分!)


 虹太はスキップしそうになるのを抑えながら、家路を急ぐ。

 奏太がオレンジの香りのする贈り物に気付くまで、あともう少し――――――――――。

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