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clair fleur  作者: 白鈴 すい
第二章~紹介編~
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第六話(虹太編)よかったら、一緒に弾かない?

「……虹太くんのピアノって、すごいよね。聴いているだけで、すごくワクワクするでしょ?」

「……………………!」


 透花は、テーブルに飲み物とお菓子を置きながら奏太に声をかけた。

 透花がサロンに入ってきたことに気付いていなかった奏太は、非常に驚いた様子を見せる。


「あ、ごめんね。驚かせちゃったかな?」

「い、いえ、大丈夫です」

「それならよかった。うちの隊員特製のお菓子と飲み物を持ってきたから、食べながら、素敵な音楽を楽しんじゃお!」


 透花はそう言うと、マドレーヌが乗った皿とオレンジジュースを奏太の前に置いた。


「あ、ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」


 お礼を言い、フォークを手に取ったものの、奏太はなかなかマドレーヌに手をつけようとしない。

 意識が完全に、虹太の音に向いているからだった。

 その様子に笑みを浮かべながら、透花は自分の分のマドレーヌを口に運んだ。






 奏太がゆっくりとマドレーヌを食べ終えた頃、虹太の音が止んだ。


「ふー…………」


 奏太は、思わず立ち上がって拍手をする。


「す、すごかったです!!」

「ありがと~☆ 楽しんでもらえたみたいでよか・・・って、透花さん!? いつからいたの!?」

「うーん、二十分くらい前からかな? 相変わらず、集中していると気付かないね」

「えっ!? そんなに弾いてた!? 奏太くん、ごめん! 俺、楽しくなっちゃうと時間の感覚がなくなっちゃうんだよね……退屈じゃなかった?」

「いえ、全然!」

「それならよかった~」


 透花は立ち上がると、二人分の食器を片付けはじめる。


「……さてと、休憩も出来たし、私はそろそろ戻ろうかな。虹太くんの分のマドレーヌとジュースはキッチンにあるから、後で食べてね。それじゃあ奏太くん、ごゆっくり~」

「ご、ごちそうさまでした!」


 透花は奏太に笑顔を返し、サロンを出て行った。


「……さてと、じゃあ演奏を続けよっか! 奏太くん、なんか聴きたい曲思いついた?」

「はい! あの……」


 こうして、虹太のリサイタルは再開された。






「……奏太くん、よかったら、一緒に弾かない?」


 何曲か弾き終わった後、虹太は奏太に提案した。


「え……」

「なんでもいいから! 今練習してる曲でも、発表会で演奏した曲でもさ! 奏太くんが弾きはじめたら、俺、適当に入るから!」


 奏太は戸惑った。

 虹太の演奏を聴くのは楽しいが、自分がピアノを弾くことへの苦手意識が克服できてはいないと感じたからだ。

 迷った末、奏太は今まで座って椅子から立ち上がり、ピアノ椅子へと座った。


(椎名さんとの連弾、してみたい……!!)


 ピアノを弾くことへの苦手意識よりも、虹太と演奏をしてみたいという好奇心の方が勝った瞬間だった。

 奏太は深呼吸を一つすると、鍵盤に指を置く。

 そして、有名なラグタイムの曲を奏ではじめた。

 それは、奏太が最近の発表会で弾いたものだった。


「……すごく、素敵な選曲だね」


 虹太はそう言うと、楽しそうに鍵盤に指を滑らせはじめる。

 二人の音が、合わさった――――――――――。






(椎名さんの手は、魔法の手だ……)


 隣でピアノを弾きながら、奏太はそう思う。


(よく知ってる曲を弾いてるはずなのに、まるで知らない曲を弾いてるみたいにワクワクする……! 楽しい……!!)


 奏太は、未だかつてない高揚感を味わっていた。

 この後も彼らは何曲か連弾を行い、この日のリサイタルはお開きとなったのだった。






「いやー、たくさん弾いたね!」


 虹太は鍵盤の蓋を閉めながら、奏太に声をかける。


「は、はい!」


 奏太はまだ音に酔っているようで、恍惚の表情を浮かべている。

 屋敷に来た時とはまるで違うその表情を見て、虹太は嬉しそうに笑った。

 そして、ポケットからハンドクリームを取り出すと、それを自分に手に馴染ませはじめた。

 その様子を、奏太は不思議そうに見つめる。

 今は春で、特別肌が乾燥するような時期でもないのだ。

 男性である虹太が手を労わる姿は、見慣れないものだった。


「……あ、これー? これはね、俺にとっておまじないみたいなものなんだ!」


 奏太の視線に気付いた虹太が、明るく話す。


「おまじない、ですか……?」

「うん。次にピアノを弾く時まで、この手を守ってくださいってお願いしながら塗るんだ! 小さい頃から、母親が塗ってくれてね。今でも弾き終わった後は、欠かさず塗るようにしてるんだ~」

「……そうなんですか」


 “母親”という単語を出した瞬間、奏太の表情が曇る。


「……同僚に頼んで、特別に作ってもらってるハンドクリームなんだよ! いい香りでしょ?」

「そうです、ね……」


 そこには、先程までの嬉しそうな奏太はもういない。

 サロンには、爽やかなオレンジの香りが広がっていた――――――――――。

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