第六十二話 理玖と湊人の王子護衛任務①
「「植物園?」」
「うん。ありがたいことに、琉生様直々に一色隊を指名してくださったの」
理玖と湊人の二人は、仕事の依頼で透花の執務室に呼び出されていた。
琉生が植物園に行きたいと言っているので、その護衛をしてほしいのだそうだ。
「この間の件もあったから湊人くんと蒼一朗さんに頼もうと思ったのだけれど、蒼一朗さんはどうしても都合がつかなくてね。植物園なら、草花に詳しい理玖にお願いするのもいいかなって」
「琉生様から指名をいただけるなんて名誉なことだね。その任務、喜んで受けさせてもらうよ」
「……わかった」
琉生からの依頼にやる気が満ち溢れている湊人とは反対に、理玖は渋々といった感じで頷いた。
彼は、人の多い所が嫌いなのだ。
場所が自分の好きな草木と触れ合える植物園でなかったら断っていただろう。
「じゃあ二人とも、今度の日曜日はよろしくね」
「任せておいてよ」
「・・・あぁ」
返事をすると、二人は会話を交わすこともなく執務室を出ていく。
その二人とすれ違う形で、今度は柊平が部屋に入ってきた。
「隊長、書類をお持ちしました」
「ありがとう、柊平さん」
「いえ。……もしかして、あの二人に何か任務を頼まれたのですか?」
「うん。琉生様の護衛をお願いしたの」
「……大丈夫でしょうか」
「植物園に行くだけだから、そんなに心配しなくても平気だよ」
「いえ、そういう意味ではなく……」
「……あー、二人の関係性の方か。確かにあの二人、仲悪いもんね」
そう言うと透花は、苦笑を浮かべた。
理玖と湊人の関係は、良好なものとは言えなかった。
どんな任務も貪欲にこなしていく湊人に対し、理玖は自分がやりたい仕事しか受けない。
仕事に対する考え方が正反対のせいか、お互いのことを倦厭しているようだ。
これには二人の生い立ちが深く関わっているので、透花は特に口を出すことはしなかった。
理玖は自然に囲まれた空間が好きだが、湊人は電子機器に囲まれた空間の方が落ち着く。
プライベートでも感じ方が全く違うので、その結果、二人が個人的に話している姿を見かけることは滅多にないという関係性になってしまったのだ。
「……二人ともいい大人なのだから、琉生様の前で言い争ったりはしないと思うよ。だから大丈夫。人間なのだから、相手に対する得手不得手があるのは仕方ないことだしね。でもこれからも一緒の任務に就くこともあるだろうし、これを機に少しでもお互いに歩み寄ってくれるといいんだけど……」
「……あえて二人を指名したのも、お考えがあってのことだったのですね。大変失礼いたしました」
「いえいえ。二人とも、素直じゃないところはそっくりなんだけどね。口が回るか口下手かの違いはあるけどさ。……さてと、何かあったらすぐに出られるように、できるだけ仕事を片付けておこうかな。何もないに越したことはないけど、やっぱり心配だし」
透花は一つ大きく伸びをすると、柊平から受け取った書類に目を通しはじめた。
「何かお手伝いできることはありますか?」
「うーん、じゃあキッチンで紅茶を淹れてきてもらってもいいかな? あと、頭使うのに糖分が欲しいから……」
「チョコレートですね。すぐにお持ちします」
透花のチョコレート好きは、隊員たちには周知の事実となっているのだ。
「ありがとう。よろしくね」
その後透花は、紅茶と大好物のチョコレートを口にしながら仕事に励んだ。
あっという間に日曜日だ。
透花や柊平の心配とは裏腹に、二人は順調に任務をこなしていた。
基本的には湊人が植物に対して解説をし、足りない説明を理玖が補うというかたちで進んでいるようだ。
理玖は植物に囲まれているおかげか機嫌がよく、湊人も琉生直々の指名が嬉しくいつもよりも穏やかなので、予想以上に和やかな雰囲気なのである。
琉生もとても楽しんでいるので、ここまでの任務は大成功と言ってもいいだろう。
二人とも、心の中で思っていたはずだ。
((今日はこのまま、無事に終わりそうでよかった……))
しかし事件というものは、最後に起こると決まっているのだ――――――――――。




