第五話(虹太編)今日は君のために、リサイタルを開いちゃうよ☆
「あー、奏太くん! 来てくれたんだ!」
「あ、はい……」
一週間後、奏太は迷ったものの、約束した時間に公園に現れた。
奏太が来たことに、虹太はとても喜び満面の笑みを見せる。
「来てもらえて、すっごく嬉しいよ☆ じゃあ、早速だけど行こっか!」
虹太は座っていたベンチから立ち上がり、歩き出す。
「あの、行くってどこへ……?」
「それはまだ秘密!」
虹太はそう言うと、悪戯な笑みを浮かべる。
奏太は困惑しながらも、虹太に着いていくのだった。
しばらく歩くと、大きな屋敷に着いた。
「ここは……?」
「ここはねー、俺が所属する一色隊の建物なんだ!」
虹太はそう言いながら、慣れた様子で扉を開け、中に入っていく。
「ただいまー!」
「お、お邪魔します」
二人が玄関に入ると、偶然そこには透花の姿があった。
透花は、大量の書類を抱えている。
「あ、虹太くんおかえりー。今日は、お客さんも一緒?」
「うん、俺の友達の中条奏太くん! 奏太くん、こちらは俺の上司の一色透花さん!」
「こ、こんにちは」
奏太は、緊張した様子で挨拶をする。
「こんにちは」
透花は、柔らかな笑みを返した。
「透花さん、これからサロンを使っても平気?」
「もちろん! お友達を招いて、演奏会でもするの? 私も休憩がてら、聴きに行こうかな」
「相変わらず、仕事大変そうだね……。息抜きに、是非聴きに来てよー☆」
「じゃあ、仕事が一段落したら顔出すね。また後で!」
透花はそう言うと、自分の執務室に戻っていった。
「お待たせしましたー! ここがサロンでーす☆」
「すごい……」
そこには、立派なサロンが広がっていた。
百名ほどは悠に入れるであろう空間に、グランドピアノが一つ置かれている。
演奏会などが行われる時は椅子が出されるのであろうが、今は、テーブルが一つと、いくつかの椅子だけがそこにはあった。
「座って座って! 今日は奏太くんのために、リサイタルを開いちゃうよ☆ 聴きたい曲があったら、どんどん言っちゃって! なんでも弾くから!」
「え……?」
「あー、別にクラシックの曲じゃなくてオッケーだよ! 好きなアニメの音楽、やってるゲームのBGM、奏太くんの学校の校歌とか、ほんとになんでもいいから!」
奏太は考え込んでしまった。
今までピアノといったら、クラシックのイメージしかなかったからだ。
この間の楽器店での虹太の演奏も、場所柄かクラシック曲の演奏ばかりだった。
「……奏太くん、鞄につけてるマスコット、プティモンストルのキャラだよね?」
何も思い浮かばない様子の奏太に、虹太は明るく声をかける。
「あ、はい……」
「奏太くんもそのゲームやるんだ! 俺もやってるんだよー! うちの隊員に、めちゃくちゃ強い奴がいてさ! 勝ちたくて何度も勝負してるんだけど、いまだに一回も勝てたことないんだよね……」
プティモンストルとは、リベルテの国で子どもから大人まで人気のあるゲームの名前である。
空想の怪物を捕まえ、それを戦わせて遊ぶという内容で、単純ながらに奥が深いので、虜になるプレイヤーが多い作品なのだ。
「プティモンって、アニメもやってるよね。奏太くん、見てる?」
「あ、見てます……」
「じゃあ……」
虹太は鍵盤に指を滑らせた。
「この曲……!」
それは、奏太が週に一回は絶対に聴いているものだった。
「そう、プティモンのオープニングだよ~。メドレー形式で繋いでくから、ついてきてね……!」
虹太の表情が、変わった――――――。
先程までの、どこかゆるさのある顔つきではない。
笑顔なのは変わらないのだが、彼の表情は、更に生き生きとしたものになっていた。
(すごい……)
曲は、アニメのオープニングテーマからはじまり、エンディングテーマ、ゲームでの対戦シーンのBGMへと次々に変わってゆく。
奏太は、あっという間に虹太の音の世界に惹き込まれていた。
飲み物とお菓子を持ってサロンに入ってきた透花に、気付かないほどに――――――――――。