第五十六話 柊平と颯のクリスマス任務①
「「クリスマス会?」」
「うん」
柊平と颯の二人は、仕事の依頼で透花の執務室に呼び出されていた。
内容は、大和や美海が通う学童クラブのクリスマス会への参加協力だった。
「毎年クリスマス会は、保護者もクラブに招いて一緒にゲームをしたりするのだって。途中でサンタが登場して子どもたち一人一人にプレゼントとしてお菓子の詰め合わせを配るのだけど、そのサンタとトナカイ役をお願いしたいんだ。去年までは参加者のお父さんが途中で会を抜けて準備をしてから登場するって流れにしていたらしいのだけど、お父さんだと自分の子どもや仲のいい子たちからすぐにばれてしまうらしいの。だからうちの隊に頼みたいそうなのだけど、お願いできるかな?」
「サンタ役ですか! すごく楽しそうなのでやってみたいです!」
「……かしこまりました」
人のために何かをするのが大好きな颯は、すぐに快い返事をしてくれる。
それに対して柊平は、あまり乗り気ではないようだ。
仕事真面目な彼にとっては断るという選択肢はありえないので、きちんと了承の言葉を返してはいるのだが。
「……柊平さん、こういう任務は苦手だもんね」
そんな彼を見かねて、透花が声をかける。
「いえ、決してそんなことは……!」
「いいよ、気を遣わなくて。苦手だってわかっているのにわざわざお願いしている私が意地悪なだけだから。……たまには柊平さんにも、気を張らずにできる仕事をやってもらいたいだけなんだよね」
「……どういうことでしょう?」
透花の意図が、柊平は読み取れなかった。
「今の隊の編成だと、どうしても危険が伴うような任務は柊平さんと蒼一朗さんにお願いしなきゃならないでしょう? でも、蒼一朗さんには大和くんがいるから頻繁にそういう仕事は頼めないわけで……。すると、自然に柊平さんにばかり危険な任務をやってもらわなければなくなるよね? それを、個人的に申し訳なく思っているってだけの話だよ」
一色隊で武術を極めている者は、柊平と蒼一朗、そして透花の三人しかいない。
危険が伴う任務の時はこの三人でローテーションを回しているのだが、透花には隊長という立場があり、蒼一朗には大和という存在がいるので、柊平にかかる比重がかなり重くなってしまっているのだ。
「だからたまには、深く考えずに楽しくできる任務をお願いしてもいいかなって思って。他にも色々仕事はあるし、断ってくれてももちろん大丈夫だよ。……どうかな?」
「……やらせていただきます」
正直柊平は、このような任務が苦手だ。
危険を伴う任務の方が自分には合っているし、楽だと思う。
しかし、透花の気遣いを無駄にしたくなかったのだ。
元々断るつもりはなかったが、先程よりも覚悟を決めた表情でそう言った。
「それならよかった! じゃあ二人とも、よろしくね」
「はい!」
「はい」
こうして二人の、クリスマス会への参加が決まったのだった。
その後三人は、当日の詳細について打ち合わせをしていた。
「……ここでサンタとトナカイに扮した二人が登場するというわけ」
「配役はどうしましょうか?」
「……緒方、お前はどちらがやりたい」
「どうせならサンタがやりたいです!」
「じゃあ、私はトナカイでいい」
「え、いいんですか!?」
「ああ。お前の方がサンタとして、子ども達を盛り上げるのが得意だろう」
「ありがとうございます! じゃあお言葉に甘えて……」
「あの、水を差すようで悪いのだけれど……」
無事に配役が決まりそうになった時、透花が気まずそうに口を開いた。
「さっきも軽く説明したけど、サンタの仕事はプレゼントを配ることなのね。みんなの真ん中に立って、一人一人の名前を呼んで子ども達に来てもらって手渡しでお菓子を渡す。トナカイ役はその補助というか、サンタが足りないところを補う感じになると思うの。…三t年女性の前でかなり目立つことになるけど、颯くん平気?」
「大丈夫ですよ透花さん! 女性っていっても子どもだし……」
「……いや、そうもいかないだろう」
今度は、柊平が口を開く。
「先程の説明で隊長は、今度の会は保護者同伴と言っていた。……父親よりも、母親が来る家庭の方が圧倒的に多いだろうな。あそこのクラブは女性職員も多かったし……」
「……そうなの。大勢の成人女性の前で目立つことになるけど、颯くんいける?」
「すみません無理です……」
それを聞いて、颯は即座に断るしかなかった。
女性が苦手な彼が、知らない大勢の女性の視線に晒されながらプレゼントを配るというのはどう考えても現実的ではないのだ。
やる気だった分ショックも大きいようで、床にめり込む勢いで落ち込んでいる。
「僕はトナカイとして頑張るので、柊平さんサンタをお願いします……!」
「……わかった」
正直、苦手な任務なので柊平はできるだけ目立ちたくなかった。
しかし、相方になる颯がこの状態では自分がサンタをやるしかないだろう。
「じゃあサンタ役は柊平さん、トナカイ役は颯くんで決定ね!」
こうして、配役が決まったのだった。
「当日は、できるだけ柊平さんと颯くんだってバレないようにできるかなぁ。そういう目的もあってうちに依頼がきたのだし。トナカイは着ぐるみだからいいとして、問題は衣装を着るだけのサンタだよね……」
その後も当日について話していると、透花がそう言った。
「柊平さんはクラブにも行ったことあるから顔を知っている子もいるだろうし、なんといっても大和くんと美海ちゃんがいるからね~。子どもだけならともかく、蒼一朗さんと心くんも参加しているし……」
「……普通にサンタの衣装を着て髭をつけたくらいでは、確実にわかってしまいますね」
柊平は、自分がサンタ役だとどうしてもバレたくないのだ。
(子ども達はともかく、私がサンタの格好をしているところを柏木や結城に見られたくない……)
この二人なら見られても特にからかわれたりはしないだろうが、柊平の心情的にそれは許せないらしい。
「そこは俺に任せてください!」
いつの間にか元気を取り戻していた颯が、そう言う。
トナカイは着ぐるみなので相手からは自分の顔が見えないため、女性の前に立つという不安感も和らいだようだ。
「特殊メイクは無理ですけど、化粧で柊平さんの顔を老人っぽく見せるくらいはできると思うので!」
「……それは、すごく頼もしいな」
「じゃあ、見た目はそれでいこう。柊平さんは姿勢がいいから、歩く時に猫背になったりするとよりサンタっぽく見えるかも。あとは、声や話し方にも気を配れるといいのではないかな。いつもよりゆっくり話すとか、わざと“ふぉっふぉっふぉっ”って笑ってみるとか」
自分が考えていたよりもずっと大変そうな任務に、柊平は頭痛がするのを感じた。
「……研究は、してみます」
しかし、この任務を受けたのは自分なのだ。
やるからには、本気で取り組まねばならない。
「うん、よろしくね。じゃあ、頼んだぞ二人とも!」
「オッス!」
「……かしこまりました」
当日まで柊平は、サンタらしさとは何かについて頭を悩ませることになる。
部屋で笑い方の練習をしているところを晴久に聞かれ体調を心配されたり、柊平の心配をした晴久が理玖を呼んで問診を受けたりなど色々なことがあった。
仕方がないので柊平は理由を説明する。
この二人ならば口が堅いので話しても平気だと思ったのだ。
「そ、そうだったんですね……。僕、早とちりしちゃってごめんなさい……。柊平さんなら、きっと素敵なサンタさんになれますね」
晴久からは、申し訳なさそうな笑顔と優しい言葉が貰えた。
「……頑張って」
理玖からは、憐みの表情と彼にしては珍しい激励の言葉を受けることとなる。
柊平と同じく、理玖もこのような任務は苦手としている。
健気に頑張る柊平の姿を見て、激励の言葉をかけずにはいられなかったようだ。
クリスマス会に参加する蒼一朗と大和、心と美海には勿論だが、柊平は虹太と湊人にも絶対に知られたくはなかった。
虹太は間違いなく騒ぐだろうし、湊人には弱みを握られた気になるからだ。
その後は練習をするにも細心の注意を払い、他の者たちには気付かれずに当日を迎えることができたのだった――――――――――。




