第四十七話 蒼一朗と湊人の王子大捜索②
「……余はたしかに、この国の王子だ。しかし、次の王ではない……」
涙を零したことによって落ち着いた琉生は、王宮から失踪した理由を少しずつ話しはじめた。
ちなみに三人は今、蒼一朗が運転してきた車の中にいる。
運転席に蒼一朗が座り、その膝に琉生、そして助手席に湊人がいるという構図だ。
「……王子なのに、次の王じゃねーのか?」
「……この国の王位継承権については、色々と複雑なんだよ。現王のご子息だからといって、そのまま王位を継げるわけじゃないんだ」
「……次の次の王は余に決まっているゆえ、王になるためにきびしい教育が必要だということはわかるのじゃ。……しかしそれは、全て余が“王子”だから。父上と母上につけていただいた名前は呼ばれず、まわりから必要とされているのは王子としての自分だけ……。そんな日々に、たえられなくなってしまってな……。今回、王宮を抜け出したというわけじゃ」
「……王と王妃も、お前のこと名前で呼んでくれねーのか?」
「そんなことはない! 父上と母上が、ゆいいつ王子としてではない余を大切にしてくれるお方たちだ……! しかし、父上はたちばじょうおいそがしい方でなかなか会えないのだ……。母上もさいきん体調をくずされていて、今までのように会うことができなくて……」
「……温かい食事と、柔らかい寝所があるだけで充分じゃないですか。それに加えて、高度な教育を受けることもできる。世の中には、それができない子ども達もたくさんいるんです。……そんな場所を抜け出した、王子の気がしれません」
湊人から発せられた言葉は、辛辣なものだった。
自分の身を弁えた発言ができるはずの彼の物言いに、蒼一朗は驚いてしまう。
「……お前、何イライラしてんだよ。こんな子どもにそんな態度とったって、しょうがねーだろ」
「………………………………! 僕は別にイラついてなんか……!」
「いや、その者の言う通りじゃ、そういちろう」
言い争いになりそうだった大人二人を止めたのは、琉生だった。
「余は、めぐまれたかんきょうにいるのだろうな。それなのにこのような行動をとり、様々な者にめいわくをかけてしまった。……お主たちも、すまなかったな。わざわざこのような所まで来させて。王宮へもどるので、送りとどけてもらえないだろうか?」
そう言うと、自ら蒼一朗の膝を降り後部座席へと移動する。
「……それで本当にいいのか?」
「ああ、よいのだ。お主らに話を聞いてもらえて、すっきりした。それに、久しく呼ばれていなかった名前を呼んでもらうこともできたからな。余は満足じゃ」
そう言うと琉生は、笑顔を浮かべた。
「……あー、もう! ガキが痩せ我慢してんじゃねーよ!」
蒼一朗は、琉生の頭を少し乱暴に撫でる。
「な、何をする!」
「本当にそれでいいと思ってんなら、もっと満足そうに笑え! そんな下手くそな笑顔見せられても、気分悪いんだよ!」
「へ、へたくそだと!?」
「ああ、下手くそだよ! お前の今の顔、鏡で見せてやろうか!? 自分では笑ってるつもりかもしんねーけど、泣きそうな表情してんぞ!」
「………………………………!」
琉生は、俯いて黙り込んでしまった。
言われたように、本心では満足だとは思っていなかったからだ。
そんな琉生の様子を見て、蒼一朗はため息を一つ吐く。
「……おい、連絡しておいてくれ。王子は無事見つけて保護しました。かなり遠くまで来ているので、王宮に戻るには時間がかかりますってな」
「連絡って、透花さんに? 別にいいけど、ここからなら王都まで一時間くらいしかかからないでしょ? それなのに、時間がかかるって……」
「……今日は“王子”は休みだ。これからこいつ、どっか連れてく」
蒼一朗の言葉に驚いたのは、湊人だけではなかった。
後部座席にいる琉生も、驚きで目を見開いている。
「……そんなことが許されるわけないだろう? 保護したんだから、一刻もはやく王都に戻らないと……!」
「……こんな表情の子ども、放っておけるわけないだろ。嫌なら、お前は先に電車で帰れよ。責任は全部俺がとる」
そう言った蒼一朗の眼差しは、真剣なものだった。
その眼からは、覚悟を感じる。
「……はぁ、まったく」
湊人はため息を吐くと、携帯電話を手に取った。
「……とりあえず、透花さんにはありのままを伝えるよ。彼女の指示を仰ごう。話はそれからだ」
「おう。悪いな」
「……悪いと思ってるなら、今後は気を付けてもらいたいね。あ、もしもし透花さん? 実は……」
嫌味を言いながらも、湊人は透花への連絡をしてくれるのだった。
「なんて言ってた?」
電話を切った湊人に、蒼一朗は声をかける。
「王様には、彼女の方からうまく言っておいてくれるって。だから、時間を気にせず遊んできなさいって……」
「よっしゃ! じゃあ早速出発するぞ! 琉生、シートベルトの締め方わかるか?」
「わからぬ!」
琉生は、元気よく答える。
「二階堂、教えてやってくれ。目的地に着く前に、ケガでもしたらつまんねーからな」
「……ここを引っ張って、ここに入れるのですよ」
「おぉ! おんに着るぞ! お主は、ニカイドウというのか?」
自分のシートベルトを締めてくれた湊人に、琉生は声をかけた。
「はい。二階堂湊人と申します」
「では、みなとじゃな! こちらの方が呼びやすい」
「……琉生様のお好きなようにお呼びください。私たちが仕える隊長の許可もとれました。今日は、とことん付き合わせていただきます」
先程まで琉生のことを“王子”としか読んでいなかった湊人が、はじめて彼の名を呼ぶ。
それを聞いた琉生は、嬉しそうにはにかむのだった。
三人は、王都から少し離れた街にある動物園にやって来た。
水族館も併設された、とても広い施設だ。
湊人が透花に連絡をとっている間に蒼一朗が尋ねたところ、琉生は動物園に行ったことがないそうだ。
生の動物を見たことすら数えるほどしかないと言うので、ここに来たのだった。
はじめての動物園に、琉生はとても興奮している。
「あ、あの茶色いふわふわした動物はなんじゃ!? まつげがすごく長いぞ!」
「あー、なんだっけあれ……アルパカ?」
「似てるけど違うなぁ。あれはラマですよ」
「らま! ふしぎな響きじゃな!」
琉生はどうやら、ラマが気に入ったらしい。
水族館に移動しても、彼の興奮は収まらなかった。
「おぉ! とんだ! とんだぞ! なぜあんなに高くとべるのだ!?」
「そういや、なんでだろうな?」
「一説には、あれは求愛行動と言われています」
「きゅうあいこうどうとはなんだ?」
「高く跳べた方が、女の子にもてるということです」
「おぉ! そうなのか! みなとは物知りじゃな!」
「ありがたきお言葉」
こうして琉生は、日が暮れるまで動物園と水族館を満喫したのだった。
その後、三人は王宮へと戻った。
琉生を一日中連れ回してしまったことを叱責されると思っていたが、透花がうまく言っておいてくれたのだろう。
王から感謝はされたものの、非難はされなかった。
あれから、王と琉生がどのような話をしたのか、蒼一朗と湊人は知らない。
だが――――――――――。
「そういちろう! みなと! 遊びにきたぞ!」
琉生は、一色隊の屋敷にたまにやって来るようになった。
王子としての教育の合間に、遊ぶ時間を設けられるようになったらしい。
「お前、また一人で来たのか!?」
「お一人では危ないですよ。きちんと供をつけられないと……」
「友達の家に、じゅうしゃをつけていくようなやつがあるか!」
琉生は、二人のことを友人だと思っているようだ。
蒼一朗と湊人は、やれやれと言った感じでため息を吐く。
しかし、その表情はどこか柔らかいものだった。
「それならせめて、来る前に連絡くらいしろ! そうしたら、迎えに行ってやっから」
「“友達同士”なら、迎えに行くのはよくあることなのですよ」
「そうなのか! わかった! 次からはそうしよう!」
三人の奇妙な友人関係は、これからも続いていくのだろう――――――――――。




