第四十六話 蒼一朗と湊人の王子大捜索①
「「王子がいなくなった!?」」
「……うん」
この日、蒼一朗と湊人の二人は透花の執務室に呼び出されていた。
そして、衝撃の事実を聞かされる。
「……王子って、この国の王子だよね?」
「……うん、そうだよ。第一王子の琉生様」
「いなくなったって、なんでまた……。まさか、誘拐か!?」
「その線は薄いと思う。見張りの話では、ちょっと目を離した隙にいなくなったらしいから、自分で出て行ったんじゃないかなぁ。誰かが侵入した形跡はなくて、身代金の要求もきていないし」
「……それで、僕たちに探してほしいってことかな?」」
「うん。現時点で軍全体を使って探すことはできないからって、王様からうちの隊に密命が下ったの。蒼一朗さんの身体能力と湊人くんの情報収集能力があれば探せると思うんだ……お願いしてもいい?」
「いいけどよ……なんで軍を動かせないんだよ? 大人数で探した方が絶対はやいだろ? 王子って、王の息子だよな? 王は息子のことが、心配じゃねーのか……!?」
蒼一朗が憤りを感じるのは当たり前のことだった。
琉生は、大和とそれほど変わらない年齢だ。
そんな子どもが急にいなくなったのだから、家族、ましてや親なら一刻もはやく見つけたいと思うに違いないからだ。
「……蒼一朗さんの気持ちはわかるよ。王だって、もちろん王子のことを心配している。だけど、相手は王族。そんなに簡単なことではないの」
熱くなっている蒼一朗に、透花は冷静に返す。
「軍全体を動かして王子の捜索を行った場合、王子が行方不明だということが民たちに知れ渡ってしまう。王子が自分の足で王宮を出て行ったと仮定すると、彼はおそらく一人でいるでしょうね。その王子を狙って、悪事を働く者がいないとも限らない」
「……今よりも、悪い状況になる可能性があるってことだね」
「そういうこと。王子がいなくなったことも、王と国の上層部、そして王子の側近たちしか今のところは知らないの。だから、二人で協力して探してもらえないかな?」
「もちろん。何かを探すのは、僕の得意分野だからね」
透花の説明に、蒼一朗は納得したようだ。
「……俺も。事情は分かったからな。あんたはこねーのか?」
「行きたいのは山々なんだけど、王に呼ばれていてね……。今回は王の傍に控えて、二人と王を繋ぐ連絡役になるよ。何かあったら、すぐに連絡してもらえる? もし王子が誘拐されていて、犯人のアジトに突入するなんてことになったら駆けつけるから!」
「あんまり、縁起の悪いこと言うなよな……。」
「蒼一朗さんはともかく、僕は武装してるであろう相手のアジトに突入するなんて無理だからね。その時は、遠慮なく連絡させてもらうよ」
「よし。じゃあ二人とも、頼んだ!」
こうして蒼一朗と湊人は、王子を探しに行くことになったのだった。
「探しに行くとは言ったものの、心当たりなんてねーしな……」
「とりあえず、透花さんの仮説をもとに推理してみようか。彼女の勘は滅多に外れないから」
湊人は、パソコンに何かを打ちながら話しはじめた。
「既に王子がいなくなってから二時間ほど経っているし、今もまだ王都に留まっている可能性は低いだろうね。というか、王都にいればもう見つかってるはずだ。そこかしこに街の警備のための軍人がいるんだから、王子がいなくなったことを知らなくても、王子が一人で歩いていれば不審に思い声をかける。王子は、顔を知られているんだからね」
「……でも子どもの足じゃ、そう遠くまでは行けないんじゃねーか?」
「それは、徒歩だった場合の話でしょ? 公共の交通機関を使えば、簡単に遠くまで行ける。王子は普段から現金なんて持ち歩いてないだろうから、料金前払い制のこの街のバスには乗れない。……となると、電車に乗ったと考えるべきかな。王子くらいの年齢なら、大人の後ろについて改札を抜けることもできるからね」
「電車か……。それだと、バスより人目につかねーか?」
「確かにそうだけど、今は平日のお昼だよ? 乗る電車を選べば、そこまで人は多くないさ。王子は電車に乗るのなんてはじめてだろうから、おそらく乗り換えするということもわからないはず。一本でできるだけ遠くまで行けて、なおかつ人目の少ない電車の終着駅は……ここだね」
湊人がパソコンのエンターキーを押すと、そこには一つの駅名が映し出された。
「よし、じゃあそこに行ってみようぜ。お前の推理なら、九割方当たってんだろ」
「九割じゃないよ。十割だ」
湊人の笑顔は、自信で満ち溢れている。
「お前って、ほんと自信家だよな……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「へいへい……」
こうして二人は、琉生がいると思われる駅へと急行するのだった。
二人は蒼一朗の運転で、一色隊が軍から借りている車に乗り駅へと向かった。
蒼一朗は免許を持っているが車を持っておらず、湊人は免許すら持っていないからだ。
透花も免許を持っているが運転することは滅多にないので、この車はほぼ蒼一朗専用車と言ってもいいものなのだ。
二人が改札を抜け駅に入ると、ホームのベンチに座り途方に暮れている様子の少年が視界に入る。
「……すげー、マジでいた」
「僕の言う通りだったでしょ?」
蒼一朗は、ここまでの道中での湊人との会話を思い出す。
「王子が電車でその駅まで行ったとしても、その場に留まってるとは限らないんじゃねーの? 駅を出られたら、探す手がかりを完璧に見失うことになるぜ」
「いや、王子は改札から出ないよ。正確に言うと、出られないはずだ」
「……出られない?」
「あそこの駅は、自動改札はなく駅員のいる改札が一つあるだけだ。王子は切符を持っていないだろうからね。その状態で、有人改札を通り抜けることはできないよ」
「……なるほどな」
「だからきっと、ホームのベンチにでも座ってるんじゃないかな? 次の電車に乗って、王都方面に戻ってくるとは考えづらいし」
湊人の推理は完璧に当たっていたようだ。
ベンチに座る少年の姿が、それを物語っている。
「……王子、迎えに参りました」
湊人は琉生に近付くと、優しく声をかけた。
「……ぐんぷくを着ているということは、そなたらはぐんのものか。よくここがわかったな。しかし、余は帰らんぞ」
彼は、湊人と蒼一朗を見ても特に驚いた様子はなかった。
顔を二人とは反対の方へ向け、反抗する姿勢をとる。
「そう言われましても、私たちはあなたの御父君の命令でここまで来ました。あなたを見つけたのに、このまま帰るわけにはいかないのです。……さぁ、王宮へ帰りましょう、王子」
「いやじゃ」
「……王子」
「いやと言ったらいやなのじゃ!」
蒼一朗は、口を挟まずに二人のやり取りを見ていた。
高貴な者を相手に会話をするのが、彼は苦手だからだ。
敬語が得意ではないので、王子に何か無礼なことを言ってしまうかもしれない。
そう思い、湊人に全てを任せ黙っているのだ。
「……さっきから、王子王子となんなのじゃ! 余の名前は王子ではない! 余の名前は……!」
「……琉生」
「ちょっと……! 蒼一朗さん……!」
「あ、わりぃ……」
蒼一朗は思わず、彼の名前を口走っていた。
違和感を覚えていたのだ。
いくら一国の王子とはいえ、まだ幼いのに自分の名前を呼ばれないことに。
“王子”と呼ばれる度に、少年の顔が悲しそうに歪んでいくことに――――――――――。
「弟を呼ぶのと同じ感覚で、つい呼んじまった……」
「……まったくもう! 君の弟と同じにしないでくれるかな? 今目の前にいる方は、この国の王子なんだよ。軽々しく呼び捨てなんて……」
「よい」
湊人の言葉を遮ると、琉生はベンチから立ち上がり、蒼一朗の前まで歩いてきた。
「お主、名はなんと言う」
「俺か? 俺の名前は、柏木蒼一朗だ」
「そういちろう……」
琉生はそのまま、蒼一朗の足に顔が見えないような体勢でしがみついた。
「……どうした、琉生」
蒼一朗が再び名前を呼ぶと、更に強くしがみついてくる。
自分の軍服が、彼の涙で徐々に濡れていることに蒼一朗は気付いた。
「……こんな状態じゃ俺も運転できないし、今すぐ連れて帰ることはできねーよな?」
「……そうだね」
「ここじゃ寒いから、とりあえず車の中まで行くぞ。そのまま無理矢理連れて帰ったりしないから、安心しろよ」
蒼一朗はそう言うと、琉生の頭を優しく撫でた。
「……うむ」
言葉が返ってきたことに安心すると、蒼一朗は歩き出す。
こうして三人は、蒼一朗が運転してきた車の中に入っていったのだった。




