第四十四話 虹太と晴久のハロウィン任務①
「「ハロウィン?」」
「うん」
この日、虹太と晴久の二人は透花の執務室に呼び出されていた。
どうやら、仕事の依頼のようだ。
内容は、大和や美海が通う学童クラブのハロウィンイベントへの参加協力だった。
「毎年、手が空いている保護者の人にお手伝いをお願いしているそうだよ。蒼一朗さんと心くんに頼みたかったのだけれど、二人とも都合がつかなくてね。このままうちからは不参加というのもなんだし、よかったら二人で参加してみない?」
「楽しそう! はい! 俺やりたい!」
「あ、あの、具体的にはどんな手伝いをするのでしょうか……?」
楽しそうなイベントにテンションが上がっている虹太とは正反対に、晴久は慎重だった。
彼はいつも、屋敷内で隊員たちの食事を作り待つというのが仕事なのだ。
最近は体調もよいので、炊事だけでなく洗濯や掃除もしているようだが。
屋敷外での任務は、隊員全員が駆り出されるような時しか参加したことがない。
慎重になるのも、無理はないだろう。
「子どもたちが仮装して、お菓子を貰いに行く場所の一つになるみたい。だから、ここでお菓子を持って待っていてくれれば大丈夫だよ」
「そ、それなら僕にもできそうですね……。是非、やらせてください」
透花の答えに、晴久は安心したように息を吐いた。
晴久が参加の意を告げると、透花は嬉しそうに微笑んだ。
「えぇー!? それだけじゃつまんないよ! もっと色々やりたいんだけど!」
「色々って、例えばどんな?」
「えっとね、俺たちも仮装したり~、屋敷内にハロウィンっぽい音楽かけたり~♪」
テンションの上がった虹太は、次々にアイデアを出す。
「あ、そういうのは自由にやってもらって構わないよ。二人で考えて、最終的にどんなことをするか私に伝えてもらえれば。私からクラブ長の先生にお伝えしておくから」
「やった☆ そうと決まればハルくん、早速俺の部屋行こ~! どんなことするか考えようよ!」
「あ、待ってください虹太くん……。あの、透花さん、子どもたちに手作りのお菓子を渡すことは可能でしょうか……?」
晴久は、疑問に思っていたことを口にする。
しかし彼の質問を聞くと、透花は眉を下げて困った顔になってしまった。
「それが、手作りはNGなんだって。万が一それを食べて体調を崩す子が出たら大変だから、お菓子はクラブが用意してくださる市販のものを渡すように言われたの」
「そ、そうですか……。そうですよね……」
晴久の表情に、絶望の色が浮かぶ。
自分が子どもたちのために何ができるかと考えて、一番に思い浮かんだのが手作りお菓子だったからだ。
「で、では、失礼します……」
晴久は暗い表情のまま、透花の執務室を後にした。
「俺的には、自分たちも仮装して、ハロウィンっぽい音楽を流したいんだよね! ハロウィンっぽいって言っても、お化け屋敷みたいな怖い感じじゃなくて、お祭りみたいな楽しい雰囲気のやつ!」
「………………………………」
「……ハルくーん、聞いてる?」
虹太は、晴久の顔の前で手を振る。
二人は虹太の部屋で、ハロウィンイベントについて話し合っていた。
虹太がアイデアを出すものの、晴久はどこか上の空だ。
「……あ、ごごごごごめんなさい! 聞いてませんでした……!」
眼前で手を振られたことにより、晴久の意識は戻ってきた。
「いやいやいやいや! そんなに謝らないで平気だよ! さっき透花さんにも言ったことをもう一回言っただけだし! ハルくんは、何かやりたいことあるー?」
その言葉に、晴久は小さな声でぽつりと呟いた。
「こ、虹太くんの案はすごくいいと思います……。だけど、お菓子が作れない僕に意味なんてあるんでしょうか……」
その声は常人なら聞き逃してしまうほど小さかったが、耳のいい虹太には届いたようだ。
「あー、手作りお菓子はダメだって透花さんが言ってたもんね……」
晴久のあまりの落ち込み具合に、彼の周りを暗い何かが取り巻いているようにすら見える。
「ハルくん、これから時間あるー?」
そんな晴久の様子を気にする様子もなく、虹太は明るく声をかけた。
「あ、はい……」
「仮装の買い出しがてら、ちょっと外に出ない? 街もすっかりハロウィンの雰囲気だし、歩いてたら何かやりたいことが見つかるかもしれないよ!」
「いえ、僕は……」
「時間があるならいいよね☆ じゃあ、レッツゴー!」
「あっ……」
断ろうとした晴久の言葉を遮ると、虹太は彼の手を取り、半ば無理矢理歩き出してしまう。
こうして二人は、仮装グッズを取り扱う大型雑貨店へ向かったのであった。
雑貨店に着いても、晴久の暗い表情は晴れなかった。
晴久とは対照的に、虹太は上機嫌で商品を物色している。
「どんなのにしよっかな~♪ せっかくだから、かっこいいのがいいよね! 神父とか、吸血鬼とかかな~。でもあんまり、俺っぽくない気もする……」
虹太は一着の衣装を手に取ると、それを晴久に渡した。
「俺は、ハルくんにはこれが似合うと思うな~☆」
「ま、魔法使い、ですか……?」
「うん!」
それは、魔法使いの衣装だった。
「ハルくんの作る料理って、いっつもおいしいじゃない? 味はもちろんなんだけど、見た目にも人を楽しませてくれる華やかさがあってさ! 特にお菓子なんて、めちゃくちゃ繊細だよね! 俺は料理が全くできないから、出来上がった料理には全部魔法がかかってるみたいに感じるんだ! だからそれを作るハルくんは、魔法使いってことだよ☆」
「こ、虹太くん……」
「……なーんて、ちょっと臭かったかな?」
「い、いいえ! そんなことありません! あの、僕、とっても嬉しいです……」
晴久は頬を染めながら、柔らかに微笑む。
それは、今日はじめて彼が見せた笑顔だった。
「で、でも、虹太くんだって魔法使いみたいですよ……」
「俺が!? なんで?」
「虹太くんのピアノの音は、一つ一つがキラキラしてて……。聴いてるだけで、元気が出てくるんです。そんな音楽を奏でられる虹太くんは、僕からしたら魔法使いです」
晴久の言葉に、虹太は満面の笑みになる。
「ハルくん、ありがと! じゃあ、二人とも魔法使いの仮装にしよっか! お揃いで☆」
「はい。それも、すごく楽しそうですね」
笑顔が戻った晴久と虹太の間には、温かな空気が流れ出した。
色々なグッズを見ていると、とあるものが晴久の目を引いた。
(これ……。これなら、手作りできるでしょうか……。僕のやりたかった手作りお菓子から、そこまでかけ離れてないですし、ハロウィンっぽさも充分ありますし……)
「こ、虹太くん!」
「ん、なーに? どうしたの?」
晴久は、少し前を歩く虹太に声をかけた。
「ぼ、僕、子ども達の人数分あれを作りたいです……!」
そして、先程自分の視線を引いたものを指差す。
虹太はそれを見ると、顔を綻ばせる。
「いいね! 食べ物を使うところがハルくんらしいし、めちゃくちゃハロウィンっぽいじゃん!」
「ありがとうございます」
「じゃあ、早速材料買って帰る?」
「ぼ、僕たち二人で、全員分の材料を持って帰れるでしょうか……?」
「……うん、どう考えても無理だね。俺、途中で心折れる自信あるよ」
「ぼ、僕も途中で休憩しても厳しい気がします……。今日は一旦屋敷に戻って、後日どなたかに運ぶお手伝いをお願いしましょう。子ども達の人数もわからないので、何個買えばいいのかもわかりませんし」
「そうだね! ただ作って渡すだけじゃつまんないからさ、ゲーム性をもたせるのはどう? 子ども達の興味もひけそうじゃない!?」
「すごく楽しそうですね。どういうゲームがいいでしょうか?」
「この近くにオススメのカフェがあるからさ、そこでお茶しながら作戦立てない? せっかくだから、座ってゆっくり話そうよ!」
「虹太くんオススメのカフェですか。きっと、素敵な所なんでしょうね。僕が一緒に行ってもよければ……」
「いいに決まってるじゃん! よし、行こ行こー☆」
二人は虹太オススメのカフェに入ると、時間も忘れてハロウィンイベントの計画を練った。
そして、それに合わせた仮装グッズを買うと、その日は屋敷に戻ったのだった。
二人は子ども達のために、どのような楽しいイベントを考えたのだろうか。
それは、ハロウィン当日までのお楽しみである――――――――――。




