表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
clair fleur  作者: 白鈴 すい
第二章~紹介編~
41/70

第四十話(透花編)あなたの演奏なら楽器が何だろうと好きだけれど。

 別の休日、透花がサロンの前を通りかかると、いつもとは違う楽器の音が聴こえてきた。

 この部屋を使うのは、虹太しかいない。

 不思議に思い、透花は中の様子を覗く。

 するとそこには、エレクトーンに向かう虹太の姿があった。

 透花は、サロンの扉を開けて中に入っていく。


「虹太くん、楽しそうなことしているね。それ、どうしたの?」

「あっ、透花さん。なんか別の楽器をやってみたいな~と思って買っちゃった☆ 早速弾いてみてるんだけど、ピアノとは違った味わいがあって面白いね!」

「じゃあ、早速一曲リクエストしてもいい?」

「……まだ慣れてないから、ピアノとそんなに変わらない演奏しかできないと思うよ? 音が電子的だってことくらいしか、違いが出せないかも……」

「それでもいいよ。私が、虹太くんの演奏を聴きたいだけだし」

「……そこまで言ってもらえるなら、俺、頑張っちゃおっかな!」


 透花の言葉に気をよくした虹太は、鍵盤に指を滑らせるのだった。






 演奏の途中で、湊人がサロンに入ってきた。

 虹太は集中していて、気付かないようだ。


「珍しいね。湊人くんがここに来るなんて」


 自分の隣までやって来た湊人に、透花は小声で声をかける。


「いつもと違う音が聴こえてきたから、つい気になってね。……いつものピアノの音より、僕はこっちの方が好きだなぁ。電子的で、聴いてて落ち着くよ」


 それに対し、湊人も小声で返事をした。

 それ以降二人が口を開くことはなく、虹太の演奏に聞き入るのだった―――――。






 演奏が終わると、二人は虹太に惜しみない拍手を送る。

 まだ慣れていないとはいえ、素晴らしい演奏だった。


「ありがと~☆ ……って、湊人くんいつからいたの!?」

「途中からだよ。ドアを開けて入ってきたのに、全然気付かなかったのかい?」

「うん、全然気付かなかったー。俺、弾いてる時ってめちゃくちゃ集中してるから、毎回気付かないんだよね」

「……私はいつか、演奏中に虹太くんが誰かに襲われたりしないか心配だよ」

「確かに。背後に人が忍び寄っても、気付かないだろうからね。そのままぐさっと……」

「ちょっ、二人とも怖いこと言うのやめて! 襲われる以前に、俺、人の恨み買うようなことしてないから!」


 虹太は焦ったように言う。


「……それにしてもエレクトーンって、もっと色々な音が出る楽器じゃなかったっけ?」


 虹太の演奏を聴きながら、湊人は疑問に思っていたのだ。


「うん。ほんとはそうなんだけどね~……俺、設定とか全然わかんないし。これから説明書読んで、挑戦してみるよ。難しそうで、やる前から心折れてるんだけど……」

「それなら、僕が一緒にやってあげようか?」

「え、いいの!?」

「うん。僕がこういうの得意なのは、知ってるでしょ?」

「わーい! ありがとう、湊人くん! あ、でもさ……」

「どうしたの?」

「俺今、エレクトーン買ったばっかりでお金ないし……」


 虹太がこんなことを言うのには訳があった。

 理玖が以前、大吾と日菜子の結婚式のために湊人に情報収集を依頼した時に、報酬を求められていたのを覚えているだろうか。

 湊人は仕事において、損得勘定抜きには動かない男だった。

 隊長である透花の頼みは無償で聞くが、それ以外の者に仕事を頼まれた時は引き受けるものの、間違いなく有償だ。


「……あぁ、もしかして理玖さんの件を聞いて、自分も何か対価を支払わないといけないと思ってるのかな?」

「うん」


 湊人の問い掛けに、虹太は素直に頷く。


「これは仕事じゃなくて、プライベートでしょ? 見返りなんて求めないから安心して。理玖さんの時は、僕の情報収集能力を使わないといけなかったから、仕事として受けたんだ。彼もはじめからそのつもりで僕のところに来たみたいだったしね」

「なーんだ! そうだったんだ!」


 虹太は、安心したように息を吐いた。


「そうだよ。仕事とプライベートは別。子どもたちや君にプティモンの修業をした時だって、別に見返りなんて求めなかったでしょ?」

「そういえばそうだったね! じゃあ、お願いしようかな☆」


 話は、うまくまとまったようだ。


「見返りってわけじゃないんだけど、設定が終わって色々な音が出せるようになったら、エレクトーンで演奏した曲をCDに入れて、僕にくれないかな? この楽器の音が、すごく気に入ったんだ」


 湊人の言葉に、虹太は目を輝かせながら喜ぶ。


「湊人くんがそんなこと言ってくれるなんて、嬉しいけど一体どうしたの!? 今まで、俺の演奏に全然興味なかったじゃん!」

「いや、虹太くんの演奏はすごいっていつも思ってるよ。だけど僕は、ピアノの音があんまり好きじゃないみたい。エレクトーンみたいな電子音の方が、聴いてて落ち着くっていうか……」

「湊人くんは、いつも何かしらの電子機器に向かっているからね。ピアノよりもエレクトーンの方が落ち着くっていうの、なんかわかる気がするな」


 ここまで二人のやり取りを見守っていた透花が、会話に入ってきた。


「まぁ私は、虹太くんの演奏なら、楽器が何だろうと好きだけれど」


 極上の笑顔と、虹太への褒め言葉も忘れずに。


「………………………………! 透花さん! 俺、ピアノもエレクトーンもがんばる! ほら、湊人くん! はやくやろうよー!」


 透花の言葉に気をよくした虹太は、見たこともないようなスピードでエレクトーンへ向かっていった。


「……あなたって本当に、人をやる気にさせるのがうまいよねぇ」

「そんな、人聞きの悪いこと言わないでほしいな。全部本心なのだから。湊人くんの仕事ぶりにも、いつも助けられていると思っているよ」

「そうなの? じゃあ、その言葉は素直に受け取っておくよ」

「うん。そうして。……ほら、虹太くんが呼んでいるよ。湊人くんが行くまで呼び続けると思うから、はやく行ってあげて」

「みーなーとーくーん!」

「……そうだね。虹太くん、ちょっと待って。すぐに行くから。」


 エレクトーンの設定をはじめた二人を視界に収めると、透花は一人でサロンを出た。


(あ、私にもエレクトーンのCD作ってってお願いするの忘れちゃった……。まぁ、虹太くんなら頼まなくても作ってくれるかな)

 CDの完成を待ち切れないとでもいうように、透花は微笑みを浮かべた。


(さて、これからどうしようかなー。……あ、この声は)


 透花は、声がした方へと歩いていく。

 彼女はその後、誰と休日を過ごしたのだろうか――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ