第二十八話(湊人編)悪いけど、そういうことなら協力できないなぁ。
一色隊の隊員である二階堂湊人はこの日、虹太との任務だった。
今は、その帰り道である。
とある公園の前を通りかかったところで、虹太が何かに反応する。
「ねぇねぇ、湊人くん! 寄り道してってもいい?」
「ふふっ、いいよ。でも、報告書も待ってるんだからあまり長い時間はダメだからね」
「やった! 奏太くーん!!」
湊人の返答を聞くと、虹太は公園の中に走って向かう。
湊人もワンテンポ遅れて、歩いて公園へと足を踏み入れた。
虹太が反応したのは、奏太の姿だった。
彼が友人たちと集まっている姿が目に入ったので、声をかけに来たというわけだ。
「おーい、奏太くん! ……って、あれ? みんなどうしたの? そんな暗い顔して」
「あ、虹太さん。こんにちは……」
奏太の挨拶には、まるで覇気がない。
他の少年たちも、なぜか皆一様に暗い表情だ。
「……何かあったんじゃないのかな。虹太くん、話を聞いてみたら?」
少し遅れて、湊人がやって来た。
「……どうする? この兄ちゃんたちに話してみるか?」
「奏太の知り合いだろ? それなら安心だよな……」
「……大人だったら、俺らを助けてくれるかもしれないしな! 話してみようぜ!」
「……わかった。じゃあ、僕から話します」
奏太が代表して、彼らが落ち込んでいる経緯を話してくれることになったのだった。
「実は今、この辺りでモンストル狩りが流行ってまして……」
「モンストル狩りって……」
「もしかしてプティモン?」
「はい、そうです……」
プティモンとは、リベルテの国で流行っているゲームの名前である。
友達との対戦やオンライン対戦もでき、大人から子どもまで幅広い年代が楽しめるのだ。
「子どもたちが夏休みに入ったのをきっかけに、はじまったんです……。夏休みだと、昼でもいろんな所でみんなが対戦してるから……。犯人は、はじめは普通に対戦を申し込んできて、わざと負けて自分は弱いと思い込ませます……。そこで、モンストルを賭けたコンバットを申し込んでくるんです……」
コンバットとは、モンストル同士の戦いのことだ。
「犯人が賭けるモンストルは僕たちが持ってないようなレアなものなので、みんなそのモンストルが欲しくて賭けに応じてしまいます……。同じ条件にするために、自分が持っている中で一番レアなモンスターを賭けろと言われ……」
「……その途端、本気を出して戦って勝ち、君たちからモンストルを奪っていくというわけだね」
「……はい。今は夏休みなので、学校がありません……。なので、クラスで噂になるということもなく、僕たちも今日、こうやって会って話すまでは、自分と同じような被害者がいることを知りませんでした……」
ここまで奏太の話を静かに聞いていた少年たちが、一斉に話し出す。
「……なぁ、兄ちゃんたちはプティモンやらないのか!?」
「……そうだよ! 大人の兄ちゃんたちなら、あいつに勝てるかも!」
「勝って、俺たちのモンストル取り返してくれよ……! 子どもの俺らじゃ無理なんだ……!」
湊人と虹太は、一つの違和感に気付く。
「え、待って! その犯人ってもしかして……」
「大人、なのかな……?」
少年たちは、首を縦に振る。
「えぇー!? 何それ! 子どもたちからモンストル奪うとか、大人の風上にもおけないじゃん!」
「……子どもの喧嘩レベルの話かと思って聞いていたけど、それは確かに悪質だね」
ここで奏太が、以前虹太とした会話の内容を思い出した。
「……そういえば虹太さん、プティモンやるって言ってましたよね?」
奏太の言葉に、少年たちの期待の眼差しが虹太へと向けられる。
「兄ちゃん、マジでプティモンやるの!?」
「大人だから、強いよね!?」
「俺らのモンストル取り返すために、戦ってくれない!? この通り!」
手を合わせて、頭を下げる子まで出る始末だ。
「……確かにプティモンはやるけど、俺は全然強くないよ~。それなら湊人くんが……っていうか、前に奏太くんに話したよね? 友達にめちゃくちゃ強い奴がいるって! それがこの、二階堂湊人くんでーす!」
虹太は、今更ながらに湊人の紹介をした。
湊人はというと、困ったような笑みを浮かべている。
少年たちの視線が、今度は湊人へと向けられた。
「確か、虹太さんが何度やっても勝てないって言ってた……」
「それって、めちゃくちゃ強いっていうことだよな!?」
「メガネの兄ちゃん、頼む!」
「俺らの代わりに戦って、モンストル取り返してくれよー!」
少年たちの嘆願に、湊人は穏やかな笑みを浮かべた。
その表情から、彼らはいい返事が聞けると思ったに違いない。
「悪いけど、そういうことなら協力できないなぁ」
しかし、笑顔から発されたその言葉は、少年たちの想像とは全く逆のものだった――――――――――。