青年の夏
俺に夏はない。
そもそもこの部屋には季節というものは存在はしない。
圧倒的な空気管理、菌すら入れない除菌されている何もない空気が廻っている。
春夏秋冬すらない部屋。
まるで深海みたいと、誰かがいった部屋だ。
確か、最初の子供だ。
それが、俺の部屋だ。
机と椅子と本と紙と鉛筆しかない。
周りを見渡すと白の世界。
部屋、ではなく空間。
ここは俺だけの空間である。
俺しかいない、一人ぼっちで硝子の向こう側にいるのは十人くらいいる真っ白な白衣を着た男女たち。
管理している人だ。
俺の肉の。
そう、あと一年で俺は缶詰めになる。
弟もあと一年で缶詰めになる。
徹底的に管理された肉が俺で、管理を放置されたのは弟だ。
正直に言えば、俺は監禁された肉で、弟は虐待行為されている肉だ。
ストレスを感じていない綺麗な肉と、ストレスを感じた痛んだ肉の美味しさを分けてみたいらしい。
そんなんそんなの変わらないのに。
弟が可哀想だ、同情しかできないが。
まぁどっちがストレスをためたほうかはわからないけど。
俺が缶詰めになると言われたのは十六歳、高校一年生の時だ。
親が入学祝いに連れて行った場所が、ここの部屋だ。
そして閉じ込められ、理由をモニターごしにいわれた。
食用としての缶詰めとして今まで接してきたと、親とずっと思っていた人にいわれた。
けど、なんとなくわかっていた。
自分の親がおかしいくらい、知っていた。
異常なまで執着感、だろうか。
そう、執着感。
汚れてはいけない、遊んではいけない、頑張ってはいけない、ずっと笑え。
親バカではすまされないほどの、愛情を注がれていた。
そして、その愛情は食欲だということがわかり、納得してしまった。
歪んだ愛情。
いつも食べたいという視線。
そんな勘が当たってしまった。
そしてその時弟がいることは初めて知った、喋ってはいないが写真を見た。
普通にいる少年だ。
けど、目が死んでいた。
他人に見える、けどこいつは弟だと直感でわかった。
寒気が、する。
当たり前だがおかしいだろう。
金銭的な心配も離婚すらしていないのに、弟を独りぼっちにして、暴力もふるって。
そしたらこんな風になるだろう。
弟は写真の中で死んでいた。
こんなのは間違えている、カリバニズムなんて、人間として、親として、何もかも。
けど俺は、食べられる。
けど俺は、従うしかない。
俺はあと一年で食料になることを選んだ。
どうして、か。
そりゃあ俺だって反抗したさ。
けどここからは出られない、鍵がかかっている。
そのことはここ、この部屋にいてわかった。
ここにいる人たちが本気だと。
眼差しが家畜みたい見て、検査の時も人間としての扱いをされず、まるで、まるで本当に俺は食料じゃないか。
俺は食料で売り物になる、前の実験品。
そうこの十八年間、こつこつと育ててきた家畜を食べる時、俺と弟を味見会だ。
多分そこで弟と初めてご対面。
缶詰めとして、だが。
そもそも何故十八歳、弟は十二歳で食べるというと、カリバニズムの美食家がいうにはその年齢が同じくらい美味だという。
そして俺の母、ともいうべきか、俺が多分六歳の時に弟が産まれたらしい。
弟の誕生日知らないから何才だったかは知らん。
けど俺は十八歳、弟は十二歳に缶詰めにされ、目の前にいる狂いに狂ったきちがいたちに食されるのだろう。
なんという滑稽な人生。
なんという呆気なさ。
それもまた人生、そうなんですか、そうですか。
そうなんでしたか?。
もしここから出られたら中卒だからバイトでも始めようか。
何なら詐欺師だってギャンブラーだってそのお友達だってなんでもいい。
誰かここから、出して下さい。
と、助けを願ってみたりする。
ヒーローはいつくるのだろいうか。
英雄はいつくるのだろうか。
名探偵はいつあばきにくるのだろうか。
いつもそんなことばかり思ってしまう。
やれやれ。
相変わらずのファンタジー思考だ、小説もどきと絵本の読みすきだ。
人を助るために動くには同情が必要であり、他人は他人にまず同情すらしない。
哀れな人間。
それが俺だった話だけだ。
幻想でもミステリーでも小説もどきでもホラーでも推理でも精神病でも理不尽でも夢でもない。
ただの日常に溢れる真実である。
ぶっちゃけ何言っているか俺にもわからない。
そこにあるのは恐怖だけだ。
怖い。
生きたまま、殺されるのだろうか。
殺されたまま、食べられるのだろうか。
生きたまま、食されるのだろうか。
この何もなかった一年間、俺は消毒されていた。
思考も身体も、心も全て。
さて。
今日は、やな一日ですね。
と、俺は腕に針を刺している真っ白な人、あだ名はホクさん(マスクしてない顔がフクロウみたいな人だったから)に話しかけた。
するとホクさんはそんなことないですよと細く目を細める。
彼の目はやはりフクロウみたいだ。
注射する人間。
彼の針の刺し方は物凄く巧い、痛くない。
だから毎回ホクさんに刺して貰っている、薬を入れて貰っている。
ホクさんも俺を食べるんですか。
そう尋ねたことがある、暇による好奇心で。
いやはやそんなことはしないさ。
僕は君を食べないし食べられない、ここにはビジネスで来ていて、君をお友達とは違うけど久しぶりに同じくらいの年代と喋れるからね。
仲良く、とも違うけどこんな奴に話しかけてくれる同世代なんて君しかいないからさ、恩は仇で返さないとも違うけど、いやはやそもそもお友達であったらここから出してあげることかもしれないけれど君のことはお友達と思っているから食べないよ。
でも......お友達かな、やっぱり、うん。
もしくは一方通行か。
そもそも恩を仇、ではなく恩で背徳なのかな。
僕は結局わからない。
けどもしかしたら食べるかもね、あっもちろんユーモアな冗談だよ? とホクさんとフクロウらしく言った。
とっても彼らしいと思う解答だ。
彼のことは、友人だと、友人に近いものだと思っている。
話して、刺して、愚痴って、同情するだけの関係だが友人だ。
友人、高校生になって初めてできた。
まぁ望んでいた形とは少し違うけど。
それもそれでありだと思う、青春とかまたかけ離れているけどしょうがないし。
ああ、そういえば中学の友人の藤原くんはどうしているかな。
楽しく生きているかなぁ。
新しい友達出来たかなぁ。
藤原くんは絵が上手いので絵描きになりたがっていて、よく絵を見してくれた。
よく藤原くんはキラキラした目でよく絵を見してくれた、帰り時間ギリギリまで見せてくれたなぁ。
個性的、独特な絵だった。
人。
藤原くんは人の絵しか描かなかった。
人が泣いている絵であったり、人が狂っている絵であったり、人が死んでいる絵であったり、人が切断されている絵であったり、人が陥っている絵であったり、人が人形みたいな絵であったり、人形みたいな人の絵であったり、人が人でないような絵であったり、人が、人が、人しかいない。
何故藤原くんは人しか書かないのか聞いた、不思議でしたがなかった。
え、理由か。
......人って、さ。
あれだよな、うん、あれ。
ほらあれじゃね、お前さ、一番美しいものってなんだと思う?。
あ、いや、こういうのはあれだけどさ、うん。
お前にとって美しいものってなによ。
俺はわからないと答えた。
藤原くんはお前にはわからないと思うけど笑いながら言う、藤原くんの笑顔は優しい太陽みたいだ。
俺はな、美しいものを描き続けたい。
美しいのはこの世界だと思う。
けど世界はスケールがデカすぎるじゃないか、じゃあ世界で一番美しいものってなんだ。
人、だよ。
俺は人が美しいと思った。
なんか、美しいんだよ、人間って。
理屈じゃないんだよ、わからないけど美しいと感じるようになったんだ。
人があまりにも美しすぎて、人しか描けなくなったんだよ。
まぁこんな絵ばかりだけど、俺は、人を、愛している。
あっ恋愛意味はねぇよ、俺はただ単純に人を好んで方思いしているだけだよ。
片思い__うん、やっぱしいいよなぁー。
恋愛感情とはまた違う片思い。
憧れとも、違うらしい。
藤原くんは人というものを愛していた。
あの人たちも、人間を愛しながら、食べているのだろうか。
俺を、愛しながら、食べて、生きていくのだろうか。
ま、どうでもいいけどさ。
俺は、ホクさんから弟が逃げ出した話を聞いた。
なんか、複雑である。
弟に、会いたかったなー。
缶詰めだけどさ。
さて。
俺は出口のドアのノブをひねった。
当たり前のように、開かなかった。