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缶詰めの夏  作者:
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少年の夏

 


 今日はやけに暑い日だった。


 日差しが強い。

 大量の汗でシャツは塗れているようで、気持ち悪い。

 

 意識がもうろうとし、目の前がくらくらする。

 蝉の鳴く声が女子たちのきゃーきゃー笑う声に似て、耳が痛くなる。

 少しくらい黙ってろ。

 一週間の命なら速く死ね。

 猫は公園の涼しいベンチを独りじめすんな。

 

 やっぱり夏なんて、嫌いだ。


 そんなこと思っていた直後、人様にぶつかってしまった。

 尻餅をつくほどの勢いだった、即座に謝った。

 ごめんなさい! と大きく声を張り上げて謝った。

 

 謝らないでいいよ、大丈夫だから、よっこらしぇ。


 とぶつかった人は立ち上がりながら言った。

 上を見ると少女だった。


 とっても可愛い。


 僕が知っている可愛い女子の中でダントツに可愛い。

 顔や身体を見る限り日本人なんだろうか、けど服装はお姫様。

 絵本のお姫様より少ないけど、フリルがたくさんついている黒いドレスをまとっている。


 これから舞踏会でも行くのだろうか。


 我ながらファンタジー思考だ、絵本の読みすぎだ。

 

 えっと、大丈夫かな。


 高い声だけど水みたいに透き通っている声だ。

 少女は僕に艶がある黒い手袋をした手をさしのべる。

 

 戸惑った。


 まるで舞踏会にいるお姫様にダンスを誘われているみたいだったから。

 僕は戸惑った。


 手を取ってみた、まるで僕がお姫様みたいだ。

 少女は引っ張って起こしてくれた、立ち上がる。

 

 怪我とかしてないかな?。


 あ、はいっ、大丈夫です!。


 無意識に声が高くなる、恥ずかしい。



 ぎゅるるる。



 またやけに高い、お腹の音が鳴り響く。

 身体が熱湯で浴びているみたいだ。

 地面を向く、どうして、こんなにも、恥ずかしい思いになるんだろうか。

 あああまりにも人生は理不尽である。


 ......お腹すいたの? 、少女は首を傾げる。


 昨日から。食べて、ない。

 僕は無理やり声にだした。


 少女は目をまん丸にして、大変! と叫んだ。

 

 あまりにも大きな声で驚いた。

 いや、いきなりお腹に痛みが走り、驚いた。

 後になってわかったことだけど、少女は僕のお腹を蹴ったらしい。

 

 かなり、痛かった。


 ............。

 目が覚めた。

 少女がふわふわ白いドレスを着て、上品ににやにやしながらこちらを見ていた。

 

 ここは、どこだろう。


 キラキラした場所で、お城の中みたいだ。

 僕と少女はむかい、向かいあって座っている、

 真っ白な布が引いてあるテーブル、ふわふわ座りこごちがいい椅子。

 


 ......夢?。



 それとも天国?。



 わからないや。

 テーブルに食べ物が次々と並べられていました。

 食べ物がキラキラしている、いい匂いがする、お腹がまた鳴る。

 

 まるで、本当に、絵本の中みたいだ。


 口の涎をのむ。

 鼻がひくつく。

 食べていいよ、と少女は言った。

 僕はその瞬間、食べた。

 夢中で食べた。

 お腹が引きちぎれそうなほど食べた。

 今まで食べてきたものより美味しい!。

 口がはじけている!。

 給食より美味しい!。

 これが美味しい!。

 僕は、美味しい?。



 いつの間にやら気持ち悪くなるほど食べました。

 僕は少女に感謝しました。



 少女は君は一人ぼっちなの? と聞いてきました。


 そうです。

 だから。

 僕、缶詰めになって食べられるんです。

 両親やあの人たちに食べられるんです。

 

 少女は、こう言いました。


 なら。

 私と、一緒に旅についてくればいい。

 私は、あなたを気に入った。

 その、一年の命、貰ってあげる。

 私とあなた、ふたりぼっちの旅をしよう。

 つ、つ、つまりさっきの食事代を返せる旅ってどうかな!。

 ほら! でも、私お金たくさん持っているし!。

 

 

 僕は。

 僕は。

 

 僕の名前を言うと、突然悲しそうな顔して、じゃあにーくんだねという。


 __私の名前は。


 とても、綺麗で残酷な名前で。

 僕は素敵な名前だね、と言った。




 これからよろしくね、にーくん!。


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