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第一話 罪を識る少女




不思議な少女がいるという。

相手の犯した罪を事細かに暴露し、相手に罪を償わせるという。

その少女は東京のどこかの街に出没し、人ごみの中で静かに一人の人生を導くのだ。








「一九九六年七月十四日、学校に向かう途中だった当時九歳の本田佳奈ちゃんを悪戯目的で自宅に連れ込み、その後殺害。殺すときは首を絞めたのね。

幼かった佳奈ちゃんは、いとも簡単に死んでしまったでしょう?

優しいお兄さんだと思ってついていったのにね、かわいそう。

殺害した後、遺体は車で三時間掛かる山奥まで運んで深くに埋めた。

その時に証拠となるような物はまた別の場所に埋めてる。

佳奈ちゃんの着ていた洋服を脱がせたら、何年か経ったら誰かわからなくなると思ったのね、おバカさん。」



行き交う人混みの中で、一人の少女と一人の男がその場に立ち止まっていた。

少女はマスクにメガネ、ゆったりとしたワンピースと自らを隠すような姿。



「あなたの名前は太田健二。当時二十二歳で現在は三十八歳。

優しい妻に可愛らしい子供、絵に描いたようなアットホームな家庭を持つエリート商社マン」


「な、なんで知ってるんだ・・・・!」


「あなたが罪を犯したから。全てを償いなさい。あなたが警察に行かなくても私が真実を全て話す。佳奈ちゃんが埋まってる場所も、証拠となるような物が埋まっている場所も、全て。

どうする?自首するなら罪は軽くなる。」



ずっと俯いていた男が、すっと顔を上げた。



「・・・・・本当は、バレないならばこのまま家族に囲まれて人生を終えたいと思っていた。

馬鹿だな、人を殺しているのに・・・。最近、うちの娘があの子と同い年になった。

可愛くて仕方がないんだ・・・。毎日『行ってきます!』って言うたびに、あの子が変な事件に巻き込まれませんように、事故に遭いませんように、って思うんだ。あの子の両親もそう思ってたんだろうな、。子を持つ親になってからやっとわかった。だからこそ、罪を償うべきだとずっと思っていた。

でも、家族に辛い思いをさせると、一歩踏み出せなかった。きっと、誰かに背中を押して欲しかったんだ。お前は犯罪者だ、人を一人殺しているんだ、と。・・・・ありがとな、」



鞄の中から携帯を取り出した男は、静かな声で電話をかけた。

かけた先はもちろん警察だろう。


罪を犯した犯罪者とは思えないほど、穏やかな表情をしていた。


男は車が来るまでそこから動かなかった。



少女は人混みにまみれ、いつの間にか姿を消していた。










あの人私にありがとう、って。私はあの人に罪を償わせたのに・・・。


次の日の新聞には一面に『十六年前の少女誘拐事件、犯人が自首』と載っていた。

あの男は警察に行って真実を全て話したらしい。女の子の白骨化した遺体も見つかり、これから裁判にかけられるそうだ。



持っていたいちごみるくをズッとストローですする。



「かわいそうな人。私に見つからなきゃ一生あのままでいられたのに、。」


腰掛けていた階段から立ち上がり、どこかに向かおうとする。



「待ってくれ!」


いきなり手を掴まれた。顔の整った少し歳のいった男。

体に合った上質なスーツに清潔感を漂わせる白のシャツ。


この男が私に何の用があるというのだろう。



「君、巷で噂の女の子だろ!犯罪者を見つけ出す、あの!」



なんでわかったんだろう?自分に関する情報は隠すようにして生きている。

バレないように一切の注意を払っているというのに・・。



「お願いがあるんだ、聞いてくれないか・・・・?」



必死な顔。ここで断られたら人生の終を迎えるかのような顔。



さて、どうするか?



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