【前座】 第一幕 迷い道をゆく者
ああ!
一体、どこから説明すればいいのでしょう?
私の身に起こった、この奇怪きわまる事件を、一体全体どう説明すれば、みなさんに理解してもらえるというのでしょう!?
この事件は、不可解で、不思議で、奇しくも事件が起こったディスマールの深い森のように、陰惨な闇に満ちています。
全てが謎だらけなのです。
起こった事のどれ一つとって見ても、常軌を逸しているとしか言いようがありません。誰一人、整合性のある行動した者はいないように思われます。そもそも、この迷宮のような事件に、『解決』という名の出口が存在しているのかさえ、保証はないのです。
私は、あの日以来、自分の身に降りかかった災難を、思い出すだけで総毛たつような残酷な事の顛末を、他の何にも増して、なぜ全てはかくのように起こり、登場人物がかくのように行動したかを、ずっと考え続けています。
とり憑かれていると思っても過言ではありません。他の何をしようとしても、まるで手がつきません。気になって気になって、夜も眠れない有様なのです。
アノニマス市の込み入ったを街路を、まっすぐ迷わず歩いているつもりでも、気づけば私自身の思考の軌跡さながら、さっき来た通ったばかりの戻っている自分を発見します。
一人で考え続けることに耐え切れなくなって、道行く人に助けを求めることもあります。
ああ、心ある通行人よ。我が声を聞け! 我と我が九人の同胞に起こった、かくも忌まわしき出来事を。そして賢なる者よ。知なる者よ。我に答えを指し示したまえ!
大抵の人間は無視して私の前と言わず後といわず、足早に私を素通りしていきます。
たまに足を止めてくれる者があっても、私の話を最後まで聞いてくれるものは滅多にありません。
もっとたまに聞いてくれる者があったとしても、理解してくれるとは限りません。
そして、仮に理解してくれたとしても、私を悩ましている謎を解いてくれるわけではありません。
なんとなれば、私自身この事件で起こった事の一部なりとも、納得のゆく説明を見つけられたわけではないのです。そう、事件の一部始終を最初から最後まで見ていた私でさえ、そうなのです。
だとしたら、いったい他の誰がこの大いなる謎を解けるというのでしょう?
そう考えた時、私の脳裏にふと、ある男の名前が浮かびました。






