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「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」

作者: 井上さん
掲載日:2026/10/31

名前を借りました



フィクションです




誤字報告ありがとうございます!

「クーロン様とジュール様はお似合いだわ」


「悪女のファラドが、2人の仲を邪魔して」


「お2人は愛し合っているのに」




 私ファラド・ワットは貴族学園に通っている。


学園では、家庭教師から習った貴族教育の、更に上の教育をする。

自分より高位の貴族に嫁入りする令嬢達や、後継者の為の教育などだ。


 基本の教育は、家庭教師から受けるのだ。


爵位によって受ける教育レベルは違うが、基本の教育は、全ての子息子女が受けていて、知っていて当然の常識だ。


 だが、学園に蔓延する噂と、噂を信じる生徒達を見ると『本当に基本教育を受けたのか?』と疑いたくもなる。




 ジュール・ボルトは私の婚約者で侯爵子息。クーロンは幼馴染で、伯爵家の娘。


 私は伯爵家の娘。侯爵家に嫁入りするのに、身分は悪くない。

婚約は、ボルト侯爵家から是非に、と申し込まれたものだ。




婚約は当主同士が決める

他家の婚約と後継に口出ししてはいけない

噂は真実とは限らないから、実際を確かめる




 そんな基本的な事も分からない子息子女が、これから先の国を支えられるとでも思うのか?




 愛し合っていようと、当主が決めた婚約なのだ。

政略結婚に愛はいらない。


家同士の契約なのだから。


誰を愛していようが、結婚は絶対だ。




 それが分からないなら、貴族をやめたほうが、よほど、この国の為になる。




 文句があるなら、当主に文句を言いなさいよ。

私にも婚約者にも、決定権は無いのだから。






 金髪碧眼同士目立つクーロンと並んで歩くジュールを遠くに見ながら


「婚約辞退しなさいよ」


 クーロンの取り巻きの令嬢達は、さも、正義を実行しているかのように振る舞う。


すごい自信ね。




 令嬢達を見送った後、私は呟いた。


「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」






 まずは、婚約者ジュールの邸に行った。


緊張した面持ちのジュールの父であるボルト侯爵が、豪華な応接室の対面のソファに座っている。


「お前の息子は『クーロンとお似合いだ』と噂されているが、我がワット家との婚約を継続するつもりはあるのか?」


 無表情の父が言うと


「勿論あります!」


 青褪めたボルト侯爵が慌てて言った。


父は、膝に肘をつき、手を組んで口元を隠しながら言った。


「それなら、何をすれば良いか分かるな?」


「はい!勿論です!必ず対処いたします!」


 ボルト侯爵は、上司に対するように、姿勢を正しながら返事した。





次にクーロンの婚約者の家に行く。



クーロンの婚約者はオーム侯爵子息ヘンリー。


 これまた豪華な応接室のソファに、ブルブル震えながら父の対面に座るヘンリーの父であるオーム侯爵。


「お前の息子ヘンリーの婚約者クーロンは、人の家の婚約にまで文句を言ってくるが、そんな常識無しを嫁にするのか?」


 無表情に父が言うと


「おっお待ちください!」


 オーム侯爵は、ソファから飛び降りて土下座した。


「どうか…どうかお慈悲を!必ず対処いたしますので!!」




 そんな感じで、陰口令嬢の婚約者の家に凸しては


「噂を真に受ける能無しを嫁にするなら、お前の家との取引は停止する」


 と父が当主に言ったので、クーロンをはじめ取り巻きの陰口令嬢達は、軒並み婚約を解消された。


 え?他家の婚約に口を出してはいけない?

口を出されたからお返ししただけだよ?

うちは、何にも悪くないのよ?






 今日は、学年末のパーティーである。

学園の大広間で、将来夜会に出る時の為の練習を兼ねたパーティーが、毎年開かれている。


 私は父にエスコートされてシャンデリアの光が煌めく会場に入った。




 ダンスを踊った後、父が友人に呼ばれて行き、私一人になると、案の定、令嬢達が声を掛けてきた。


 自分が正しいと思うのなら堂々とやれば良いのに、悪い事をしている自覚があるから、父の前では言えないのよね。




「ちょっと!あんた何様よ!」


「あんたのせいで婚約解消されたわ!」


 クーロンと取り巻き陰口令嬢達が言いたい放題に言う。


「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」


 私は、扇で口元を隠して言った。

めちゃくちゃ笑いたいのを堪えているのだ。


展開が予想通り過ぎて、もはや笑うしかない。


「はぁ!?」


 令嬢達は、私を睨んだ。


「私の婚約に口出ししたでしょう?」


 私は、笑いを堪えながら言った。


「あんたよりクーロン様のほうがジュール様にお似合いだからよ!」


 クーロンの腰巾着が言った。

目が悪いんじゃないかしら?


あ、家のお荷物同士お似合いって事?

それなら同意するわ。


「それなら、直接当主に言ってくださる?」


 私は、呆れて言った。

どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。


「はぁ!?」


 あら、はしたない。貴族は感情を表に出してはいけないのよ。どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。


「婚約をどうするかの権限は当主にあるのよ?貴族なのにご存知無いのかしら?」


 私が言うと


「なっ…」


 令嬢達は顔を赤くした。

無知を恥じているというより、怒りに燃えている顔ね。どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。


「貴女、人の婚約に口を出せる程偉いのでしょう?当主に直接言えば良いわ」


 扇子の先を腰巾着に向ける。


「はぁ!?生意気よ!」


 クーロンが叫んだ。




「ふざけるな!!」


「この恥さらしが!」


 令嬢達の父親が来て、令嬢達を羽交い締めにした。



「「「「「申し訳ございません!!ご無礼お許しください!!」」」」」



 父親達は、娘を羽交い締めにしながら私に向かって叫んだ。


「お父様…?」


「どうして?」


「たかが伯爵家の娘に…」


 戸惑う令嬢達。


本当に、常識知らずの世間知らずね。


あと、クーロンも伯爵家の娘よ。


「無礼者の恥知らずめ!!」


「ファラド嬢の祖母上は、前国王の妹君だぞ!」


 父親達の顔は青褪めている。


我が家と取引停止になれば、他のどこの家も取引停止にするだろう未来が見えているからだ。


「は!?」


 令嬢達は怪訝な顔をした。


「ワット前伯爵は、前国王がハニートラップに引っかかる所を阻止したのだ。それに感謝した前国王が、妹君をワット前伯爵の嫁になさったのだ」


「はぁ!?」




 前国王がハニートラップに引っかかるのもどうかと思うが、阻止したから妹を嫁にさせた?

 情報が多すぎる。


令嬢達は訳が分からなかった。



 親世代はウンウン頷いている。有名な話だからね。

そのせいで、この国ではハニートラップを仕掛けたら死刑になる程だ。



「だから『ワット家には失礼の無いように』と、どの家でもしつこいくらいに教育しているのに…お前というやつは!!」


 失礼どころの話じゃない。

婚約に口出ししたし、嘘の噂を流したのだから悪質だ。




「娘は幽閉します」


 父が邸に行った時点で幽閉しておけば良かったのに。


「遅い」


 父が無表情に言った。


「何故、警告した時点でしなかった?」


 父の言葉に、令嬢の父親達は、震え上がった。




「どんなに謝罪されようと、令嬢達がした事は、無かった事にはなりません」


 私が無表情に言うと、令嬢の父親達の顔が白くなった。


令嬢達も、父親の顔を見て、青褪めた。


「先を読めない貴族は、この国には、いらないわ」




 私や我が家は、試金石なのだ。


伯爵家といえども、前国王の妹君が降嫁した家だ。


前国王は、妹君を大層可愛がっており、それはそれは大切にしていた。

 だから、その息子である父も、孫である私も、目に入れても痛くない程に可愛がっていた。

 現国王も、唯一の従兄弟である父と、仲が良かった。息子しかいなかったので、私のことも娘のように可愛がってくれた。


 あまり大っぴらにすると、依怙贔屓だと言われるから、こっそりと、交流していたのだ。


 今は亡き前国王に会いに行く時も、従兄弟である現国王に会いに行く時も、父は家名無しの馬車に乗り、使用人用の出入り口から王城に入る程の、気の遣いようだ。




 それを知っていれば、無礼な振る舞いはしない。


 それを『たかが伯爵家』と侮辱すると、痛い目に遭う。




 今回、基本の教育が足りない家と、貴族としての意識と危機管理能力が足りない家が、ハッキリと分かってしまった。




 後に現国王が、ニッコリ笑って(目は笑ってない)


「降爵ね」


 と、それぞれの家に言い渡した。

各家は、一つずつ爵位を落として、苦しい生活をしているらしい。

 王都に5年間立ち入り禁止になり、社交すらままならない。

役職がある者は、罷免された。


 まともな後継者がいる家は、後継者が爵位を継ぎ、両親と、問題を起こした姉妹を領地に幽閉したので、徐々に信頼を取り戻していった。




 ちなみに私の婚約者は、父が警告した時点で、自分で対処できなかった元嫡男ジュールから、次男で嫡男となったジーメンスに代わった。


 噂が流れた時点で、当主に相談もせず、噂の出元を探して消す事もせず、噂を否定もせず、クーロンと一緒に過ごしていたからだ。


 婚約者との交流の時間をキャンセルした兄ジュールの代わりに、私の相手をしてくれていたのが次男ジーメンスだったから、私も婚約を受け入れた。






「これで、国もスッキリしたんじゃないかしら?」


 侯爵邸の庭で、嫡男となり後継者教育に勤しむジーメンスとお茶をする。


「お義姉様、ご自分を犠牲にしなくても」


 ジーメンスが眉を下げながら言った。

ジュールと似た金髪碧眼だが、顔だけは良かったジュールと違い、成績も良い。


「あれは、自滅したのよ。私はただ、笑いながら見ていただけ」


 予想通りの展開と結末に、腹筋が攣りそうな程に笑った。

更に、思い出し笑いが腹筋を追撃してきて、大変だったなぁ。


「それより、もう『お義姉様』じゃないのよ」


 私はジーメンスを見ながら言った。


「はい、ファラド。名前で呼べるようになって嬉しいです」


 ジーメンスの兄の嫁になる筈だった私。


兄の代わりに私と過ごすようになり、私に懐いていたジーメンス。


「愛しています」


 ジーメンスは、私の手を取り甲に口付けた。



読んでいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
「ファラドが試金石として自覚して動いてる」ってことは「ジュール兄は政略だけで愛されてない役」押し付けられ続けてたってことだよな。 ジュール兄が能力不足だったのは間違いないが、ある意味逆転できなかったド…
名前って大事ですねwww
「辺境伯」も役職で偉くなってるけど爵位自体は伯爵であって、上位貴族なんだよなぁ。 実際本作でも王女の嫁入り先に不釣り合いなら功績だけじゃ婚姻成立しない。 王位継承権持ちの王族・公爵ならともかく、伯爵・…
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