「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」
名前を借りました
フィクションです
誤字報告ありがとうございます!
「クーロン様とジュール様はお似合いだわ」
「悪女のファラドが、2人の仲を邪魔して」
「お2人は愛し合っているのに」
私ファラド・ワットは貴族学園に通っている。
学園では、家庭教師から習った貴族教育の、更に上の教育をする。
自分より高位の貴族に嫁入りする令嬢達や、後継者の為の教育などだ。
基本の教育は、家庭教師から受けるのだ。
爵位によって受ける教育レベルは違うが、基本の教育は、全ての子息子女が受けていて、知っていて当然の常識だ。
だが、学園に蔓延する噂と、噂を信じる生徒達を見ると『本当に基本教育を受けたのか?』と疑いたくもなる。
ジュール・ボルトは私の婚約者で侯爵子息。クーロンは幼馴染で、伯爵家の娘。
私は伯爵家の娘。侯爵家に嫁入りするのに、身分は悪くない。
婚約は、ボルト侯爵家から是非に、と申し込まれたものだ。
婚約は当主同士が決める
他家の婚約と後継に口出ししてはいけない
噂は真実とは限らないから、実際を確かめる
そんな基本的な事も分からない子息子女が、これから先の国を支えられるとでも思うのか?
愛し合っていようと、当主が決めた婚約なのだ。
政略結婚に愛はいらない。
家同士の契約なのだから。
誰を愛していようが、結婚は絶対だ。
それが分からないなら、貴族をやめたほうが、よほど、この国の為になる。
文句があるなら、当主に文句を言いなさいよ。
私にも婚約者にも、決定権は無いのだから。
金髪碧眼同士目立つクーロンと並んで歩くジュールを遠くに見ながら
「婚約辞退しなさいよ」
クーロンの取り巻きの令嬢達は、さも、正義を実行しているかのように振る舞う。
すごい自信ね。
令嬢達を見送った後、私は呟いた。
「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」
まずは、婚約者ジュールの邸に行った。
緊張した面持ちのジュールの父であるボルト侯爵が、豪華な応接室の対面のソファに座っている。
「お前の息子は『クーロンとお似合いだ』と噂されているが、我がワット家との婚約を継続するつもりはあるのか?」
無表情の父が言うと
「勿論あります!」
青褪めたボルト侯爵が慌てて言った。
父は、膝に肘をつき、手を組んで口元を隠しながら言った。
「それなら、何をすれば良いか分かるな?」
「はい!勿論です!必ず対処いたします!」
ボルト侯爵は、上司に対するように、姿勢を正しながら返事した。
次にクーロンの婚約者の家に行く。
クーロンの婚約者はオーム侯爵子息ヘンリー。
これまた豪華な応接室のソファに、ブルブル震えながら父の対面に座るヘンリーの父であるオーム侯爵。
「お前の息子ヘンリーの婚約者クーロンは、人の家の婚約にまで文句を言ってくるが、そんな常識無しを嫁にするのか?」
無表情に父が言うと
「おっお待ちください!」
オーム侯爵は、ソファから飛び降りて土下座した。
「どうか…どうかお慈悲を!必ず対処いたしますので!!」
そんな感じで、陰口令嬢の婚約者の家に凸しては
「噂を真に受ける能無しを嫁にするなら、お前の家との取引は停止する」
と父が当主に言ったので、クーロンをはじめ取り巻きの陰口令嬢達は、軒並み婚約を解消された。
え?他家の婚約に口を出してはいけない?
口を出されたからお返ししただけだよ?
うちは、何にも悪くないのよ?
今日は、学年末のパーティーである。
学園の大広間で、将来夜会に出る時の為の練習を兼ねたパーティーが、毎年開かれている。
私は父にエスコートされてシャンデリアの光が煌めく会場に入った。
ダンスを踊った後、父が友人に呼ばれて行き、私一人になると、案の定、令嬢達が声を掛けてきた。
自分が正しいと思うのなら堂々とやれば良いのに、悪い事をしている自覚があるから、父の前では言えないのよね。
「ちょっと!あんた何様よ!」
「あんたのせいで婚約解消されたわ!」
クーロンと取り巻き陰口令嬢達が言いたい放題に言う。
「人の婚約をぶち壊すなら、自分の婚約をぶち壊されても文句は無いわね」
私は、扇で口元を隠して言った。
めちゃくちゃ笑いたいのを堪えているのだ。
展開が予想通り過ぎて、もはや笑うしかない。
「はぁ!?」
令嬢達は、私を睨んだ。
「私の婚約に口出ししたでしょう?」
私は、笑いを堪えながら言った。
「あんたよりクーロン様のほうがジュール様にお似合いだからよ!」
クーロンの腰巾着が言った。
目が悪いんじゃないかしら?
あ、家のお荷物同士お似合いって事?
それなら同意するわ。
「それなら、直接当主に言ってくださる?」
私は、呆れて言った。
どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。
「はぁ!?」
あら、はしたない。貴族は感情を表に出してはいけないのよ。どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。
「婚約をどうするかの権限は当主にあるのよ?貴族なのにご存知無いのかしら?」
私が言うと
「なっ…」
令嬢達は顔を赤くした。
無知を恥じているというより、怒りに燃えている顔ね。どんな教育を受けたのかしら?親の顔が見てみたいわ。
「貴女、人の婚約に口を出せる程偉いのでしょう?当主に直接言えば良いわ」
扇子の先を腰巾着に向ける。
「はぁ!?生意気よ!」
クーロンが叫んだ。
「ふざけるな!!」
「この恥さらしが!」
令嬢達の父親が来て、令嬢達を羽交い締めにした。
「「「「「申し訳ございません!!ご無礼お許しください!!」」」」」
父親達は、娘を羽交い締めにしながら私に向かって叫んだ。
「お父様…?」
「どうして?」
「たかが伯爵家の娘に…」
戸惑う令嬢達。
本当に、常識知らずの世間知らずね。
あと、クーロンも伯爵家の娘よ。
「無礼者の恥知らずめ!!」
「ファラド嬢の祖母上は、前国王の妹君だぞ!」
父親達の顔は青褪めている。
我が家と取引停止になれば、他のどこの家も取引停止にするだろう未来が見えているからだ。
「は!?」
令嬢達は怪訝な顔をした。
「ワット前伯爵は、前国王がハニートラップに引っかかる所を阻止したのだ。それに感謝した前国王が、妹君をワット前伯爵の嫁になさったのだ」
「はぁ!?」
前国王がハニートラップに引っかかるのもどうかと思うが、阻止したから妹を嫁にさせた?
情報が多すぎる。
令嬢達は訳が分からなかった。
親世代はウンウン頷いている。有名な話だからね。
そのせいで、この国ではハニートラップを仕掛けたら死刑になる程だ。
「だから『ワット家には失礼の無いように』と、どの家でもしつこいくらいに教育しているのに…お前というやつは!!」
失礼どころの話じゃない。
婚約に口出ししたし、嘘の噂を流したのだから悪質だ。
「娘は幽閉します」
父が邸に行った時点で幽閉しておけば良かったのに。
「遅い」
父が無表情に言った。
「何故、警告した時点でしなかった?」
父の言葉に、令嬢の父親達は、震え上がった。
「どんなに謝罪されようと、令嬢達がした事は、無かった事にはなりません」
私が無表情に言うと、令嬢の父親達の顔が白くなった。
令嬢達も、父親の顔を見て、青褪めた。
「先を読めない貴族は、この国には、いらないわ」
私や我が家は、試金石なのだ。
伯爵家といえども、前国王の妹君が降嫁した家だ。
前国王は、妹君を大層可愛がっており、それはそれは大切にしていた。
だから、その息子である父も、孫である私も、目に入れても痛くない程に可愛がっていた。
現国王も、唯一の従兄弟である父と、仲が良かった。息子しかいなかったので、私のことも娘のように可愛がってくれた。
あまり大っぴらにすると、依怙贔屓だと言われるから、こっそりと、交流していたのだ。
今は亡き前国王に会いに行く時も、従兄弟である現国王に会いに行く時も、父は家名無しの馬車に乗り、使用人用の出入り口から王城に入る程の、気の遣いようだ。
それを知っていれば、無礼な振る舞いはしない。
それを『たかが伯爵家』と侮辱すると、痛い目に遭う。
今回、基本の教育が足りない家と、貴族としての意識と危機管理能力が足りない家が、ハッキリと分かってしまった。
後に現国王が、ニッコリ笑って(目は笑ってない)
「降爵ね」
と、それぞれの家に言い渡した。
各家は、一つずつ爵位を落として、苦しい生活をしているらしい。
王都に5年間立ち入り禁止になり、社交すらままならない。
役職がある者は、罷免された。
まともな後継者がいる家は、後継者が爵位を継ぎ、両親と、問題を起こした姉妹を領地に幽閉したので、徐々に信頼を取り戻していった。
ちなみに私の婚約者は、父が警告した時点で、自分で対処できなかった元嫡男ジュールから、次男で嫡男となったジーメンスに代わった。
噂が流れた時点で、当主に相談もせず、噂の出元を探して消す事もせず、噂を否定もせず、クーロンと一緒に過ごしていたからだ。
婚約者との交流の時間をキャンセルした兄ジュールの代わりに、私の相手をしてくれていたのが次男ジーメンスだったから、私も婚約を受け入れた。
「これで、国もスッキリしたんじゃないかしら?」
侯爵邸の庭で、嫡男となり後継者教育に勤しむジーメンスとお茶をする。
「お義姉様、ご自分を犠牲にしなくても」
ジーメンスが眉を下げながら言った。
ジュールと似た金髪碧眼だが、顔だけは良かったジュールと違い、成績も良い。
「あれは、自滅したのよ。私はただ、笑いながら見ていただけ」
予想通りの展開と結末に、腹筋が攣りそうな程に笑った。
更に、思い出し笑いが腹筋を追撃してきて、大変だったなぁ。
「それより、もう『お義姉様』じゃないのよ」
私はジーメンスを見ながら言った。
「はい、ファラド。名前で呼べるようになって嬉しいです」
ジーメンスの兄の嫁になる筈だった私。
兄の代わりに私と過ごすようになり、私に懐いていたジーメンス。
「愛しています」
ジーメンスは、私の手を取り甲に口付けた。
読んでいただきありがとうございます




