第16話 第三界 相川裕也②
イズラっていう美少女が、アルティエロとかいう魔法使いを『第七界』から『第三界』に召喚しようとして、失敗して、俺たち十八人をヤケのように召喚し続けて。
結果、召喚の補助魔法具である鐘とやらには亀裂が入り、人を呼び寄せたり送ったりすることはできなくなり、でも文字を送るような弱い通信機能だけは残った状態だそうな。
えーとぉ?
つまり、俺たち十八人はどうしたらいいでしょうか……?
「すまない。元の『界』に戻してやりたいんだが……」
タビオ課長補佐とかいう人は誠心誠意、謝ってくれているけど……。
「『界』渡りができる魔法使いは……今、山羊モドキ対策で恐ろしいほどに忙しくてな。君たちを優先はできなくて」
……つまりは異世界転移させられたけど、俺らは放置ですか?
扱い悪くないですか?
フツーっていうか、ネット小説とかアニメとかでよくある異世界に転移とかの場合って、聖女で世界を救うためにとか、勇者で魔王を倒すためとかで、転移者たちは物語の主人公的扱いになるのが王道だと思うんですけど、放置?
……俺ら、やることないんですか。そうですかー。
文句を言っても仕方がないんだろうけどさあ。
異世界転移だ、勇者だ、魔法だって盛り上がった俺たちの気分をどうしてくれる。……って、俺はそれほど盛り上がりはしていないけど。
それよりも倒れてしまった美少女が気になる。
彼女、大丈夫なのかな。
とにかく、転移させられてしばらくは……暇だった。
暇すぎて、木下たちの語る「異世界転移ファンタジー物語」を聞いて聞いて聞きまくって、耳にタコが出来そうなくらいアニメとかラノベとかの話を聞いて……。
クラスメイトの奴らがね……「ふおおおお」とか「なるほどー」とか、それなりに盛り上がってきてしまった……。
異世界に転移なんてことになって、不安で泣いていた女子もいたけど。
「聖女召喚とかで王子様から求婚されてラブラブ……なんてストーリーもラノベ界では王道だよ」なんて聞かされて「まあ♡」なんて頬を染めたりたりたり。
元の世界に戻して……って感情なんてサクッとなくなって、まあ、イケメンとラブ展開♡なのね……って、ウキウキソワソワしだしたり。
立ち直りが早いっつーの!
お前ら、単純だよな。まあ、泣いているよりはいいけどさ。
世界を救うために転移させられたんだから、魔法を使えるようになるんだよな、うわー、どんな魔法が使えるんだろう……とか。
転移させられた時とは違って、みんな盛り上がっちゃったのに。
すまん待機。
今、『第三界』の魔法使いたちはみんな山羊みたいな魔物の対策で忙しいんです。
……って、おい。
せっかくその気になったみんなのやる気が目減りするぞ。
あー……。
俺はとりあえず、右手を上げて発言許可を取る。
「すみません、いくつか質問と提案。俺らがこっちの世界で魔法の修行をしたら、魔法使えるようになりますか?」
「あ、ああ……。『第七界』の人間であろうと、魔法の素養……というか、才能があれば」
「素養……、才能……。ええっと、たとえば水晶みたいな不思議玉に手をかざすとあなたの才能は何々ですって鑑定してもらえるカンジ?」
ラノベでよくある系のたとえを出してみたら、タビオ課長補佐は「は?」と口を開けた。あ、そーゆーよくある系はないのか。
「……元々魔力を持つ者が、何らかのきっかけで魔力を爆発させるとか、修行の後に発現するとかだが……」
あー、なるほど? 地道な修行?
それじゃあ……。
「イズラさん? 王女様? 彼女が回復してからでいいんで、俺らに魔法の修行とかさせてもらってもいいですか?」
参加希望者だけでいいんだけど。多分、俺を含めて十八人、全員参加希望するだろうなあ。木下とか元々オタクヤロウだけじゃなく、泣いていた女子まで目を輝かせたし。
「へ?」
「俺たち、いつか帰してもらうまで暇しているのもつまらないし、せっかくファンタジー世界に来たんだから、できるなら魔法とか使いたいし」
十八人全員が、俺の言葉に「うんうん」と頷いている。
「誰に魔法を教えてもらってもいいんだけど、俺たちをここに呼びよせた責任者ってことで、タビオ課長補佐は忙しいでしょ? だったら、直接責任者のイズラさんに責任を取ってもらって、俺らに魔法を教えてもらうってどう?」
男子連中はさらに大きく頭を縦に振った。
どーせ教えてもらうなら、タビオ課長補佐みたいなハゲ親父よりは銀髪ストレートの美少女のほうが良い……とか思ってんだろうな。
木下なんて「ナイス! 相川! お前サイコー」とか右手の親指をグッと立ててるし。
……というわけで。
イズラさんとあともう一人、ランカさんという人が俺たち十八人の世話役兼魔法の先生役になった。
男子は全員ウキウキで。
女子はイケメンだったらよかったのにーとか表情に出しつつ。
とにかく全員魔法修行。
その前に、俺たち十八人はイズラさんにすごく謝られた。
「ごめんなさい。あたくしが勝手して、あなたたちに迷惑をおかけしました」
すんごい深々と。
「えーと、その。なんで十八人も呼び寄せるくらいにヤケっぱちになって、召喚し続けたの……?」
俺が最初にこの『第三界』に呼ばれたから。
イズラさんがぶっ倒れるまで、すんごい必死になって召喚し続けたのを見ている。
ランカさんという人が「落ち着け」って、イズラさんを制していたのも。
「……アルティエロ様に、助けてほしくて」
「……そういえば、そんなこと言っていたっけ?」
召喚されたときの「どうしてアルティエロ様じゃないのよ!」っていう怒鳴り声。
あれは……、今から思えば、怒っていたんじゃなくて……泣きそうだったのかもしれないって。
「勝手に呼び寄せて、巻き込んでごめんなさい。でも、言います。この『第三界』は多分一年か二年程度の短い時間できっと山羊モドキの魔物の飲み込まれます」
ああ、そう言えば、「『第一』と『第二』は既に超巨大生物……山羊型の魔物に、食われた後だ」って、タビオ課長補佐が言っていたっけ……。
「『第二界』が山羊モドキに食べられて、間にある人にいない『界』もどんどん飲まれて……。もうすぐ、この『第三界』の順番が来ます」
イズラさんの顔が青い。
「アルティエロ様は……なんとかして山羊モドキを倒せないか、他の『界』で方法を探ってくださっているんです。今は……あなた方の『第七界』にいるはずで」
「俺たちの……」
「あなた方のいた場所に、アルティエロ様の魔力反応が強い。だから、あたくしは、アルティエロ様を呼び寄せて……。せめてお話をして……、山羊モドキが『界』ごとの地球を食べる速度が上がっているって伝えたくて……」
震えだすイズラさんの体。
……怖いんだろうな、きっと。
そりゃあ怖いよな。自分の世界がもうすぐ滅びる。
それを阻止する方法を探しにアルティエロさんって人が俺たちの世界にまでやって来ている……。
勇者とかなのかな? アルティエロさんって。
世界を救うために、他の世界にまで行っている。
俺たちの世界に魔物を倒す方法があるのかなあ?
ないのなら……どうするんだろう? わからないけど。
でも、物語の勇者なら、駄目なのは承知で魔物を倒すんだろうか?
それとも、世界中の人たちを全員引き連れて、どこか別の場所に逃げるんだろうか?
俺はアルティエロさんって人のことはわからないけど。
このイズラさんは。イズラさんにとっては。
……アルティエロさんって人は、勇者とか、姫を助けてくれる王子サマとか、そう言う感じの人なんだろうか。
あ……、なんか、ちょっと胸が苦しいぞ? どうした俺。
イズラさんていう美少女の、つらそうな顔、見たくないとか。
アルティエロさんって人の代わりに俺が……なんて。
チョーっと待てよ俺。
たかが最初に! 十八人の中で最初に俺が召喚てものをされたから! 木下たちが読むラノベとかだったら、俺が実は世界を救う勇者だったりしてなんてちょっと思っていたりして、そうじゃないからがっかりした?
いやいやいやいや。思い上がりもいいところっ!
だけど。
ラノベのセオリーで言ったら。
俺が、ここで、魔法を発現させて。
それで、魔物を倒して。
勇者になって。
……きれいなお姫様と結ばれるなんて……王道だろっ! 木下とか緑川たちが読んでいて、この世界に来てからライトノベルの王道的ファンタジーをあれこれ話してもらってそれに当てはめてみると俺がっ! 俺こそが!
何てこと考えて。
うわー、うわー、うわーって。
……何考えているんだ俺。
でも。
単なる中学生が、異世界に転移させられて、そこで魔法を使って、魔物を倒して、勇者になって、お姫様と結ばれるって夢を、瞬時に思いうかべたのは、俺だけではなかったらしい。
俺を含めた召喚された十八人中男子全員は。
俺と同じように、世界の勇者になることを夢、見ちゃったんだよなー……。あああ、男子中学生って阿呆だよなー……。
タイトルちょっと変更しました。




