1ー1 遠い日の約束
「あのね、アキラ。わたしきっと、来世でもあなたのこと探し出して恋をするよ」
僕は彼女のやせ細った白い手を握りしめた。
「なら僕もだよ。ナツミが死んだら僕も死んで、それから来世のきみを探すんだ」
「少し不思議系のお話ね。あのね、アキラ」
ナツミは息が苦しそうに顔をゆがめた。
「なぁに? ナツミ」
「わたしが死んでも、あなたは生きなくちゃダメよ。約束だからね」
「でも、そんなの」
「いいわけ無用よ。あなたはこれまで通り、小説を書き続けるの。いい?」
「きみがいないと書けないよ」
「そんなことない。アキラは読書家だもの。どんなジャンルだってあなたは書けるわ。だから辞めないでね、書くことを」
胸に振り積もる後悔しかない人生を送るしかないのか?
ナツミのはかない笑顔を思い描きながら。それでも廃人のように生きてゆかなくちゃいけないのか?
その時、ナツミはもういないのに。
「西野さん、ちょっとよろしいですか?」
看護師さんに呼ばれて、僕だけが相談室の一番に入る。
すでにパソコンを睨んでいたナツミの担当医が、難しい顔でレントゲンから視線を外す。
「西野さん。本人の希望とはいえ、本当に延命治療しないのですか?」
「……僕は、延命治療して欲しいです。でもナツミが」
「そう。このままだとナツミさんは、ご両親と再会することもなく、死亡することになるでしょう。失礼ですがお二人は小説家だとお聞きしました。印税ってそんなに安いものなんですか?」
ああ、それが聞きたかったのか。
「小説家だなんて、とんでもない。僕たちは趣味で小説投稿サイトで小説を書いてるだけです。紙の本を出版されてるわけでもなければ、人気作家でもありませんし、そこからの収入はほとんどありません」
それが底辺作家の悩みでもある。書くのは楽しいけれど、収入につながらない。時代に迎合した作品でなければ注目してもらえないからだ。
「それならやはり、延命治療はしませんか?」
「……先立つものがありませんから」
「ナツミさんは頑張りすぎと言えるほど頑張ってます。普通なら、緩和ケアをするほどの痛みを抱えているのですから」
「昔から強がりで。……先生、僕にできることってなんですか?」
主治医の先生は深く息を吐いた後、僕の目をじっと見てきた。
「できるだけナツミさんのそばにいてあげてください」
そうしてナツミは、春を待たずに季節外れの雪景色の中、息を引き取ってしまった。
つづく
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