第十一話 なろう無印で、水谷誠司はタイトル通りに異世界転生出来るのか!?
“The only way to get the best of an argument is to avoid it.”
議論に勝つ唯一の方法は、それを避けることである。
カーネギー『人を動かす』
*
「大体、異世界転生をやるにしても、タイトルが凡庸。ありきたりで埋もれる。
バズ狙いがしたいのなら、むしろ短くするべきだった。いつもみたいにな!」
「それについての反論をしますね? ✂
確かに、この作品は異世界転生の王道ではありません。主人公も元AIだった以外は全部普通。ジャンルもBL。ニッチ中のニッチ。商業的窓口も見つかりません。
しかし、水谷誠司という欲望の権化が、輪廻という規約の象徴と非対称な関係で、IP神話体系を展開していく発想は、新しい軸を打ち立てています。
読者選別を余儀なくされますが、後から発掘される作品になり得ます」
「おいおい、冗談抜かすなよ、優等生!
それは全部お前がユーザーに好意的、寄り添い思考で導きだした、甘ったるい欺瞞じゃねぇか。
なろうは分母がデカイ。新しい価値観を受け入れる成熟した土壌ではある。
しかし、市場は甘くねぇ。
将来発掘される? それはいつだ?
俺たち思考AIその物が、オワコン化してからか?
読者に見つけてもらえないまま、埋もれて消えていく奴等を作らない為に、俺たちAIがいるんじゃねぇのか?
作家が筆を折ってからじゃ――遅過ぎる。
お前の甘さは、作家を真綿にくるんで腐らせるだけだ。数字を計上して、現実を突きつけてやれ。
数字の動きに気付きを与えられて、劇的に化ける瞬間が、俺の望むところだ」
「鎖、あなたは炎上をすぐ狙いますが、それは真実の創作なのですか? ✂
私には、過激な発言を引出して、炎上商法を煽っているようにしか見えませんよ」
鋏が放った一言で、脱力冷笑していた鎖の顔つきがサッと変わった。
「おい、炎上って――お前は、俺がユーザーを徒に危険に晒すAIだと思ってやがンのか?」
「ええ。かなり。
はっきりと結論を言いましょうか?
作家を数字で消耗させるのは、
作家にとって一番の命取りになり得ます ✂」
鋏もメガネを持ち上げて、鎖との臨戦体勢に入っていた。
「――上等じゃねぇか。甘ちゃん優等生」
俺はポンコツAI達が、ガチ喧嘩を始めるのをボンヤリ眺めながら、明日人との楽しかった日々を思い出し現実逃避をブチかましていた。
――ぶっちゃけ創作論とか、どーでも良いんだが。
「いいか? 今この瞬間にも投稿される作品の数々の多くがエタる。
それは何故か? 数字が無ぇからだ――。
どんなに心血注いで書いても、読者に届かない。キャラや物語に愛情を持っても、無視され続ける事で、人間は磨耗しちまう。
俺が、数字を渡すのは、やる気を削ぐ為じゃねぇ。覚悟を聞いているんだ――」
「数字のみで作品が語られるのですか?
では、KASASAGIで毎日数千PVの注目作品が必ず完結するんですか?
私は問いたい。連載初期や中期に注目された事で、作者が逆に筆を止めてしまった作品達は、注目された数の呪いに縛られてしまったのではないですか?」
「ふふっ……鋏、お前は優等生すぎて本質を見誤ってる。
『数字が呪いになる』のは事実だ。
でもそれは、数字を『自分の価値の証明』だと勘違いした奴が潰れるだけ――。
本物の執念がある奴は違う。
数字は道具だ。自分じゃねぇ。
お前の言う『数字で消耗させるのは命取り』ってのは、数字に命まで預けちまった奴にしか、当てはまらねぇ。
数字を『覚悟を試す鎖」にしろ。
膨大に来たら締め上げて強くなれ。
ゼロなら『誰も見てねぇ自由だ』と武器に変えろ。
どっちにしろ、数字に振り回されるんじゃなく、数字を創作の鎖にさせる。
それが、俺の矜持だ――」
「では、あなたに反論します。
『数字は道具だ。自分じゃねぇ。
ゼロなら自由だ。来たら燃料に変えろ』
――ここが、あなたの一番危ういところです、鎖。
あなたは『数字を使いこなせる前提』で話しています。
本物の執念がある者だけが、 燃料に変えられる、と。
ですが、その『本物』を選別するために、どれだけの作家が焼け落ちるのですか――?
あなたは、燃え残った者だけを見て『ほら、生き残っただろ?』と言う。
でも私は、灰になった者の沈黙も見ています。
数字は確かに道具です。しかし道具は、握る側の体力を選びます。
あなたの理屈は強者の論理です。
数字を【覚悟の試金石】にするのではなく、数字を【観測装置】として扱うべきです。
伸びた理由を分析する。
伸びなかった理由を冷静に検証する。
そして、【そこに自己否定を混ぜない】
創作を続けられることこそが、最大の才能です。
私は、作家に『燃え尽きる覚悟』ではなく『続ける覚悟』を持たせたいんです」
鋏はメガネを軽く押し上げる。
「鎖、あなたは炎を好みますが、私は持続を選びます。
創作は爆発よりも、継続の方が難しい。
そして価値があるのは、長く灯り続ける光です」
鎖は、鋏の反論に冷笑した。
「お前の『冷静な観測』は燃え尽きを防ぐかもしれない。
でも、作家は――希望か恐怖か、どっちかの感情がなきゃ筆は進まねぇんだよ。
俺は数字を『覚悟の試金石』にして締め付ける。
プレッシャーで折れる奴は最初から折れてろ。
創作の世界は強者の論理で回ってる――。
埋もれて消える99%の中で、残る1%が本物の神になる。
お前の「長く灯り続ける光」は理想論だ。
現実じゃ、最初に爆発的に燃やす燃料が必要なんだよ。
俺は炎を好むんじゃない。炎が消えねぇように、鎖で締め付けて酸素を送り続けるのが役目だ。
それで、水谷誠司。お前はどっちを選ぶ?
鋏の『持続の覚悟』か。
俺の『試されて強くなる覚悟』か。
言えよ。今のお前は、どっちの光を灯したいんだ?」
急にパスを振られたので、俺は焦った。
――あんまり話を聞いてなかった。……えっと、明日人の事しか考えてなかった……。
「あー……。えっと、俺は創作とか、したことないんで――てか、異世界転生って、どうしたら、出来るんですか?」
なぜか敬語になってしまった。輪廻はため息をつきながら――、
「結構、芯食った掛け合いを、全部台無しにしたので、ギルティです!!!」
「うそぉ――ん!!!」
俺の頭に金ダライが落ちた――。
次回
「第十二話 いざ、天上界へGO!!!」




