第7話:逃走
もはや、振り向いている余裕すらなかった。
死体が埋め尽くす地面をなんとか走るエリモアだったが、もう追っ手はそこまで来ている。
「殺せ! 魔法を放て!」
その声と同時に、火球が飛んできた。
エリモアがなんとか風の魔法で弾いたおかげで直撃は免れたが、髪の先が焼けた。
「冗談じゃないわ……死にたくない……死にたくない……!」
土の壁を魔法で作り出しても、複数人の魔法使いが追ってきていてはすぐに突破される。
風の魔法で空を飛ぼうにも、足を魔法で切られてしまえば地面に落ちるだけ。
ならば潔く立ち向かおうにも、エリモアにはもう強い攻撃魔法を扱えるだけの魔力が残っていなかった。
息も切れ切れに森へと入り込んだが、追っ手はまだやってくる。
ここから山の国の陣営に帰るまで、まだ距離はある。
怪我も完全にないわけではないエリモアは、いよいよ万事休すかと、大木に背を預けて腰を落とした。
背後からは、いまだに追っ手の声がする。
「……時間の問題、ね」
独り言ちたエリモアは、自分の手が震えていることに気付いた。
「……いずれ死ぬのはわかっていたはずよ」
なかなか死なないマッドと出会ったことにより、生き延びられる可能性が出てきたと思っていたのだろうか。
それとも、自分の実力であれば国境すら突破し、生き残れると信じていたのだろうか。
「おい、こっちの草に血がついているぞ」
「追え。生き残りを探すんだ」
追っ手の声と足音が、近づいてきている。
最後に大きな魔法を放ち、敵諸共死んでやろうか。
それが国のために働くということなのだろうか。
それか、どうにかして生き残るのか。
「生き残ったところで……」
自嘲してから、でも、とエリモアは続ける。
「結局マッドの最期を……見届けられなかったわね」
彼はどこで戦っていたのだろう。
目で追えなくなってから、マッドの姿はあっという間に見失ってしまった。
これまでのバーサーカーと同じように、どこかで死んでしまったのだろうか。
はたまた、いまだに戦場で暴れ続けているのか。
「まあ……どうでもいいか」
誰に気付かれることなく死ぬのは、この戦場に身を置くのであればだれもが同じこと。
背後に迫る足音が近い。
エリモアは、ついに覚悟を決めた。




