第5話:憐憫
使い捨ての命であるはずなのに、何度も生きて戻ってくるバーサーカーをマッドと名付けたエリモアは、やがて彼に対して哀れみを感じるようになった。
バーサーカーになるということは、何かしら理由があったのだろう。
だが死ぬことが確定している未来に、誰が喜んで身を投じるというのか。
マッドも本来であれば山の国でごく一般的に暮らす、普通の青年だったのではないだろうか。
いいや、男であればなおのこと戦場に投入されただろうか。
そうなっていたとしても、こうして自らの意思がないような存在になることはなかっただろう。道具として死ぬより、人間として死んだ方がいいに決まっている。
「でも、あなたみたいに道具になっちゃったほうが、気は楽なのかも」
今日も仕事を終えたマッドの意識を奪い、エリモアは語りかける。
いつしかそれが日課となっていたのだ。
「私はね、ただ魔法が上手なだけだったの。それだけで軍に売られたのよ」
当たり前だが、意識を奪われて眠るマッドは何も反応を示さない。
「もちろん嫌だったわ。戦争なんて、おじいちゃんやおばあちゃんの世代の人たちが勝手に始めたことなのよ。私は戦争を始めていないし、していることに賛成もしていない。でも、やらないと死んでしまうから、やるしかなかったの」
エリモアは、今日の戦で切り傷ができた自分の手の甲を撫でた。
「だからもう、人の命を奪うことに何も思わない。奪わないと、私は生きていけないから。あなたも同じだろうけど……でも、もしあなたがその圧倒的な力を持ったまま、正気になれるのなら……」
そこまで呟いて、エリモアは首を横に振った。
「……いいえ、夢物語ね。あなたが全てを破壊し尽くして、何もかもを暴力で支配してくれたら戦争が終わって、私もやっと暇になれると思ったけど……」
傍に掲げてある松明の火は、変わらずに燃えている。
「戦争は、私たち山の国が優勢よ。マッド、あなたの活躍のおかげでね。明日は今まで以上に、国境に近づく。きっと、昨日や今日よりもっと苛烈な戦いになるわ」
細かな傷が増えたマッドの頬を撫で、エリモアはその場から立ち上がった。
「ついに死ぬのか、それともまた生き残るのか……見ていてあげるわ」
ひくり、と何かをくすぐったがるかのように、マッドの口の端が動く。
だが目覚めることのない獣を見つめ、エリモアは明日の戦いに備えて休息に入るのだった。




