第4話:生存
夕暮れが訪れようとしていた。
エリモアは対面していた湖の国の魔法使いをまとめて水の球体に沈め、その命を奪ったところだった。バーサーカー指揮官に任命はされたが、それでも戦うことは強いられていたのだ。
これで今日の戦は終わったようだ。もうすでに湖の国の陣営は敗走しているし、エリモアの所属する山の国の陣営も、撤退準備を進めている。
「エリモア」
名を呼ばれ、振り向く。
司令官である男が、エリモアの向こう側を指差した。
「ちゃんと持って帰ってこい」
その指の先を見てみると、エリモアが放ったバーサーカーが死体を殴り続けていた。
あまりの暴れっぷりに、周りには誰もいない。
遠巻きに見ていた魔法使いや魔女たちも、早々にその場を離れていた。
「あら、生き残ったのね……」
エリモアは風の魔法で上空からバーサーカーに近づくと、速やかに意識を奪う呪文を唱えた。
バーサーカーはあっけなく眠りについたので、そのまま風の魔法で巨体を持ち上げ、再び荷車に運びこむ。近くに控えていた他の魔法使いたちは、バーサーカーを布で覆い隠した。
そして翌日。再び戦の時がやってきた。
エリモアは同じようにバーサーカーの意識を呼び起こした。
今日はエリモアが視線を誘導せずとも、バーサーカーは雄叫びをあげながら戦場へと飛び込んでいった。
「他のやつとは違う感じがしたけど……結局、同じだったみたいね」
またも期待をせず見送ったエリモアだったが、その日も彼は生き延びた。
「まあ、二、三度は戻ってくるって言っていたし……」
その次の戦も、彼は生き延びた。
「そういうこともあるわよね」
そのまた次の戦も、バーサーカーは生き延びた。
今回は暴れに暴れまくり、味方も大勢殺した。
それでも、彼は生き延びたのだ。
「驚いた。死なないバーサーカーなんているのね」
何度も続いたそれは、偶然ではなかった。
幾度となく戦場に放っても、彼は必ず生きて帰ってきた。
どう数えても、これまでエリモアが指揮してきたバーサーカーの中でも、明らかに一番長く残っている。
次第にエリモアは、彼が戻ってくるのをしっかり待つようになった。
「今日もたくさん働くのよ」
エリモアの声に応えることはないが、バーサーカーはやはり生き延びる。
炎に焼かれれば土を被り、水に沈められれば驚異的な肺活量で逃げ延び、風で切りつけられても前へ進み、土が隆起し迫っても決して怯むことはしなかった。
今日も戦を終え、エリモアは彼の意識を奪う。そこへ、司令官の男がやってきた。
「ははは! 面白いバーサーカーだな。最近、仲間内で賭けをしているんだ。こいつがいつ死ぬのかとな」
「……悪趣味ね」
「まあ、そう言うな。娯楽は多い方がいいだろう? ちなみにお前はどう思う?」
「……多分、まだ死なないわ」
「そうか。指揮官殿の目は間違いないだろうからな、俺もそのように賭けておこう」
司令官の男が笑いながら去ると、エリモアは眠るバーサーカーの傷だらけの肩を撫でた。
「……あなた、本当にバーサーカー? もしかしたら、人間としての精神は残っているんじゃないの?」
そっと問いかけても、返事はない。
それもそうかと自分に呆れつつ、エリモアはもう一度その逞しい肩を撫でた。
「あの男と同じ趣味というわけではないけど……私も、あなたがいつ死ぬのか気になるわ。戦場で死ぬことになるのか、それとも……」
己の手を見て、エリモアは首を横に振った。
「おやすみなさい、マッド。明日も生き延びるのよ」
名を与えられてもなお、バーサーカーの返事はなかった。




