第2話:指令
数日後。山の国にある、軍事指令室にエリモアは呼び出されていた。
特別指令を下すためと聞いていたエリモアだったが、その内容に眉間を寄せるほかなかった。
「特例バーサーカー指揮官……?」
言われたことを復唱したエリモアに、司令官を務める男が頷いた。
「お前の魔力はとても高い、そして魔法を扱うのも長けている。それは、人を殺すだけの魔法というわけではないだろう?」
「まあ、そうね……対面相手を混乱させる、麻痺させる、眠らせる……そういった魔法も使えるには使えるけど」
「それを使って、バーサーカーを操るのだ。バーサーカーは通常時、魔法によって眠っている。戦闘時に目覚めさせ、そして戻ってきたら再び眠らせる。その間、お前は後方で見ているだけでいい」
「……あの子たち、戻ってくることなんてある? ただの使い捨てかと思っていたわ」
「二、三度は戻ってくる個体も時折いる。ほとんどはお前の言う通り、使い捨てになるがな」
司令官の男は、目の前のデスクに肘をついていたが、やがて椅子の背にもたれかかった。
「バーサーカーは、複数人の魔法使いたちが人間の身体にあらゆる魔法を施し、作り上げた戦士だ。それゆえ、弱い魔法なら跳ねのけてしまう。だがお前ならば、ひとりでどうにでもできるだろう」
「それはいいんだけど、あんな見境なく襲ってくるような奴の傍にいて、命の保証は?」
「だからこそお前が選ばれたんだ」
エリモアは、肩を落とした。おそらく以前のバーサーカー指揮官は、何かしらが原因で―おそらくはバーサーカーのせいで―死んだのだろう。
そこへ補充されたのが、エリモアというわけだ。
「はあ……まあ、いいわ。どうせ断れない命令なんでしょう」
「話が早くて助かるな。安心しろ。生きている限り、報酬は先日より多いぞ。せいぜい生き延びることだ」
「戦場で敵に囲まれて死ぬのと、味方であるはずの大男に踏み潰されて死ぬの、どっちが幸せなのかしら」
「そんなことは考えなくていい。考えるだけ無駄だからな」
司令官の男の言葉を聞きながら、エリモアは苛立った足取りで指令室を後にする。
文句を言おうにしても、エリモアにその資格はない。
この山の国では、魔女として戦場に立つことで、家族にも大金が入る。それを目当てに、エリモアの親は、エリモアを軍に売ったのだ。
何度も死に目を見てきたエリモアは、もっと早いうちに逃げ出したかった。だが逃げれば裏切り者として始末されることを、軍に売られた時から知っていた。
「本当に最悪。死ぬ日にちが早まっただけじゃない」
明日から始まる新しい仕事を前に大風呂に入り、浴びるように酒を飲み、そして泥のように眠る。
そうして苛立ちを誤魔化し、朝を迎えるのだった。




