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音符の雨

 明け方、友子は、ポロンポロン、ポン。ポロンポロン、ポン。

と、楽しい音で目が覚めた。


 窓を開けると、外はまだ薄暗かった。その薄暗い空から何かが降りてくるのが見えた。

目を凝らして見ると、それは水色の音符だった。

これは何?

そう思った友子は、確かめたくて静かに部屋の外に出ようとした。

そのとき「あれは雨よ」目覚まし時計が言った。

「起こしてごめんなさい」「雨なの?この街の雨は音符が()るの?」

友子は窓を開けて目覚まし時計に外を見せた。「そうよ、メラリンでは音符が()るのよ…ふぁ〜、おやすみなさい…」目覚まし時計はそのまま眠ってしまった。


 友子は目覚まし時計に布団を掛けると、静かに1階へ行き外へ出てみた。

空から()ってきた音符は、家の屋根や電信柱に当たりポロンポロン、ポン。と可愛い音を立てて弾けて消えた。

いつもなら、メラリンの街も静かに眠っている時間だが、今朝は可愛い音符の音が楽しく歌っていた。


 それはうるさくはなく、心地いいリズムだった。

友子の肩に当たってポロンポロン、ポン。

友子の頭に当たってポロンポロン、ポン。

肩に頭に足に、ポン。ポン。ポン。

友子が知っている雨のように、濡れたりしなかった。         


 友子は楽しくなって、つま先立ちでステップを踏んだ、子どもの頃に習ったバレーを身体が覚えていた。

誰もいない商店街で、友子は一人、街灯の下でパジャマ姿のままで踊っていた。


 明け方の夜空は曇りで、月も星も熱帯魚も見えないけれど、音符は可愛く踊りながらりてきた。

雨だけど、メラリンの雨はるというより、りてくる、の表現が合う雨だった。


 時間も忘れて踊っていたが、辺りが少しずつ薄明るくなっていたことに気がついた。

友子は慌てて部屋へ帰った。

今日も新しいメラリンに出会えたことが嬉しい友子だった。


 カフェが開店すると、数人の客が来て、その中にあの若い狼がいた。「おはようございます」水を持っていくと、狼はいつものように本に目を向けたままで「今朝、踊ってたね」と言った。

友子は慌てて小声で「見ていたんですか?」聞くと「夜勤明けでね、疲れていたんだけど、ちょっと癒されたよ」と、本に目を向けたまま微笑んだ。


 そして周りの客も「友ちゃん、今朝踊っていたって聞いたよ」って、言い出した。

見られていたなんて、友子は恥ずかしさが、今更のように込み上げてきた。

「みんなに言ったんですか?」

小声で尋ねる友子に「俺じゃないよ」狼はさらっと答えた。


 友子が、顔を赤くしてカウンターの中に入ると、「友ちゃん、電信柱だよ」「電信柱が今朝、話していたんだよ」

アリクイに言われ、友子はメラリンでは電信柱も喋ることを忘れていたのだった。

でも、済んだことは仕方ない。

友子は、あまり深く考えるタイプではないので、まぁいいか、そのぐらいに思っていた。


 その日の昼過ぎ、店の外に小さな女の子とお母さんらしき人がいるのが見えた。

友子はその女の子が誰なのかすぐに分かった。「ひまりちゃんだ!」

友子はそう言ってドアを開けに行った。

アリクイは驚いて、どうして?

そんな顔で、カウンターの中から外を見た。

やはり、アリクイの娘と奥さんだった。

「ひまりが、行くと言って聞かなくて…」

奥さんは申し訳なさそうな顔をして言った。


 「ひまりは、ずーっと友ちゃんに会いたい、って言っていたんだよ」と、アリクイが言った。

友子は「ほんと!ひまりちゃん、ありがとう」そう言って、ひまりの前にしゃがむと、ひまりは友子に抱きついてきた。

友子は嬉しくて、ひまりを抱き上げて、クジラと一緒に幼稚園の園庭で、走るひまりを見たことを話した。


 アリクイの奥さんとひまりに、友子のことを話したのは、アリクイ(マスター)だと思っていたら、電信柱が言っていたらしい。

友子がこの街に初めてきた日、アリクイが仕事を終えて帰ったときには、奥さんもひまりも友子のことを知っていた。


 アリクイは笑いながら「電信柱の伝達は早いからね」と、言うと、友子は朝のダンスを思い出し、苦笑いで大きく頷いた。


 アリクイの奥さんが「ひまり、友ちゃんに幼稚園のお遊戯会のお話したら」と言うと、ひまりはうつむいて黙ってしまった。

毎年、この時期にある幼稚園のお遊戯会。

ひまりのクラスでは「白雪姫」の劇をするのだが、ひまりの役は白雪姫で、ひまりはそれが嫌なようだ。


 友子はもう一度ひまりを抱き上げて、「ひまりちゃんの白雪姫、絶対に可愛いよ。私も見に行きたいなぁ」友子が言うと、アリクイが「この街では、幼稚園のお遊戯会は、けっこうなイベントでね、毎年かなりの人が集まるんだよ」「だからその日は店は休みだから、友ちゃんも一緒に行こうよ」アリクイの言葉に、友子とひまりは大喜びだった。

さっきまでの、沈んだひまりの顔もニコニコ顔に変わった。


 お遊戯会に行く約束を、友子と指切りをしてひまりは母親と帰って行った。

アリクイが「友ちゃん、ありがとう」と、言ったが、友子は本当に嬉しかった。


 その後すぐ、今度はクジラが一人の女性と入ってきた。

友子にお願いがあって来たと、クジラはその女性を紹介した。

落ち着いた雰囲気のその女性は、ひまりやハヤが通う幼稚園の園長だった。


 友子に当日、幼稚園のお遊戯会のお手伝いをして欲しくて、お願いに来たのだった。

友子は少し困ったように「私、『お遊戯会を見に行く』って約束したんです。その子の演技をちゃんと見たいんです。すみません」と、友子はその話を断った。


 クジラとその女性は、顔を見合わせて微笑んだ。そして女性は大きく頷いた。

「『是非、友ちゃんに』って、私からクジラさんにお願いしたんです。子どもとの約束を大切に思っていただいて嬉しいです」


 予想外の女性の言葉に友子は、えっ、そう思っているとクジラが話し出した。

「友ちゃん、友ちゃんらしいですね。だから友ちゃんにお願いに来たのですがね、お遊戯会は準備の時間は別にとってあって、園児の演技が始まると、先生達も会場で一緒に見られるんですよ」「だから演技も見られて、裏方も見られる。そういうことです。忙しい思いをさせてしまいますがね」その言葉を聞いた友子は安心して「是非、お手伝いさせてください」と笑顔で答えた。


 このとき友子は、沢山の園児がいるのだから、当然、手のかかる園児もいるだるう。

保育士も大変だろう。、少しでもお役に立てるように、そう思っていた。


 夕食のときハヤに聞くと、ハヤのクラスは魔女の見習いの話で、ミュージカル風だと言っていた。


 パン屋の家族もみんなで観に行くと言っていて、レンの小学校は休校らしい。

幼稚園に子どもが通っていなくても、観劇にくる人は多く、アリクイが言っていた「けっこうなイベント」の言葉を思い出していた。


 当日の朝「ハヤちゃん、友ちゃん」外でスクールバスが呼んだ。

友子は、お手伝いの為、みんなより早くハヤとスクールバスに乗って幼稚園へと向かった。


 幼稚園に着くと、もうチラホラ人が集まっていた。

まだ一時間以上あるのに…。そんなことを思いながら園児達と幼稚園に入っていった。


 そこは、友子が子どもの頃通った、幼稚園よりも広くて、園の中も外も沢山の遊具があり充実していた。

園児の数も多く保育士の数も多かった。


 「おはようございます」挨拶をする友子に、保育士達は「お願いします」「助かります」と喜んだ。


 「これほどの園児がいると大変ですよね」友子が言うと、一人の保育士が小声で「園児はどの子も良い子で、手がかからないですがねぇ…」と言って保育士が見る先には、小道具、平均台に、マット、小さなトランポリンになどがあった。

それぞれが、自分の出番が少ないと言って揉めていた…。


 はぁ…、友子が呆気にとられていると、機嫌を取っておかないと、舞台で、勝手に張り切りすぎるので、園児より手がかかると、保育士が困っていた。


 中でも箒が一本、大声を上げて泣いていた。

ハヤのクラスの、魔女の見習いのミュージカルの箒のようだ。

箒はそれぞれ園児とペアを組んで、お揃いのリボンを結んで、一緒にダンスするらしいのだが、この日、園児の一人が休んで、その箒の出番がなくなったらしい。


 ハヤとハヤの箒はピンク色のお揃いのリボンをしていた。

箒が「ハヤちゃん、私と踊って…」と、ハヤに泣きついた。

友子は「箒さん、ダメよ。ハヤちゃんを困らせないでね」

そう言って、友子は保育士に相談をした。


 その箒と友子がペアを組んで、一緒にダンスをするのはどうか?と、提案した。

保育士は、願ってもない話だというように喜んで、是非と、お願いされた。


 友子は、控え室の隅で、ハヤにダンスを教えてもらって準備をした。ダンスも台詞も一通り覚えたころ、園長のお遊戯会の開演の挨拶が始まった。

友子は関係者に混ざって一番前の席で見ていた。

関係者はすぐ動けるように、との配慮だが、特等席だった。


 一組目は、ひまりのクラスの「白雪姫」だった。

友子は、ひまりからもよく見える場所で観た。ひまりは昨日のような沈んだ顔はなく、小さな可愛い「白雪姫」を演じていた。堂々と可愛い「白雪姫」を演じきったひまりに、友子は心からの拍手を送った。


 ついにハヤのクラスの順番が来た。

友子は保育士に箒とお揃いの黄色のリボンを髪に結んでもらった。流石に恥ずかしかったが、黄色のリボンを結んでもらって喜んでいる箒を見たら、今更言えるはずもなかった。

友子もこの歳になって、大きなリボンをつけて箒とダンスをするとは、想像もしていなかった。


 小さな園児と箒がペアで舞台に上がっていくのだが、最後は友子と箒のペアだった。

会場が少しザワザワッ、と、した。

でも、それは友子を応援する良いザワザワだった。

友子はダンスも台詞も完璧に覚えて、園児達の舞台を台無しにしないように真剣に取り組んだ。


 終わった後、友子は箒と抱き合って「頑張ったねぇ」と喜びあった。

お遊戯会が終わると、園児や観客に軽食とジュースが配られた。


 友子はハヤとひまりの手を引いて、

パン屋の家族とアリクイ夫婦のところに行った。クジラも来ていて「友ちゃん、お疲れさま、まさか友ちゃんも出演するとは、思っていなかったのですが、素晴らしかったですよ」と称賛した。

友子は朝から始まって、大きなリボンをつけてダンスをするに至った、一部始終を話した。


 友子はこの街に来て、出会った不思議を改めて感動するように話した。

最初に会った、空を泳ぐ大きな魚や龍から、さっきの大泣きする箒まで、全てが最高だと。


 そして、友子の世界で降る雨の話をすると、子ども達は「空から水が降るの?」「濡れないの?」と驚いたように聞いた。

友子が傘や長靴の話をすると「それも楽しそうですね」とクジラ達は笑った。

パン屋の奥さんが「この街の雨はね、音符だから、みんな『結婚式』とかお祝いの日に降って欲しくてね」と、言うと、アリクイの奥さんが「それが、なかなか降ってくれないですよね」と、二人で優しい笑みを浮かべていた。


 結婚式に音符の雨!素敵だなぁ…。と思いながら、友子は歩いた。

「友ちゃんの結婚式も音符の雨が降ると良いですね」と、言われ「はい」素直にそう思った。

友子は「まずは頑張って相手探しです」と、笑ってみんなで帰って行った。


 夜、友子が寝ていると、目覚まし時計が「友ちゃん、起きて起きて」とベルを鳴り響かせた「熱帯魚が大変よ!」

友子は目覚まし時計のベルで飛び起きた。


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