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月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


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7

「…………月猫庵のオーナーです」

観念したように口を開いた瞬間、テーブルの空気が一気に弾けた。


「月猫庵?」

兄嫁・麗香が目を丸くする。

「昴流さんがよく通ってるカフェ?」


「はい」

昴流がにこりと笑い、すらすらと続けた。

「美味しいコーヒーを淹れるオーナーで、ロシア人とのクォーター。

髪は明るめの茶色で、猫みたいにコロコロ表情が変わるお嬢さんですね。

年齢は二十四歳。名前は――月代花楓さん」


「きゃーーっ!」

母・綾子、姉・彩織、そして麗香までもが揃って声を上げる。


「まぁ素敵!」

「若いじゃない!」

「可愛い響きの名前ね!」


興奮と歓声に包まれたテーブルの中心で、俺は黙々とカップを持ち直す。

……居心地が悪い。

視線を逸らしても、家族の好奇心は止まらない。


「煌牙にそんな相手がいたなんて!」

「やっぱり冷たい顔してても、そういうところはあるのねぇ」


笑顔に囲まれながら、俺はひとり小さくため息をついた。


(……完全に、嵌められたな。昴流のやつめ)


ちらりと横を見れば、末弟は得意げにデザートのカットフルーツを頬張っている。

知らん顔をしながら、その目は確かに笑っていた。


俺が絞り出すように答え、女性陣の歓声が一段落したその時。


父・朝紀がふと目を細めた。

「……あれ? その店って……」


すぐに背後の秘書・吉河を呼びつける。

「吉河さん。あの候補地の資料を」


「畏まりました」

吉河は即座に黒革のフォルダーを持って戻り、父の前に差し出す。


ぱらりとページをめくった朝紀は、あっさりと言った。

「あぁ、やっぱり。月猫庵の土地――うちのホテルの別邸建設候補地だね」


「……っ」

手の中のカップがわずかに震える。


「つい最近、権利をうちが買い取った。立ち退き交渉は、先週から役員たちが動いているはずだ」


テーブルの空気が凍った。

母も姉も麗香も、顔を見合わせる。


昴流が唇を引き結び、静かに俺を見た。

「……兄さん」


頭の奥で血が逆流する。


花楓の笑顔。


おじいちゃんの大切な場所だから私が守るの…と言った声。


それを、俺たち鷹峰グループが奪おうとしている。


胸の奥で、怒りにも似た熱が込み上げてきた。


「…………父さん。その権利を俺にください」


沈黙が落ちた。

家族全員の視線が俺へと集まる。


父・朝紀はナイフとフォークをそっと置き、目を細めた。

「いいけど……じゃあ別邸建設はやめるのかい?」


「いえ」

俺は首を振った。

「他に候補地を見つけます。その代わり――その権限を俺にください」


息を呑む気配が、テーブルを包む。

普段なら口を挟む姉も母も黙り込んでいた。


朝紀はゆっくりと背もたれに身を預け、俺をじっと見据える。

長い沈黙のあと、低く言った。


「…………いいよ。好きにしてくれて」

そして、わずかに笑みを浮かべる。

「私は、結果を出せると信じてるよ。――両方ね」


「……両方」

その言葉の重みを胸で噛みしめる。


花楓を守ること。

鷹峰の事業を守ること。

どちらか一方ではなく、両方を成し遂げろ――父はそう言ったのだ。


俺は深く息を吸い、背筋を正した。

「……承知しました」


その瞬間、昴流が小さく笑みを浮かべたのを横目に見た。

(やっぱり兄さんだな……)とでも言いたげに。




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