5
兄・煌牙とラウンジで別れ、ホテルの外に出る。
夜風がひやりと頬を撫でる中、ぼく――鷹峰昴流はスマホを取り出した。
画面に映る連絡先から、迷わず「夕樹兄さん」の名をタップする。
コールが繋がり、落ち着いた声が返ってきた。
『昴流? どうした』
「――あっ、夕樹兄さん? ちょーっと話あるからさ、来週の朝食会、予定変えてほしいんだ」
『……え? 無理だろう。会議も詰まってるし』
「無理じゃなくて、なんとかするの。兄さんならできるでしょ?」
軽い口調で甘えるように言いながらも、語尾に強さを込めた。
短い沈黙。
そしてため息混じりに、兄の声が返る。
『……わかった。調整する』
「ありがと。やっぱり夕樹兄さんは頼りになるな」
満足げに微笑み、ぼくは通話を切った。
夜空を仰ぎながら、ポケットにスマホをしまう。
(――兄さん。自分じゃ認められなくても、周りが後押ししてやるからな。
花楓さんのこと、ちゃんと掴まないと……勿体ないよ、覇王には)
通話を切ったあと、スマホをポケットにしまいながら、ぼくは小さく息を吐いた。
兄のことを思えば、背中を押してやりたい気持ちはある。
でも――。
(……今風に言うなら、ムカつく)
夜空を見上げ、心の奥で呟いた。
(僕が最初に見つけたんだ。
花楓さんの店も、あのコーヒーの味も、全部。
兄さんより先に“ここは特別だ”って気づいたのにさぁ……)
胸の奥が少しだけチクリとする。
悔しいような、照れくさいような。
それでも、笑みが漏れる。
(……まぁいいや。兄さんが覇王面してるより、恋に困って右往左往してる方が、ずっと面白いしね)
軽口の裏に、ほんの少しの寂しさを抱えたまま、昴流は歩き出した。




