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煌牙は花楓と昴流を車に乗せ、急いで鷹峰総合病院へ向かった。
夜のエントランスを抜け、二人を支えるように院内へ入る。
「頼む、すぐ診てやってくれ」
受付に告げると、看護師たちがすぐに対応に走った。
診察室へ案内された先には、白衣姿の弥生がいた。
「……昴流、ひどい怪我ね。花楓さんも検査しましょう」
淡々とした口調だが、血のついた制服を見て瞳がわずかに揺れる。
昴流は打撲と裂傷の処置を受け、花楓も念の為検査へと言われた。
煌牙はその様子を黙って見守り、落ち着いたところで弥生に声をかけた。
「……あとは頼む」
「ええ。任せて。あなたは行ってきて」
弥生の短い返事を受け、煌牙は病室の花楓へと歩み寄る。
彼女は不安げに視線を上げ、震える声を漏らした。
「……行くの?」
煌牙はその手を握り返し、真っ直ぐに答えた。
「ああ。お前の代理として警察に説明する。全部、俺が話すから心配するな」
花楓の目に涙が滲む。
「……すぐ、帰ってきて」
「すぐ戻る」
頬に触れ、低くそう告げると、煌牙は病院を後にした。
―――診察を終え、処置室を出た昴流は腕に包帯を巻かれていた。
打撲に裂傷……見た目は痛々しいが、幸い内臓や骨には異常がないと医師は告げていた。
その安堵の空気の中、病室の扉が開き、綾子が足早に入ってきた。
「昴流……!」
駆け寄り、その顔を見て、張り詰めていた表情が一気に崩れる。
「……良かった……無事で……」
綾子の声が震え、昴流は少し照れたように目を逸らした。
「母さん、大げさだよ。大丈夫だから」
その隣で花楓が深々と頭を下げた。
「ごめんなさい……私のせいで、昴流くんが……」
強く言葉を絞り出す花楓に、昴流がすぐに否定する。
「違う! 姉さんのせいじゃない!」
その声音には、大切だという想いのこもる強い絆があった。
綾子は二人を見つめ、静かに花楓へ歩み寄る。
そしてその肩にそっと手を置き、優しく微笑んだ。
「そうよ。花楓さんも……私の娘。無事で、本当に良かった」
その一言に、花楓の瞳からまた涙が溢れる。
けれどそれは、恐怖や罪悪感からではなく―守られているという温かさに包まれた涙だった。
綾子は涙ぐむ花楓を、そのまま優しく抱きしめた。
「大丈夫よ……」
その温もりに包まれ、花楓は声にならない嗚咽を漏らしながら頷いた。
少し離れたところで、弥生がカルテを閉じる。
「……また明日、病院に来てください。昴流くんもしばらく安静です。花楓さんも念の為2日ほど通院してください。」
花楓は涙を拭いながら「はい」と小さく返事をした。
―――
夜更け、鷹峰の家へ戻ったとき。
居間にいた朝紀が立ち上がり、花楓の姿を確認すると、安堵したように深く息を吐いた。
「……無事で良かった」
花楓は思わず胸に込み上げるものを抑えきれず、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます……お義父さん」
その一言に、朝紀は目を丸くし、次の瞬間――
「……聞いた? 今、聞いた? “お義父さん”って……!」
こらえきれず満面の笑みで涙を流す。
傍らで綾子と彩織が顔を見合わせ、思わず吹き出した。
「ちょっと、あなた……落ち着いて」
「でもまぁ……気持ちは分かるわね」
泣き笑いの空気が広がる中、花楓は顔を真っ赤にして俯いた。
(……やっと、家族になれた)
家の中に漂う温もりは、彼女がずっと欲していた「居場所」そのものだった。




