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昴流が床に倒れ込み、花楓は必死にその前に立ちはだかっていた。
眞人はスマホを掲げて卑しく笑う。
「五百万。それと、うちの会社との取引。嫌ならこの写真、ばらまくぞ」
画面に映る過去の写真に、花楓の顔から血の気が引く。
昴流は震える体で立ち上がろうとしたが――
「それは脅迫罪だ。」
低い声が入口から響いた。
煌牙とともに現れたのは、スーツ姿の男。
鋭い目を持ちながらも落ち着いた佇まいの白髪の……
「暴行傷害もですよ。」煌牙が冷ややかに告げる。
「誰だよ、てめぇ!」眞人が怒鳴る。
男は静かに名乗った。
「俺は警視庁刑事部長・大岡修司。……ここの常連だ」
花楓は目を丸くする…京子に帰れと怒ってくれたいつもコーヒーとクッキーが好きな常連のおじさん。おじいちゃんの友達の大岡さん。…知らなかった。
空気が一段固くなる。大岡は淡々と告げる。
「未成年に暴力を加えた件は傷害に該当し得る。さらに“写真をばら撒く”と告げて金や便宜を要求した今の発言は恐喝、公然と名誉・プライバシーを害する示唆は脅迫にも当たり得る。」
眞人の頬が引きつる。「は、脅してねぇ――」
と言い終える前に、逆上して拳を振り上げた。
「ふざけんな!!」
「公務執行妨害だ。現行犯逮捕。」
大岡が一歩詰め、振り上げた腕を掴んで外旋で捻り上げる。体勢を奪われた眞人の重心を肩で流し、床へ制圧投擲。鈍い衝突音。続けて背部を押さえ込み、手錠が小さく鳴った。
「抵抗するな」
うめく眞人を無視して、大岡はスマホを押収し、証拠保全のために電源を切る。
「大岡眞人、あなたを暴行・傷害および脅迫・恐喝の容疑で現行犯逮捕する。黙秘権・弁護人選任権がある。詳細は署で聴く。」
大岡は素早く手錠をかけ、淡々と告げた。
―――――
大岡は手錠をかけた眞人を部下に引き渡し、振り返った。
まだ顔色の悪い昴流と、泣き腫らした目の花楓が立ち尽くしている。
「……とりあえず病院へ行け。いいな?」
その声音は命令というよりも、確かな庇護の響きを持っていた。
花楓は唇を噛み、こくりと頷く。
「それと、明日は店を休んでゆっくりしな。泣きすぎて……ひでぇ顔してるぞ、花楓ちゃん」
大岡はふっと笑い、ニカッと歯を見せる。
「……頑張ったな」
大きな手が花楓の頭に乗せられ、優しく撫でられる。
涙がまた零れそうになったが、今度は温かい安堵の涙だった。
昴流もその言葉に救われたように、弱々しく笑みを浮かべる。




