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月猫庵の花嫁様 〜俺様社長に嫁入り!?〜  作者: 愛龍


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創立記念パーティーの後…


静かで穏やかな日々が続いた。


―夕暮れ、月猫庵の暖簾が赤く染まる。

客足が途絶えた店内で、花楓はカウンターの奥から顔を出した。


「今日、兄さん遅いね?」

昴流がカウンターに頬杖をつきながら言う。

「ついでに送ってもらおうと思ってたのに」


花楓は小さく笑みを浮かべた。

「ふふっ、今日は忙しいのかもね。……昴流くん、よかったら賄いなんだけど、カレー食べていかない? お夕飯に」


昴流の瞳がぱっと輝く。

「やった! じゃあ僕、暖簾下げてくるよ。それから片付けも手伝う」

軽やかな声を残して、暖簾を取りに駆けていく。


花楓は鍋の蓋を開け、香り立つスパイスの匂いに胸が和む。


「……昴流くんの“姉さん”って呼び方、なんだか可愛いな」

小さく呟いて、皿を並べ始めた。


戻ってきた昴流が嬉しそうに言う。

「姉さんのカレー、好きなんだ。ホテルの味も美味しいけど、こういう家庭の匂いがするの、落ち着く」


「……ありがとう」

花楓はスプーンを手に取り、微笑む。


―――――――



「ごちそうさま。やっぱり姉さんのカレーは最高だな」

昴流が皿を置いて、にかっと笑った。


花楓も胸の奥が温かくなる。

「ふふっ……そう言ってもらえると嬉しい」


暖簾はもう下ろし、店内は二人きり。他愛のない会話。煌牙の事。学校の事。将来のこと…


閉店後の静けさとスパイスの香りに包まれた、穏やかな時間だった。


――その時。


カラン……。

閉めたはずの扉の鈴が鳴った。


「……?」

昴流が振り返る。

そこに立っていたのは、嫌悪すべき影。


池田眞人だった。


「……眞人……」

花楓の声が震える。


眞人は勝手知ったように足を踏み入れ、にやりと笑った。

「へぇ……閉店後にカレーか。いい匂いだな、家族団欒みたいで」


昴流はすぐに立ち上がる。

「誰だよ、あんた」


眞人は答えず、ポケットからスマホを取り出すと、画面を二人に突きつけた。

そこに映っていたのは――眠る花楓の裸の写真。


「……っ!」

花楓は息を呑み、昴流の目が見開かれる。


「昔の彼女だよ。可愛いだろ? こういう“記念品”は役に立つんだ」

眞人は愉快そうに肩を揺らした。


「やめろ!!」

昴流が叫んで飛びかかる。


だが次の瞬間、眞人の拳が容赦なく振り抜かれた。

鈍い音とともに昴流は床に叩きつけられる。


「がはっ……!」

口の端から血がにじむ。必死に立ち上がろうとするが、眞人の足が容赦なく脇腹を蹴りつけた。


「餓鬼が。御曹司だがなんだか知らねぇけど――お前らは俺のおもちゃだ」

眞人の目が冷たく光る。


花楓は震える声で叫んだ。

「やめて!! 殴るなら……私を殴ればいい!」


昴流が血に濡れた顔で「姉さん……!」と叫ぶ。

だが花楓は必死に彼を庇うように立ちはだかる。


眞人はそんな二人を見下ろし、にやりと笑った。

「ほぉ……いいねぇ。その必死さ。――なら交渉だ。五百万。それと、鷹峰グループにうちの会社との取引を優先してもらう。そうすりゃこの写真は封印してやるよ」


スマホの画面が鈍く光り、二人を脅迫するように照らしていた。


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