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彩織が手際よく花楓の口紅を直しているところへ、綾子と煌牙が戻ってきた。
煌牙は不本意そうに顔を背けるが、どう見ても「母に叱られた息子」の姿だ。
「……久しぶりね」
彩織が筆を動かしながら笑う。
「煌牙がお説教されてるのを見るの。昔はやんちゃだったから」
綾子もすかさず乗る。
「そうそう。窓ガラス、何枚交換したかしらね。庭の木も勝手に切り倒して……あの時は業者を呼ぶのに苦労したわ」
「母さん……!」
赤くなった顔を逸らす煌牙。
花楓は一瞬驚いたが、すぐに口元を押さえて小さく笑った。
「……そうなんですか? 今の煌牙さんからは想像できません」
「でしょう?」と彩織が目を細める。
「でもね、あの頃から変わらないのは―思い立ったら一直線ってところ。子供のころからそうなの」
「……だから余計に手がかかったのよ」
綾子はわざとらしくため息をつきながらも、その目は優しく花楓に向けられていた。
和やかな笑いが広がり、会場のざわめきの中でも、そこだけは家族の温もりに包まれた小さな輪が生まれていた。




