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創立記念パーティー当日………
煌びやかな照明が反射する鏡の前。
花楓はプロの手によって丁寧にヘアメイクを整えられ、まるで別人のような輝きを纏っていた。
柔らかくまとめられた髪、青のドレスに映える白い肌。そして、祖母譲りの緑の瞳には――俺の姿がはっきりと映り込んでいた。
「……変?」
おずおずと問いかけるその声に、胸が熱を帯びる。
「……いや」
息を吸い込み、言葉を押し出す。
「……綺麗だよ。閉じ込めてしまいたいくらいに」
花楓は驚いたように瞬き、次いで頬を赤くして照れ笑いを浮かべた。その姿がまた、俺の理性を試す。
思わず手を伸ばし、彼女を引き寄せる。
視線が重なり、唇が触れそうになったその瞬間――
ぐい、と首の後ろを掴まれた。
「コラッ!」
振り返れば、満面の笑みを浮かべた母さん――綾子だ。
「口紅が落ちるでしょ! 終わってからにしなさい!」
ぴしゃりと叱るその声に、花楓は恥ずかしそうにうつむき、俺は真っ赤になって母さんの手を振りほどいた。
「……ったく」
舌打ちをしながらも、心臓の鼓動は止まらない。
彼女を閉じ込めておきたい、そんな衝動だけが胸に残っていた。
会場の扉が開いた瞬間、煌びやかな照明の下に二人の姿が現れた。ざわめきが広がり、視線が一斉に注がれる。
――あれが鷹峰の社長夫人か。
――カフェの娘だって?
――ずいぶん綺麗な……
好奇の目、値踏みする目、羨望と嫉妬が入り混じる。
花楓の肩がわずかに震えた。
俺は迷わずその肩を抱き寄せる。
「……大丈夫だ」
短く囁くと、花楓は俺を見上げ、小さく頷いた。
やがてステージ上に立った父―鷹峰会長・朝紀が、マイクを手にした。
会場のざわめきが静まる。
「本日は鷹峰グループ創立記念パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
落ち着いた声が広がり、空気が一気に引き締まる。
「我々鷹峰は、創業から今日まで“信頼”を礎として歩んでまいりました。
地位や格式よりも、実績と情熱。―それが、この会社を大きくしたと信じています」
その言葉に、親族や役員たちの表情が一瞬動いた。
父は穏やかな笑みを浮かべながら続ける。
「ですから、婚姻についても同じこと。
息子たちは皆、己の信じた道を歩み、結果を残してくれています。そして今日―また一人、新しい家族を迎えることができました」
視線が、俺と花楓に注がれる。
俺は花楓の手を取り、堂々と掲げた。
会場がざわめく中、父の声が響く。
「紹介しよう。……鷹峰 煌牙の妻、花楓です」




