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煌牙と花楓は、創立記念パーティーのお披露目に向けて慌ただしい日々を過ごしていた。
打ち合わせ、準備、そして日々の仕事。
気を張り詰めた忙しさの中にも、少しずつ二人の距離は縮まっていく。優しく…確かめ合うように…。
その頃。
ホテルのラウンジの片隅で、ひとりつまらなそうにグラスを傾けている男がいた。
池田眞人―
「……ほんとに玉の輿とはな」
新聞の記事を眺め、鼻で笑う。
視線の先には、煌牙と花楓の婚姻を報じた見出しが踊っていた。
眞人の脳裏に、かつての記憶が蘇る。
付き合っていた頃、花楓に手を挙げたことは一度や二度ではない。理由は自分に取ってはいつも些細なこと――だが根っこにあるのは、自分の女癖の悪さだった。そのせいで、たった半年で彼女は離れていった。
だが。
眞人には、「秘密」がある。
かつて、友人たちの間でおもしろ半分に回していた“コレクション”。
寝ている女たちの裸を盗み撮った写真のデータ。
その中には―花楓のものも、混ざっていた。
眞人の口元にいやらしい笑みが浮かぶ。
「噂で聞いてたが、ほんとに社長夫人かよ。……使えるな」
眞人は、ラウンジでグラスを回しながらスマホに届いた予定表を眺めていた。
勤め先の社長は中堅の建設会社のトップ。
鷹峰グループとの取引を狙っており、次の創立記念パーティーに招かれていた。
「へぇ……いいねぇ」
画面に目を細め、口角を吊り上げる。
眞人はその社長の秘書として、当然同席する。
お祝いの場。だが彼にとっては別の意味を持っていた。
「……玉の輿に乗った花楓、か」
かつて暴力を振るい、女遊びの果てに捨てた女。
だが今は「鷹峰社長の妻」として世間に持て囃されている。
「うちの社長と鷹峰を繋げるカードにしてもいい……あるいは、俺のポケットを膨らませる金づるにしてもいい」
にやりと笑みを浮かべ、グラスを飲み干す。
鷹峰グループの創立記念パーティー。
そのきらびやかな場に影が忍び寄ろうとしていた。




